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第6話 似合う服と、似合わない距離

第6話 似合う服と、似合わない距離



<グロッキー、女子と買い物に行くときの服装ってどうすればいい?>


《うぇっぷ、服を買いに行く服がない問題だってぇ? 人類未解決の永久機関だぜぇ》


 確かに、外見を変えるために外見を選ぶのはどうなんだろう。


「これでいいかなぁ……」


 結局、迷った末に選んだのは無難な服装だった。



◆◇◆



 何度か来たことのある隣街のショッピングモール。

 指定された待ち合わせ場所に15分前に到着した。


「ん? よく考えればこれ、デートだよな」


 強引に連れ出された感があったせいだろう。

 現地に来てから気付くという間抜けっぷりだった。


 だけど彼女から誘われたし、彼氏持ちだし。

 俺はお手伝いだからデートと思わなければ良いはず——


「おはよ~、時間前に来てるじゃん、いいね!」

「佐倉か、おはよ……」


 プライベートの私服を初めて見たというのもある。

 でも、学校より少し大人っぽくて、佐倉らしい明るいファッション。

 見違える、という言葉の意味が理解できた。


「お、陽斗フリーズした? 今日のあたし、そんなに可愛い?」

「いや、まあ……服が」

「服だけ?」

「……似合ってる」

「はい、八十点。そこは素直に可愛いって言いましょう」


 いつもの調子の佐倉だった。


 高校になって初めての女子とのプライベート。

 制服でない姿にちょっと慣れない。

 慣れないけど、佐倉らしい居心地の良さはそのままだった。


「よーし、早速行こう。まずはお礼ね、あたしの服選び」

「おう」


 意気揚々と進む佐倉と並んでアパレルショップを巡った。

 佐倉は小物を見たり、服を広げて当てがったり。

 モールを半周するのに1時間以上かかった。


 でも彼女は「似合う?」と俺の反応を楽しんだくらいで特に買い物はしない。

 荷物持ちをさせられると思ったんだけどな。


「ふー、満足! それじゃ本題、陽斗の服を見に行こうか」

「え?」

「え、じゃないよ。そんな“無難な服装”じゃ基礎工事(・・・・)、終わらないよ」


 すっかり荷物持ちのつもりでいたので忘れていた。

 そうだ、俺の『恋愛基礎体力改善計画』の、外見。


 勢いで店に飛び込んでいく佐倉の後を追った。

 すると、あれ、これ、と次々と俺に服を渡してくる。


「これもいいね。あ、これもかな」

「ちょ、ちょっと待て。こんなに買えないぞ」


 一着で小遣い一ヶ月分近くになるものもある。

 いくら良くても買える気がしない。


「なーに言ってんの? 全部買うわけないじゃん。試着だよ、試着」


 俺がフリーズする前に背中を押されて試着室に入った。


「ほら、上から順にコーデしてあるから。着替えてみて」

「わかったよ」


 慣れない試着室の鏡に映る等身大の自分。

 無難な服から、選んでもらったコーデに。

 すると見慣れない姿に違和感しかなかった。


「着替えたぞ。これでいいか?」

「うん——……」

「おい、佐倉?」


 考え事をしていたのか、佐倉の反応が鈍い。


「……あ、うんうん! 良いね良いね! 馬子にも衣装」

「こら」


 冗談の言い回しでも考えていたのか。

 でも全力で頷いて肯定してくれてる。


「変じゃないか、これ?」

「似合うって! 見慣れてない、着慣れてないだけ。素材は良いんだから」

「素材って言うな」

「良いから。ほら、次、次!」


 カーテンを閉められる。

 積まれた次の服へと着替えていると外で声がした。


「あれ? 紗雪じゃん」

「え? 佐倉さん」


 は? 紗雪?

 なんでこんな場所にいるんだよ。

 こちとら試着中だっての、出るに出られないじゃないか。

 

「ちょうど良いや、見ていきなよ」

「え、何を……?」

「もう良いよね、ご開帳~」

「あ、こら!?」


 カーテンが開かれる。

 心構えもなく、彼女らの視線に晒された。

 俺の反応を楽しみにしているのか、にやにやしている佐倉。

 参考書を買ったのか紙袋を片手に驚く紗雪。


 ——慣れない服装だから羞恥心が強い。


「おー、良いじゃん良いじゃん! 格好いい~」

「…………」


 佐倉は褒めてくれる。

 紗雪は一瞬だけ目を細め、またいつもの氷の表情へ戻った。


「ねぇ、どう、紗雪? 陽斗、良いよね?」

「……水瀬君は、首元が詰まりすぎるものは苦手なのでは」

「え?」

「それから色味はもう少し落ち着いていたほうが」

「え、そうなの?」

「……一般論です」

「一般論? ふーん……」


 なんだか微妙な品評が行われていた。

 微妙な気分になって俺はさっとカーテンを閉じた。

 自分の服に着替えながら、この後にどうするかを逡巡した。



◆◇◆



 あたしは前から、紗雪と陽斗のことが気になっていた。

 クラスではほとんど話さない。

 なのに、視線だけはやたらと交わる。


 でもこのふたり。

 学校ではほんとうに接点がない。

 もしかして幼馴染を皆に隠すために喋らないようにしてる?

 家に帰ったら仲良くしてるのかな?


 疑問はたくさん思い浮かんだ。

 彼に聞いても会長とは何でもない、という。

 でも何でもなくない。

 そんなの見れば分かる。

 だからあたしは友達してるのに。


「よしっ! 一緒に陽斗のコーデをしよう!」


 あたしは陽斗と会長を連れ回した。

 どうせ気になって来ちゃったんでしょ、会長。

 だったらあたしにプライベートなところ見せて?


「ほら、これなんてどう?」


 あたしは流行りのポップなものを選ぶ。

 遠慮がちの会長に無理に選ばせると、シックな雰囲気のものを選ぶ。

 そして陽斗にどちらが良いか二択で迫れば会長のチョイスを選ぶ。


 こ、こいつ~!

 基礎工事に付き合ってるあたしには忖度しないのか!


 悔しくなって何度か同じことをした。

 その度に会長チョイスを選ぶ陽斗に苛立ってくる。

 付き合ってないにしても、絶対ただの幼馴染じゃないでしょ。


 合間にほとんど会話しない。

 服を渡すときも「こちらを」「ああ」。


 何その空気。熟年夫婦の無言の呼吸?

 なんでよ、あたしがお邪魔!?


 そして思いつく。

 そっか、あたしがいるから駄目なんだ。

 ふたりきりになれば、夫婦の会話が見られるかも?


 だからあたしがこうするのも自然だった。


「ごめん、ちょっと見たいお店があるの! ちょっとここで待ってて?」


 これでいい。

 ふたりで積もる話もあるでしょ。


 ふたりを椅子に座らせて、角を曲がった先から様子を見る。

 しばらく互いに違う方向を見て、居心地が悪そうにしていた。

 あれ? すぐに会話しない?


 一、二分くらい焦らされる。

 あたしは何をしているんだ、と思ったところで陽斗が会長に話しかけた。


「……如月、今日は、その」

「はい」

「えっと。服、見てくれてありがとな」

「いえ。佐倉さんに頼まれただけですから」


 た、他人行儀。

 え、いつもと変わらないじゃん。

 なんなの、このぎこちなさ。


「それでも、助かった。あと……この前のことも」


 陽斗が意を決したような表情をした。

 え、彼のあんな真剣な顔、見たことがない。

 ……会長?


「その話は、ここですることではありません」


 その辛そうなしかめっ面がやたらと印象に残る。

 傍目には、ものすごく迷惑そうだ。


「……そっか、そうだよな」


 なに、この別れる直前の恋人関係みたいなの?

 ふたりともお通夜みたいな顔になってる。

 陽斗なんて苦しそう。

 あたしは何を見てるの?


「無理に話さなくても、大丈夫ですから」


 その言葉に陽斗は目を見開いた。

 そして、


「悪い、佐倉を、探してくるから」


 と、急に立ち上がって走り去った。

 「あ、違うの……」と半端に手を伸ばした会長を置いて。

 一体、これは何?


 これ以上、隠れていると陽斗に見つかるかもしれない。

 あたしはタイミングを見計らって会長のところへ戻った。


「ごめんごめん、お待たせ! あれ、陽斗は?」

「…………」

「紗雪?」

「私はそろそろ失礼します。用事がありますので」

「あ、ちょっと……」


 止める間もなく、会長は歩いていった。

 そうして取り残されたあたしは呆然とした。


 どうして?

 どう見ても、嫌い合っていない。

 それなのに、これ?

 ふたりは好きあってるんじゃないの?

 

 あたしがこの日、見たもの。

 それは好き嫌いよりも、ずっと面倒なものだった。


——何があったの、あんたたち




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