第2話 氷の生徒会長と、近すぎる陽キャ
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〈グロッキー、彼女を作るにはどうすれば良いと思う?〉
《うっぷ、まず清潔感だぁ。次に距離感。いきなり詰めるなよぉ。自然に同じ場所にいる時間を増やせぇ。あと会話は聞き役だ。自分語りばっかする男は沈むぞぉ。うぇっぷ》
なるほどな。勉強になる。
単に格好良いだけじゃ駄目なんだ。
「水瀬君、おはようございます。歩きスマホは危険ですよ」
「うおっと! おお、おはよう如月」
家を出てすぐ。
相棒の熱弁に夢中で周囲を見ていなかった。
当たり前の注意をされ、怒ったような呆れたような視線にヒヤリとする。
「ちゃんと前見て歩くって」
紗雪を通り越して歩いていく。
家は隣同士、でも一緒に登校はしなくなって久しい。
たまにこうして遭遇することがあるくらいだ。
その時にも並んで歩くことはない。
俺が前に行くか、紗雪が前に行くか。
そのまま互いに言葉を交わさず、登校するのが暗黙のセオリーだった。
「……ですね」
「うん?」
そのセオリーが破られたことに、俺は気付くのが遅れた。
振り返って紗雪の顔を見る。
いつも通りすましたままの顔だった。
「何だって?」
「いえ、昨日はずいぶんと騒がしかったですね、と」
「ああ。佐倉って声が大きいからな」
「教室では静かにしたほうが良いと思います」
「わかったよ」
佐倉のせいにしたけど、よく考えたら俺も大声をあげた気がする。
生徒会長の規範の前では迂闊だったかもしれない。
いつも同じ場所にいるしな。
さっさと歩いて行く紗雪の後ろ姿を追いながら、俺は首をひねった。
いや、でも、他にうるさい奴らもいたぞ?
なんで、わざわざ俺にだけ注意をしたんだ?
◆◇◆
「陽斗、おっはよー!」
「おはよ、佐倉」
「ほらぁ、名前呼びしてよ! 琴葉って!」
「しないって言ってるじゃん」
毎朝の恒例行事をしながら着席した。
佐倉の温度感に触れると教室に来た感じがする。
誰かが待っているってだけで登校したくなるってもんだ。
「と・こ・ろ・で! 初日の進捗報告を求めます!」
「初日ってなんだよ」
「だって昨日、あれだけ宣言したじゃん。確認くらいするでしょ」
佐倉がウリウリ、といった表情で肩を寄せてくる。
「あのなぁ、一日二日で進捗するなら誰も苦労しないよ」
そう、そんな単純なら苦労しない。
ようやくその気になったんだからな。
「その苦労をしないと実らないって知ってるでしょ~」
「ああ、うん。そうだな。清潔感とか……」
ちらりと相棒の回答に目をやってカンニングする。
が、目聡い佐倉には丸見えだったようだ。
「またグロッキー?」
慌てて隠そうとするが、言われた時点でもう遅かった。
「悪いか」
「ううん~。でもびっくりだなぁ~。恋愛までAI任せ~?」
「お前、AIの性能知らないだろ? 客観的知見の宝庫だぞ」
「えー。じゃあ、清潔感以外に何が必要なの?」
そう言われると答えに詰まる。
恋愛なんて真面目に考えたことがないから当然だった。
結局、俺はグロッキーの画面を読み上げる。
「ふんふん。距離を大事にして、一緒にいる時間を増やして……ねぇ」
「一般的な話だろ?」
なにせAIだからな。満点は取れなくても平均点以上のはずだ。
「うーん。間違ってないけどさ、花の女子高生が周りにいるんだし。まずは会話からじゃない?」
「会話? こうして佐倉と話してるだろ」
そう、俺はこいつのお陰でぼっちじゃないんだし。
すると佐倉は少しだけ目を丸くしてから、ニカっと笑った。
「だめだめ~、あたしはノーカン! 頼れる親友、お友達枠だよ!」
「友達枠って、男として終わってないか?」
「終わってない終わってない。始まってないだけ」
そうして俺たちの声が大きくなってきたところだった。
「水瀬君、少し良いですか」
細く澄んだ声が場を冷やす。
いつの間にか紗雪が側に来ていた。
「おっはよ~、紗雪!」
「おはようございます、佐倉さん」
凛とした無表情。
陽キャノリの挨拶でさえ、冷やしてしまう。
紗雪よ、会話が続かないこの空気、どうしてくれる。
佐倉が固まってしまっているじゃないか。
「実行委員のお仕事で、クラスの企画書がまだ提出されていません」
「あ!? 悪い、忘れてた」
「今日の放課後までに生徒会へ提出してくださいね」
「あ、ああ。分かった」
凍えてしまうのでさっさと会話を終わらせる。
用事が済んで如月が立ち去ると、ようやく佐倉が氷から這い出て来た。
どうしてか俺と如月を交互に目配りしている。
「ねぇ陽斗。紗雪とあんたはやっぱ仲いいの?」
「今のでどうして仲良く見えるんだよ」
こいつ、聡いように見えて、俺と如月の空気感は分かってないんだな。
紗雪との関係。意識しようとすると、また胸がちくりとした。
「幼馴染だからな。仲が良かった時期もある」
「ふーん。今は?」
「今は別に。見ての通り」
佐倉が顎に指を当てて首を傾げる。
どうしてこいつには、あれが仲が良いように見えるんだろうな?
「じゃあ、私が近くにいても怒られないんだねっ!」
「なんで佐倉が怒られるんだよ」
意味がわからん。
あははと笑う佐倉に、始業のチャイムが時間を告げた。
◆◇◆
時期限定で頑張れば終わる実行委員。
年間、定期的に頑張るよりも気楽だからと立候補したのが運の尽き。
企画決めの司会から、こうして企画書の提出までやることになっていた。
正直、面倒すぎる。
「さっさとやんないと、また嫌味言われるよ」と佐倉に言われ。
俺は昼休み返上で企画書を仕上げた。
そして休み時間が終わる前に、急いで企画書を持って生徒会室へ向かった。
「お邪魔します」
ノックして生徒会室へ入る。
すると生徒会長である如月だけがいた。
なんでだよ。気不味いだろ。
「企画書の提出ですね」
如月が手を伸ばすのでそのまま手渡す。
目を細めて書類に目を落とす。
少しの沈黙にやたらと緊張した。
「はい、確かにお預かりします。お疲れ様でした」
無事に受理されてほっとする。
余計なことを言われまいと背を向けようとしたところだった。
「佐倉さんとは親しいのですね」
何の話をしているのか、瞬間的には理解できなかった。
どうしてそんなことを聞くんだ?
「隣の席だしな。友達とは話すだろ?」
「……そう、ですか」
黒の瞳がじっと俺を見据えている。
何だか見透かされているようで居心地が悪くなる。
如月は、口を開きかけて、閉じて。それから、
「いえ、何でもありません」
と首を振った。
これ以上、付き合う義理もないので俺は退室した。
何だあいつ。佐倉に何かあるのか?
もやもやとしたまま俺は教室に戻った。
佐倉がおかえりー、と迎えてくれた次にこの言葉。
「紗雪と話すと、あんたちょっと変になるね」
「ならないっての」
「なってるよ」
否定しているのにあははと笑われて居心地が悪い。
こいつ、もしかしてラノベみたいに幼馴染属性が最強ってんじゃないだろうな?
◆◇◆
「今日の質問コーナーだよ~! おっと、るーとさんからだね」
画面に表示された赤枠。
そこに書かれた文言に私は声をあげそうになった。
るーと> 昔の知り合いと距離感が分からないときって、どうしたらいいと思う?
これ!!
これ、ぜったい、私のこと!!
え、なんでこんな質問!?
昨日の今日でこれだよね??
もしかして、私にアプローチしたいってこと!?
「昔の知り合いか~。それって、お近づきになりたいってこと?」
だよね、だよね??
私のこと見てくれてるってことだよね?
るーと> うーん。同じクラスだから、ずっと気不味いままって嫌じゃない?
うん、そう思う!
そう思うの!!!
でもでも、今、陽斗とお近づきになったら困る!
ぜったい私、困るの!!
「う、うんうん、そうだね。でも、無理に近づかなくてもいいと思うよ?」
るーと> そうなの?
「ほら、相手にも事情があるかもしれないしねっ」
◆◇◆
同接一桁の頃から支えてくれた“るーと”さんに、そんなアドバイスをして。
まだまだ、現状維持ができると高をくくっていた私。
それなのに翌朝、下駄箱で叫びそうになった。
彼の上履きの上に置かれた、ラブレターらしきものをチラ見してしまったから!




