表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

4話

「続きまして、使用するヴァーチャル機器のご案内です」


 舞台袖から一人の女性が壇上へと入ってくる。手にはゴーグルのような機械を持っていた。

 女性は男性に機械を渡すと、舞台袖に戻っていく。


「こちらが、仕事の体験として使用して頂きますヴァーチャル機器でございます」


 男性は機械を高々と掲げた。

 おおー、という歓声はない。男性はそれでも説明を続けた。


「最新の技術が取り入れられ、まるで異世界に迷い込んだような感覚になります。なお、使用中は現実世界では睡眠に近い状態になります」


 SFの世界。

 それからも説明は続き、ますます胡散臭くなるばかりだ。


「では、セミナーの説明は以上となります。セミナーに参加したい方はこの場に残ってください」


 男性がそう言うと、少ない参加者が一人また一人と出ていく。誰も残らないんじゃ……私には関係ないか。

 私も出ようと立ち上がる。


「参加していただいた方には、限定スイーツをプレゼントします」

「っ……」


 私は転職に悩んでここに来た! 答えを出さずに去ることは……できない!

 けして、スイーツに釣られた訳ではない……!

 私は椅子に座った。


「では、残っていただいた皆様はセミナーに参加ということでよろしいですね?」


 男性が周囲を見て、問いかける。誰一人席を立つ者はいない。


「別室にて、セミナーを行いますので移動をお願いします」


 舞台近くの扉が開いた。

 私は立ち上がり、移動する。


「ん……?」


 誰も立ち上がらないと思っていたが、残っていたのが私一人のようだ。

 やっぱり帰ろう……。

 そう思って、舞台に上がる男性を見ると、居なくなっていた。


「さあ、お客様こちらです」


 いつの間にか、隣に立っていた。胡散臭い笑顔。もう、断れない雰囲気である。

 案内され、別室に着く。

 別室にはマッサージチェアのような椅子が一脚と、革張りのソファーが二つ。テーブルが一つあった。

 それから、いくつか質問された。

 希望する仕事や年収、経験など。

 そして、男性の名前は狐らしい。胡散臭さ満点の彼にはピッタリの名前だ。


「なるほど、ありがとうございます……では、早速やってみましょうか。まずは事務職はどうですか?」

「事務職……お願いします」

「分かりました。準備しますので、そちらのソファーに座ってお待ちください」


 革張りのソファーからマッサージチェアのような椅子に移動する。座り心地は悪くない。目を瞑ったら、夢のせいに旅立ってしまいそうだ。


「お待たせしました。では、こちらを掛けてください」


 渡してきたのは、壇上で紹介されていたヴァーチャル機器。私は恐る恐るつけた。


「では、始めますね」


 その言葉を最後に私の景色は変わった。


「え……」


 一番最初に目に入ったのは、机に置かれたパソコンだった。

 周囲を見ると、オフィスビルの一室のようだ。

 スーツ姿の社会人達がパソコンで仕事をしている。カタカタとキーボードを叩く音、電話が鳴る音が聞こえてくる。


「……」


 パソコンのキーボードに触れる。確かな感覚がある。試しに文字を打ち込むと、デスクトップに反映された。


「現実みたい……」


 童心に帰ったように、周囲をキョロキョロしていると、


「栗宮さん!」


 名前を呼ばれて、視線を向ける。

 中年でメガネを掛けた女性が私を手招きしていた。

 私は立ち上がり、向かう。

 女性は私を睨みつけた後、ため息を吐いた。


「この資料は何?」


 女性がデスクトップを指差す。私は画面を覗き込んだ。


「……何でしょう」


 体験を始めて一分くらいしか経っていないのに、そんなことを言われても分からない。


「貴方が作った資料でしょ!」

「え……」


 当然、作った覚えは当然ない。


「いい、いつも言ってるでしょ! 作ったら確認しなさいて。誤字だらけで提出できる物ではないわ! 今時の子供の方がもっといい資料を作れるわ!」

「……すいません」

「全く近頃の若者は」


 それからも中年女性の説教は一時間も続いた。


「はぁ、疲れた……」


 肉体的な披露ではなく、精神的な疲労だ。

 あれが噂に聞くお局様か……。

 お局様は私同様に他の社員を呼び出すと、ぐちぐちと説教していた。

 あんな説教ばかりして、仕事は大丈夫か?


「さて……」


 折角の仕事体験。仕事しないと……。

 私はマウスを握りしめて、デスクトップを見つめた。


「……」


 仕事て、何すれば良いの?

 一時間後、景色が移り変わり、現実世界へと戻った。


「ん……」


 身体を起こす。

 周囲を見ると、狐さんと目が合った。

 革張りのソファーに座り本を読んでいた狐さんは、本を置いて立ち上がった。


「お疲れ様です。初めての仕事体験はいかがでしたか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ