3話
少しの間、考えた後、答えた。
「パフェが食べたいかも」
「はぁ……そう言う事じゃ無くて、仕事の話よ。後、パフェ頼めば良いと思うわ」
「仕事の話か……」
私は店員さんへいちごのパフェを注文する。
改めて、仕事について考えた。
「やりたいことなんて……特にないかも」
ふと、思い出したのは木村の転職宣言だった。
「……そう。美咲もキャリアプランとか考えないと、後々後悔するわよ」
「そうかな?」
「そうよ」
雪はテーブルに肘を置き、手を組んだ。そして、口を開いた。
「時間は有限よ。何もしなくても、刻一刻と過ぎて行くわ。だから、焦りなさい」
雪は席を立つと、伝票を手に取った。
「話を聞いてくれたお礼に、ここの会計は私が出すわ」
「え? 悪いよ」
「良いの。気にしないで」
雪と別れた後、電車に乗り最寄駅で降りる。ふと、駅に置いてある無料の求人誌に目が止まった。
「転職か……」
高校を卒業して、ずっと今の会社で働いてきた。
転職なんて考えた事が無かった。
もしかして、転職するのが普通なのか……。
「はぁ……」
私は求人誌を手に取ると、パラパラとめくった。
「マジか……」
読んでみて気づいたが、今の仕事よりも収入が高い会社がいくつもあった。しかも、未経験歓迎と記載されていた。
求人誌を閉じると、家に持ち帰る。
服を脱ぎ捨てて、下着とTシャツのいつもの服装になる。そして、ベッドにダイブして、求人誌を開いた。
「……」
私の見間違いではなかった。
夢のような条件を前にして、私は唾を飲み込む。
「私も転職しようかな……」
ネットで転職について調べていく。
転職して給料が良く、やりがいがある仕事に就けた。反対に、残業が多く、求人の内容とは違うなどの情報もあった。
「頭痛くなってきた……」
慣れないことで頭を使ったせいだ。こんな時はアルコールと糖分に限る。
冷蔵庫から缶チューハイと板チョコを一枚取り出した。ちなみに、冷蔵庫にはお酒とチョコレートが常に入っている。
「ふぅ……」
缶チューハイを一気に半分くらい飲み干す。板チョコに齧り付く。パキパキと心地よい音が鳴った。
それから、私はお酒とチョコレートと共に転職について調べたのであった。
***
翌朝。
身体を起こすと、頭がズキズキと痛む。
周囲を見ると、ベッドには空き缶とチョコレートの包装紙が転がっていた。
「片付け、ないと……」
憂鬱だが、後回しにすればもっと面倒くさくなる。
起き上がり、ゴミを捨てる。
シーツには溶けたチョコレートの痕跡と、溢したお酒の痕跡がある。見なかった事にしたいが、洗濯しないとダメだろう。
その前に休憩。
冷蔵庫からカフェオレを取り出す。残りが少なかったからそのまま飲む事に。
スマホで猫の動画を観ようとすると、メールが来ていた。どこかのセールの知らせか、携帯会社からだと思ったが違った。
「ん……? 転職セミナー……?」
セミナーの応募ありがとうございます、から始まり、開催場所や時間などが記載されていた。
いくら頭を捻っても、記憶がない。酔った勢いでやってしまったのだろう。
「うーん……無料か」
折角だし、参加してみよう。
セミナー当日。オフィスビルに来ていた。
服装自由と記載があったので、ジーンズとTシャツで来たけど、場違いな気がしてきた。
「……」
緊張しながらも、オフィスビルの自動ドアを潜る。入ってすぐに、セミナーの案内表示があり、エレベーターで上がる。
受付でパンフレットを受け取り、会場に入る。
会場は講堂のような作りで、前方には壇上がある。
私は椅子に座り、受付で貰ったパンフレットを読む。
それから、壇上には一人の男性が立っている。優しげなセールマン風の男性だ。スーツ姿にワックスで固められたオールバックの髪型。モノクルを掛けている。
「皆様、お越しいただきありがとうございます」
セミナーの説明が始まった。
要約すると、ヴァーチャル使用して、働く仕事を経験して貰うとのこと。料金は無料らしい。
「……」
ヴァーチャルか……怪しいかも。
そう思うと全てが怪しく思えてくる。壇上に上がる男性も、優しげな笑顔をしているが、本心では金を巻き上げてやる、と思っているかもしれない。
「次は我々のセミナーを利用して、転職に成功したお客様のインタビュー映像をご覧ください。なお、個人情報保護の為、お客様の顔にはモザイクが掛かっております」
「……」
スクリーンに映像が映し出させる。
スーツを着た一人の男性が映し出された。顔にはモザイクが掛かっていた。
インタビューが始まるが、モザイクのせいで完全に怪しい映像である。
もしかしたら、壺でも売られるのでは……!




