#24 境界の住民達【上】
一ヶ月お待たせしました! 他作品に力を込めすぎて、狐婿の作風を忘れかけていたダメ作者でございます。
リハビリを踏まえて少し短めで御座いますが、楽しんで頂ければ幸いです。
色が消失し、白黒の世界が広がる生命を感じないこの世界で。ある1件の二階建ての家ではそんな喪失感等無いかの様な弾んだ声が、一階のリビングで響いていた。
「へぇー!! 望くん達は狐之街出身だったんだー!! いいな~。私も狐さんが好きだから行ってみたいと思ってたんだけど、お父さんが許してくれなくてね~」
「そうだったんですか、動物が苦手な人もおられますからね」
その声の主はリビングに置かれた四角い横長の6人掛けのテーブルを挟んで、背もたれのある木製の椅子に座りながらウキウキ気味に話す上原真理恵と向き合う形で少し緊張気味に相槌を打つ、今は可愛らしいと言われる様な中学生程の容姿をしているパジャマ姿の望との会話が繰り広げられていた。
「うーん。お父さんは何故か狐だけが苦手な人でね。理由は何時もはぐらかして聴けてないんだ」
「なっ、何ででしょうね~。あはは」
腕を組んで改めて父の狐嫌いが何故なのか悩む真理恵と、狐好きを越えて家族とすら考えている望は思わず苦笑いする。そんな二人の間に割り込むように鈴を鳴らした様な可愛らしい声が割り込む。
「お二人とも、お昼御飯が出来上がりましたのです! どうぞー」
その人物は頭に白い狐耳を生やしたメイド服姿で両手におぼんとその上に湯気がゆらゆらとたっている料理を載せた、何故か今は身体が分裂してしまっている望の少女の姿であるのぞみであり。
彼女は二人の前にゆっくりと綺麗に整えられた焼き鮭定食セットをモノクロのおぼん事置いて行く。
「おおっ! 待ってたよのぞみちゃん!! わぁぁ見てみて色が付いてるよ望さん! うーん美味しそうな匂いも!! 感動だよー!!」
「おかわりもありますので、ゆっくり食べてくださいね?」
「もう、のぞみちゃんさえ入れば何もいらないような気がしてきたよ……」
目を輝かせて、1週間振りの御馳走を前にした真理恵は。我慢出来ずに早速満面の笑顔で手を合わせていただきますをしてから、箸で食べ始める。
そんなマイペースに食事を取っている真理恵の反対側で、望は料理を持ってきてくれたのぞみにお礼を言いつつ。その焼き鮭定食の完成度に驚かされていた。
「わあ……まるでお母さんが作ってくれた様な見事な料理だよ。これはどうやって作ったの?」
「は、はい! お母さんのご飯の見た目と味を思い出しながら、要ちゃんに貰った変化用の葉っぱを変化させて作って見たのです」
「要ちゃんの葉っぱを……!?」
のぞみが恐る恐る望の耳元で小さな声で説明してくれたその驚きの内容に、望は目を見開いて目線を料理とのぞみの間で2往復させてから、綺麗に焼けている焼き鮭を箸でほぐして一口食べてみるのだが。
「信じられない……。本物と何一つ変わらない味と質感だ……。これが実用化できればファミレスの経営者の人達が冷凍食品を使うことを辞めて、こぞってこれに乗り換えるだろうね……。ありがとう、のぞみ。美味しく頂くよ」
「はいなのです! えへへ」
そんな雑談を交わしつつ、望は持ってきてもらった定食の中からお冷やが入れられたガラスのコップをぐびぐびと飲み干してから、質問を投げ掛ける。
「この世界だと色だけじゃ無くて匂いや、味すらも消えてしまうのですか?」
「もぐぐ?」
質問をされた真理恵は夢中になってご飯を食べていた様で、頬をひまわりの種を口に含んだハムスターの様に膨らませており。その姿に望は思わず吹き出しそうになりながら、質問は彼女が食べ終わってからにしようと考える。
「あっ、良かったら先にご飯を食べて頂いてからでよろしいので!」
そんな望の申し訳なさそうな望の苦笑いを見て真理恵も自分が我を忘れていた事に気付いた様で、頬を赤らめて、口の中にある物を飲み込んでから照れ臭そうに話し出す。
「あはは、ごめんね! ついつい食い意地を張っちゃって!! えーと、望さんの質問は……白いレアチーズケーキと黄色のチーズケーキどちらが好きかって話だったよね?」
「いや違います! 何処からチーズケーキが出てきたんですか?! 完全に頭の中が食後のデザートに行っちゃってるじゃないですか?!」
「……あれっ? 違ったかな? あはは」
冷や汗をかきながら苦笑いを浮かべている真理恵の姿を見て、望は彼女がとてもマイペースで好奇心の塊の様なじゃじゃ馬娘である事に気付かされる。なので少々相手に話を促す形で話すことにする。
「えーと、とりあえず。これ以上気が散ると不味いので、話の続きは先にご飯を食べてからにしましょう。それと、デザートはお話を聴いた後でですからね?」
「ええー?!!」
「ええー?!! じゃないですよ真理恵さん! 僕達はいち速く今起きている問題を解決して、皆がいる世界に戻らないと行けないんですから!!」
「そいつは今のところ無理なんじゃ~無いかな? それが解っていれば、我々はとっーくに元いた世界に帰還している筈だよぉ?」
必死に真理恵を説得する望であったが。その話を盗み聞きしていたのであろう2階に続く木製の階段をぎしぎしと鳴らしながら、黒色の歩く寝袋の様な物で身を包んだ者が降りてきた。
その容姿はかなり変わっていて、足元はくるぶしの下だけ足を出し、顔には真っ白のフェイスマスクに《・▽・》と言う絵文字の様なペイントを施した、望がベットの下に隠れたときに遭遇した色々と独特な男であり。
彼は馴れた様子で階段から降りると、そのまま望達のいるテーブルの椅子へと近づくので、のぞみが親切にイスを引いてお手伝いをする。
「どうぞなのです、クネクネさん!」
「いやぁ、ありがとう。私の身体は何かと不便でねぇ。のぞみくんの様な素敵なメイドさんが居てくれると、大助かりだよ。どうかなぁ、君が良ければ私の専属のメイドになってはくれまいかい?」
そのやり取りを、まるで娘が男に口説かれている様な感覚でどきどきしながら見ていた望は、思わずあたふたしているのぞみから目線を離せなくなり。固唾を飲んで見守る。
「あの……その……。私には、もう心に決めた人がおりますので……」
そう言いつつ、のぞみも頬を赤らめながら、チラチラと望に視線を送り。「貴方なら、誰かを解ってくれますよね?」と言いたげな視線を照れ臭そうに送るものだから。
その意図を理解した純粋な望はパアァっと顔を輝かせて、笑顔で何度も頷き返し、それを見たのぞみも嬉しそうに微笑む。
「なるほどねぇ。 望くんの身体に彼女の魂も共存する形でついていたものだから、何かと思えば望くん」
「なっ、何ですか?」
「君は素晴らしい芸術家だったようだねぇ。幾ら理想の女性を想い描くと言っても、普通の人間にはその理想像は所詮空想の範疇を越えることは出来はしない模造品止まりだ。
しかし君は彼女を自分の中にあるもう一つの人格として形成する事により、この場に生命として宿すだけの情熱を持ち。それを神ですら一つの命として認めらざるを得ない者として見せたのだよ!!」
「あのう……つまり僕が理想の女性であるのぞみの事を妄想し過ぎて二重人格と言う形で産み出してしまい。この世界に来たときに、分裂して具現化したと言いたいのですか?」
「うん? 違うのかい?」
「違います!!」「ちがうのです!!」
そんな息ぴったりの反論を受けて、思わずクネクネと呼ばれた者は愉快そうに仮面の内側で笑みを浮かべつつ。二人に提案をする。
「なるほどねぇ。お二人に何かしらややこしい事情がある事は把握したよ。じゃあこんな提案はどうかなぁ? これから外に出て、この世界の現状を確認してもらうと言うのは?」
「外ですか?」
「ええ。様々な人の記憶と狂喜に包まれた白黒の世界さ。真理恵くんも道案内をお願いしても言いかな?」
そう言って、既にご飯を食べ終えて、2016年と言うフレームを使用しているサングラスの上からも解るぐらいほくほく顔をしている真理恵に、クネクネは問い掛け。真理恵も穏やかに返す。
「うん、大丈夫だよー。美味しいご飯も食べられて、体の調子も良くなってきたみたいだし!」
「ふむ。では決まりだな、カナリアを留守番に置いておくとしてお互いの役割を決めてから行こうか?」
「役割、ですか?」
その提案に、のぞみは説明を希望するかの様に尋ねる。
「ああ。外に出れば大勢の化け物がこの世界を這いずり回っていてね。大軍を率いてやって来る彼等に対抗するためには、一人一人が目や鼻、腕や足となって行動出来なければ。あっという間に全てをもぎ取られてしまうだろう。だから役割を決めるのさ。なあ真理恵くん?」
そう言って。真理恵に話を振るクネクネの言葉に頷き、真理恵も答える。
「うん! だからこうして私達は生き残ってこれた訳だからね。じゃあ、望さんとのぞみちゃんにお願いしても良いかな?」
「はい! 何でしょうか?」「何でも言ってください!」
二人の同意を得られた真理恵は両肘をテーブルにつけて、両手を組み。何処かの司令官の様に低い声で二人にお願いをする。
「……デザートのケーキはモンブランをお願いしても良いかな?」
「「チーズケーキは何処にいったんですか!!/いったのです!!」」
そんなやり取りと食後のデザートを挟みつつ。彼等は、生気を失った世界に足を踏み入れて行く。




