#25 境界の住民達【下】
食事を終えて、家の外に探索に向かうこととなった亮太達はそれぞれ別の部屋で外着に着替えていた。
「うーん、のぞみに葉っぱを貰ったけど、これ人間の僕にも使えるのかな?」
風呂場の脱衣所で変化用の葉っぱ指先でクルクルと回しながら、望は不安げに呟く。
どうにもこの世界に来てから、きつ姉に授けて貰った妖力の殆どがよりモフモフとなった頭に生えた狐耳と尻尾を持つ、のぞみの身体に譲渡されているらしく。
望の身体に残る妖力は、指先にライター程の狐火がやっと出せるレベルにまで弱まっていた。
「参ったな……。取り合えず服だけでも作ってみよう」
そんな不安感を達成感でかき消すべく、望は葉っぱに妖力を満たすイメージを頭の中で工程し、頭の中にある動きやすい上下セットのジャージを作成しようとするのであるが。
「よーし、出来たぞーって、ちっちゃ!?」
望の妖力を受けて輝きを放ちながら変化した葉っぱは、確かに望のイメージした通りの袖が赤でメインカラーが白のジャージではあったのだが。幼児が着れる程の小さいサイズのジャージが出来てしまい。望は驚くと同時に、呆然とさせられる。
「こんな調子だと……外に出れば化け物がいるって真理恵さんが言ってたから、足手まといになっちゃうよな」
「さあさあー。早速、外に出掛けに行こうかー。準備は出来たかい望さーん?」
「えっ!? いや、ちょっと待って!?」
一人でぶつぶつとつぶやいていた望は、脱衣所の出入口の白い扉の向こうから。イタズラを仕掛けに来た真理恵の楽しそうな声が聴こえて来たために、望はテンパってしまい。何故か最初に着ていたパジャマを脱いで、SSサイズのジャージを無理矢理着てしまうと言う奇行に走ってしまい。
「よーし、お姉さん入っちゃうぞー!」
「ちょっ!! ちょっとまっ!?」
ドアノブを下ろし、宝部屋に入るかの様にキラキラとした楽しそうな雰囲気を全身に纏った真理恵は。全身を恥ずかしさで真っ赤にさせ、胸と股間部分にしか布の面積が無い身体を何とか両手で隠そうとするが、全く隠しきれていない望の姿があった。
その予想外な望の姿を見た真理恵は扉を開けた状態で、望と数秒間見詰め合い。ぎこちない笑顔を浮かべる。
「イヤー、マサカハード路線トハ!! ヤリマスネ、望サン?」
そんな棒読みで、舌を出しながらウインクしておどけて見せる真理恵だったが。望は顔を真っ赤にさせて下を向きながら肩を震わせている。
「う……ううう……」
「あっ、の、望さん?」
「直ぐに着替えるから外で待っていてください!!!」
望は恥ずかしさの余りに、そう言って素早く競歩でドアに近付いて真理恵を入り口から押し出して無理矢理に扉を閉じてしまう。
「ううう……最悪だょぉ……」
最早半泣き状態になっている望は、衝動的に変化で作られたピチピチのジャージに妖力を出せるだけ出して再変化させて、身体に合ったサイズに無理矢理に変化させる事に成功し。少し、安堵する。
「のぞみに頼んで、真理恵さんのご飯はおあづけにして貰おう。そうしよう……」
そんな思いを虚ろな目をしながら胸に秘めつつ。望は人が四人ほど一度に靴を履くことが出来、爪先から膝程の段差がある玄関で待っている仲間達の元へと急ぐ事にする。
「望さーん! 玄関はこっちだよー?」
「うーん? 変な服を着ていると聞いていたが、なかなか立派なものを着てきたじゃーないか?」
「良かった。妖力はまだ扱えるのですね」
玄関にいるのは何故か裸足で白いワンピースを着た先程イタズラをしに来た真理恵と、相変わらず歩ける寝袋姿のクネクネさんと、白と黒のヒラヒラのメイド服姿ののぞみが望を待ちわびていた。
「お待たせしました皆さん!」
「さっ……さあさあ!!! 早速、外に行こうではないかー!! そうしようー!!」
「あっ、のぞみ? 今日の昼食は真理恵さんおかずだけで良いみたいだから、よろしくね?」
「え? そうなのですか? 先程までずっと献立を聞かれていたのですが?」
「えっへぇ!? それだけは何卒、御勘弁頂けないでしょうか望様?!」
真理恵はてっきり望が、のぞみの様に押しに弱く。いじれる相手が増えたと楽しみにしていたために、逆に自分の弱味を握られるとは思っていなかったので。
容赦の無い病んだ目をしたまま追い詰めてくる望からの食料規制に、悶えさせられる事となる。
「嫌、ダメです。これから真理恵さんに僕だけやりたい放題されるのは勘弁ですからね……あはは……」
「ひいっ?! 何か望さんいけない方向に吹っ切れていませんか……?」
「そんな事は無いですよ? 真理恵さんには空お姉さん達を助けて頂いた恩がありますからね? だから一食だけで、さっきの件はお互いにチャラにしましょ?」
「えっ……そっ、そこを何とか!!」
「よし! 楽しい冒険の始まりだ!! いっくぞ~!!」
「望さんそんな事を言うキャラでしたっけ?! ちょ、置いていかないでよー!」
その最後通告を変える事はせずに、玄関でスニーカーを履き終えた望は外開きの玄関のドアノブを回して開け放つ。
「え? これは、どういう事なんだ?!」
「えへへ、驚くよねー! まさか扉を開けると海岸が見える家なんて、なかなか無いもん!」
上原家から出た望達が見たものは辺り一面に広がる、モノクロの波が打ちつける海岸と波の音であり。その奥に広がるヤシの木や、リゾート施設らしき大きなビルの森を見て、望はあわてて自分が出てきた背後にある家の玄関の扉を見てみると、そこにあるのは灯台の入口扉であり。その現実が理解できなくて望は呆けてしまう。
「この世界はねぇ望くん。 この世界に連れてこられた私達の様に命ある者達の記憶と心の景色を取り込んで具現化された世界なんだぁよ? そして、ここ数日前からそう言った世界の数が急速に増え広がっていてねぇ」
「それってまさか?」
ある程度の説明をクネクネから伝えられた望はハッと気づかされる。
「ああ! 要するに、この世界に連れてこわれる人が急激に増えたと言うわーけさ。と言う訳で、今回の我々の行動目的を話し合おうか?」
そこから望達の間で話し合いが始まり。まず簡単な目標として、現在この世界に飛ばされて来た人達の捜索と、敵である敵達が何処にいるか、またこの地域の安全性等を調査する事を念頭にして行動を開始する事となる。
「では、家で言っていた様に。それぞれの役割を決めようと思うのだが良いかな?」
「はい、よろしくお願いします!!」
「私はそう言うの苦手だから、おまかせしますねー」
「よろしくお願いします!」
皆からの同意を得られたクネクネは軽く頷いてから早速それぞれの役割を言い渡していく。
「ではのぞみくんは耳がとても良いみたいだから、広範囲の敵の動きを見張ってもらい。望くんと真理恵くんが護衛。そして私がリーダーとしてその時々に指揮を取らせて貰うとするねぇ」
その説明に皆が納得する中で、望は気になった事を質問する。
「失礼かも知れませんが、クネクネさんは何かこう言った指揮を取る仕事をされていたのですか?」
「あっ、そう言えば私も聴いたこと無かったかも! 聴かせてよ、クネクネさん!」
その質問にクネクネは少し困ったような小さな唸り声をあげた後、ゆっくりと話始める。
「まあ、ここに来る前は家族を養うために狩りをしていたんだよ。まあ、皆が期待してくれているような面白い話では無いねぇ」
そう苦笑いを仮面の裏でしながら告げるクネクネの声は何処か暗く、後悔しているかの様な様子だったのだが、直ぐ様にカラ元気を捻り出した様に声のトーンを上げて皆を鼓舞する。
「いやぁすまない! 変に空気を湿っぽくしてしまったね!! じゃあ早速行こうか? ここら辺は建物の影とかに隠れているモノタチがいるかもだから、みんな油断せずに行こうね?」
「「「はい!!」」」
声を揃えて同意してくれた三人に、クネクネは心の中で感謝しつつ。ペンギンの様に摺り足で灯台から海岸まで続いている白く塗られた石の通路を望達と共に歩いていく。
やがて誰もいない海岸から陸に上がった望達は、沢山のリゾート施設やビル等が建ち並ぶ舗装された4車線の道路の外側の歩道を周りを警戒しながら歩いていく。
「うーん、誰もいない様だから。デパートに入って、望さん達の服とかを揃えませんかクネクネさん? うち、お父さんのバカデカイ服しか無いから。望さんに合う服が余り無いんですよね」
「うーん? じゃあ私の予備の寝袋を渡そうか? あれなら誰にでも……」
「いやいや。身動きをわざわざ殺しに行かなくても良いじゃ無いですか! それに一人増えれば皆が着ていないとおかしいみたいな流れになりますし」
そのクネクネと真理恵の話を聴いていて、脳内で全員が歩ける寝袋を着て歩くというマヨネーズのCMの様な光景を想像して、望とのぞみが噴き出しそうになる中で。突然、街の中で女性の悲鳴が響き渡った。
「なっ!? 誰かが襲われているのです!?」
「ポォーウ? 強敵の登場かな? じゃあ早速様子を見に行って見ようか?」
その気の抜けたクネクネの発言に、悲鳴を上げた人の安全が気が気じゃない望とのぞみは言葉強めに追求する。
「クネクネさん! 誰かが襲われているんですよ?」
「そんな呑気な態度で言うのはおかしいのです!」
この世界に来たばかりのその正直な二人の反応に、前を歩いていたクネクネと真理恵が振り返り。言葉を返す。
「落ち着くんだ、二人とも。感情的になると冷静な判断も出来なくなるよぉ?」
「クネクネさんの言う通り。私達がこれから相手をするのは私達よりも遥かに数がいて、私達よりも全てにおいて勝っている相手だと冗談抜きで思った方が良いよ?」
その冷静過ぎる二人の意見に、一応一般人よりかは修羅場を乗り越えて来た望達は少し納得が出来ていないような態度を隠しきれていなかったので。真理恵は顔にかけていたふざけさサングラスを外して素顔を二人に見せる。
「「ひっ!?」」
二人が怖くて思わず抱き合ってしまったその目には眼球が無くて、穴が開いたように黒くくぼんでおり。ガタガタと身体を震わせて怯えた様子の二人を確認した真理恵はサングラスをかけ直して、自分のした経験を話し出す。
「私もね、ここに来たばかりの頃は奴等に襲われている人達を急いで助けに行ったんだけど、逆に返り討ちに逢ってしまってさ……。身体の原型が無くなる位になっていた所をクネクネさんに助けて貰ったの……」
「え? でっ……でもクネクネさんは寝袋に入っていて助ける事は出来ない筈じゃ?」
「そうだね。“今の”クネクネさんだったら私を助ける事は出来ないね」
「真理恵……もうこの話は良いだろ?」
その話の中にある言葉のピースが次々と望達の頭の中で組み立てられていき、真相に辿り着いてしまう。
「まっ……まさかクネクネさん!?」
「そうだよ。無謀な私を助ける為に、クネクネさんは両腕と身体の皮膚を殆ど失ったの……。私が、望さん達を説得した理由はそう言うことなんだよ?」
その衝撃的な事実を聴かされて、望達の中で燃え上がっていた感情の波は落ち着いていき。二人はこの世界に対する危機意識を考え直す切っ掛けを貰えた事を二人に感謝しつつ。ある提案をだす。
「そこまでは考えていませんでした、すいません……」
「私こそ、きつく当たってごめんね?」
「あの、じゃあ見に行くだけならどうですか? 見つからない様にしますから!」
「クネクネさん、どうしますか?」
判断を決めかねた真理恵はリーダーであるクネクネに判断を託し、クネクネも暫し考えた所で指示を出す。
「そうだね。今襲われている人があれだけの叫び声を上げたのたから、今頃彼女は化け物達に囲まれているだろう。なので、それ以上に彼等の気を引くような大きな音を出すと言うのはどうかな?」
その提案に望達は納得し、早速準備に取りかかる。
「わかりました! じゃあのぞみに誰もいなさそうなビルを倒して貰いましょう。それなら嫌でも集まって来ると思います!」
その大胆な作戦に興奮したのか真理恵は両腕をボクシングのガードの様に前で構えながら、目を輝かせる。
「うわー!! 以外と望さんってば過激派組織だったんですねー!」
「語弊のある言葉でまとめないでくださいよー!! 今あるもので目標を実現させようとしただけで、そう言う経歴のある人間では無いですからね!?」
「噴水……ムグゥ?!」
「それ以上は行けない!」
必死に無実を訴える横で、かつての罪状を顔を青くしたのぞみが身体を震わせながら言いそうになっていたので、慌てて望がのぞみの口をゴールを阻止するゴールキーパーの如く機敏さで望が阻止する。
そんな様子を真理恵達が不思議そうに見つめていたその時、突然窓ガラスが割れる音が響き渡たり。何かが望達のいる場所から1時方向の300m程離れた地面に人が落ちて来たのを目撃する。
「ぐぅあぁ!! いてぇいてぇよ……!!」
その人物は二十代前半の少し筋肉のついた平均的な体型に黒のジーパンに黄色のTシャツにイルカのロゴが入った服を着た茶髪のワックスで固められたショートヘアーの青年であり。
彼は20階建てのビルの高さ四階から窓を突き破って脱出してきた様で、背中を交差点のど真ん中のアスファルトで強打したらしく、痛みで悶え苦しんでいる。
「早く助けないと! あの人が死んでしまう!!」
「待って、望さん。先ず姿を隠そう」
そんな様子を見て、望は助けに行こうとするのだが何故か真理恵から退避を促される。
「何でですか真理恵さん?! あのお兄さんが死んでしまうかも知れないんですよ!?」
「望さん。この世界に来たものは、少しずつ感覚が無くなって行くの。彼はこの世界に来てから一週間近く経っているから、もう痛覚処かあらゆる感覚が無くなっている筈。あれ程ずっと痛がっているのはおかしいの」
「そんな……。何故、そう言いきれるのですか?」
真理恵は一週間程前に彼と良く似た姿の青年が美女と共に人形達から逃げている姿と、彼等の仲間であったであろう気の良いおじさんを囮にした所を覚えていた。
「うううぅ、どうして誰も助けてくれナインダァ?! こんなにいたいのに! こんなに叫んでいるのにぃよぉぉ!!!」
「あれは、生存者を誘きだす為の演技よ。下手に近づくと……喰われるよ……」
「そんな……幾らなんでも、あの人だって元々は人間だったんでしょ?」
その説明が真実かを証明するかの様に、その声に釣られて来たのであろうコモドオオトカゲの様な全身蒼白のトカゲが倒れている男に自転車程の速度で迫り来るのだが……。
「チッ、オマエジャねーよ!!」
「グギャァァ!!?」
地面に突っ伏した状態から、青年はブレイクダンスの技の一つであるウィンドミルで身体事回転させて、蹴りをお見舞いして、巨大なトカゲを撃退して見せ。そのトカゲは身体を道路標識に激突して身体をくの字にさせてから。トカゲはポールに伝う雫の様に、力無く地面へとズルズルと落ちていく。
「はあ……ここらヘンに怪しい奴等を見掛けると言うジョウホウを貰ったんだけどなー。オカシイナー?」
そう言いながら辺りを見渡す青年は明らかに生命の危機等無かったようであり。明らかに真理恵達を探している発言を、誰かに聴こえる様に呟きながら、青年は後ろ首を掻く。
「どうやら期待はずれ見たいね。強い妖力を持った人間がこの地に来たのは間違い無いんだけど……」
望達が青年に視線を奪われていたうちに、悲鳴を上げた女性なのであろう赤髪の美しい長い髪と茶色のライダージャケットに身を包んだ美女が、辺りを見渡しながら通りの奥の方から歩いて来る。
「まったく、あなた達の様な臆病者が酒呑童子様の想いの内にあるだけで腹立たしいと言うのに……。ねぇ、何時までそこで隠れているつもりなのかしら?」
今まで望達を捉える気配すら見せていなかった赤髪の美女が驚愕している望達を捉えていた。
「恐れずに出てきなさい、直ぐに肉片にしてあげるから」
望達は見た。舌舐めづりしながら、赤い目を輝かせ、額から2本の角をじょじょに生やしながら近付いてくる赤鬼の姿を。




