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花をあげよう  作者: 花咲 匠
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第六話 予期せぬ客

 「こんなお花なんか、どうです? きっと嬉しいと思いますよ?」 


 「う~ん、でもあの子、意外と内気なトコロがあってねぇ。 あんまり派手なのを持って行っちゃうと煙たがられるのよね~」


 優は今、接客中である。

 めいのお見舞いに持って行くという女性の、花を決めているのだが、どうもいま一つピンと来ないらしい。


 「それなら、コレなんかどうです? そこまで派手ではありませんし、なかなかいい匂いがするのでけっこう人気なんですよ?」


 そう指し示したのは、淡いオレンジ色をした小ぶりな花だ。 

名をガーベラと言い、花言葉は『希望や神秘』といったプラスの意味合いなので、よくお見舞いに持って行く花として使われる。

 近年は、見舞いに花を持っていくのがNGという病院が増えてきているのだが、このヒトの見舞い相手の病院は大丈夫らしいのでこうして花を選んでいるのである。


 (見舞いに花がダメなんて、昔は考えられなかったですけどねぇ。 代名詞とも言っても過言ではないぐらいでしたのに……時代は変わるモノですね)


 商売のために病院の近くに花屋を開いたりするというのも、だんだんと少なくなってきており、花屋にとっては生きづらい世の中になったものだと心中で溜め息をつく。


 「じゃあ、これにしましょうかね。 後の花は適当に見繕ってくださる?」


 うんうん、唸って決めかねていた女性が顔を上げて疲れたように言う。


 「はい、それではフラワーアレンジでいいですね?」


 「ええ、お願いします」


 実は、フラワーアレンジメントには資格が必要なのだが、優はこの店を開店すると同時に色々な資格をとり、一人で切り盛りできるようにしたのだ。

 高校教師の資格や、大型特殊車両運転免許(戦車などの運転に必要)など必要のないモノも多数あるが……。

 優は手ごろな花たちをくくり、一つの花束にした。 

 相変わらずの手際の良さである。


 「はい、できました。 お値段は、2千円になります」


 「あら、安いわね。 この間の花屋ではもっといい値段したのだけど」


 意外と大きめな花束にになったのにも関わらず、リーズナブルな値段に驚く女性。


 「この店は安さが売りなので。 それにこの花束の中の半分は自分で育てているのですよ」


 この店から、車で10分ほどのところにある自分の畑を思い出しながら自慢げに語る優。


 「へぇ~、スゴイですねぇ。 じゃあ、これからもここに来ようかしら」


 「ありがとうございます。 どうぞ、これからも花屋『ギフト』をご贔屓ひいきに」


 屈託のない笑顔と共に、バッチリ宣伝する優。


 「フフッ、そうさせてもらうわ。 それでは、また」


 「またのご来店をお待ちしております」


 朗らかに笑いながら、店をあとにする女性にお決まりの言葉を投げかける。

 


 

 その様子を店の奥から一人の女性が机の上にノートと教科書を広げながら、不機嫌そうに眺めている。


 「優さん、やけにご機嫌ね」


 尖った声が店の入り口にいる優の耳まで届く。

 今日は午前だけで店仕舞いで、さきほどのお客さんが最後なのでもう店の中には誰もおらず、声をかけるのはいいのだが……。


 「やけに、不機嫌そうですね、美咲さん。 何かありましたか?」


 尖った声の主、美咲に声をかける。


 「別に、何でもないです」


 また尖った声で返される。

 この間、家に上げてからというもの、休みの日はいつも勉強をしに、ここに来ている。

 といっても、今は3月の終わりなので、学校は春休みらしく土日平日関わらず入り浸っているのだ。

 自分も学生のころは集中するために、花の香りのするモノを近くに置いていたりしたので、花の香りに包まれて勉強するのは悪いコトではないと思う。

 しかし、近くで接客しているヒトがいるのにうるさくはないのか?と思わずにはいられない。


 「勉強してるのに、こんな近くで仕事されたら集中できないんじゃないですか?」


 「できますよっ! 学年3位をナメないでください! それに、私が言いたいのはですね……」


 はい?という顔で次の言葉を待つ優だが、美咲は途中で言葉を止めてしまう。


 「どうかしましたか? なぜ、途中でやめるんです?」


 不審そうな顔で、先を聞き出そうとする優に、同じく不審そうな顔で店の入り口のほうを指差す美咲。


 「なに、アレ? 優さん、知り合い?」


 その言葉に後ろを向き、アレを探す。

 そこには、黒いバンと同じような黒塗りのセダンが停まっていた。


 「いいえ、違うと思いますけど……おや? なんで、あのヒトがココに来ているんですかねぇ」


 言葉の途中で言を覆し、言葉とは裏腹にどこか楽しそうで嬉しそうな声で言う。

 ちょうど黒いバンから、黒いスーツに、ボタンを開けているYシャツ、ゆるいネクタイといういかにもヤクザとかのその道であろうヒト達が降りてきて、セダンのドアを開けた。

 セダンからは、高そうな白いスーツを着たクールなカンジのイケメンな青年(美咲基準だが当然、優のほうが上である)が降りてきて、真っ直ぐこの店に向かってきている。


 「ちょっと、優さん! あのヤクザみたいなヒト達、知り合い?」


 「えぇ、少し。 大丈夫ですよ、悪いヒト達ではないので。 なんなら、隠れていてもいいですよ」


 若干の狼狽を含んだ美咲の言葉に対し、笑いかけ、安心させようとする。

 隠れててもいいと言葉だけではなく奥を指してそちらへ行かせようとしたが、やんわりと断られた。


 「いえ、優さんがそう言うなら、大丈夫だと信じてるので、ココでいいです」


 「そうですか。 では、ちょっと待っててくださいね」


 そう言い、店の入り口まで来ていた青年のほうに歩み寄る。


 「やぁ、どうも。 お久しぶりですね、菊岡さん」


 微笑みながら、挨拶をする優に菊岡さんと呼ばれた男はニコリともせずに応える。


 「お久しぶりです、藤咲さん。 私のコトは呼び捨てでもいいと前から言っているのですが、直す気はないのですか?」


 「そういう、君だって相変わらずじゃないか。 私のことは優でいいって言ってるのに」


 珍しくぞんざいな言葉遣いをする優に、少なからず驚く美咲。

 対する菊岡は、慣れているらしく、特にコレといった感情を見せない。


 「それで、今日はどんな用件ですか? まさか、花を買いに来たんではないでしょう?」


 「……いえ、花を買いに来ただけです。 それで、そちらの女性は?」


 少しの間が空いてから、いきなりこちらを見る菊岡。


 「この店の常連さんですよ。 いつも、来てくれています」


 「あ、どうも。 高城 美咲です。 高校生です」


 ニコニコ言う優に、ついタメ口を使ってしまう美咲。


 「ふむ。 相変わらず、鈍いですね。 昔とあまり変わっておられないようだ」


 二人を交互に見てから、なかなか鋭いコトを言う菊岡。


 その言葉にドキッとしたが、やはり優は何も気付いていない。


 「はい? まぁ、いいですか。 それで、ホントの用件は何なんですか?」


 呑気にさっきと同じコトをもう一度言う優。


 「……総長がお呼びです。 なるべく、早く出頭してくださいとのコトです。でも、ホントに花も頼まれたんですよ? 組に飾る花を新しくしたいと仰ってました」


 あまり、聞きなれない言葉に驚く美咲だが、優は至って普通に応えている。


 「そうですか。 花は、どれくらいの量をご希望で?」


 「屋敷全ての花を買うそうですから、鉢植えだけでも50は必要ですね。 あと、料金は気にせず、最高のモノを用意してくれと仰っておりました」


 「なるほど、わかりました。 用意ができましたら、お電話しますね」


 「わかりました。 それでは、お待ちしています」


 そう言い、未練もなく身を翻し店から出て行ってしまう菊岡。

 車に乗り込み、待機していた男達が礼をしてから、走り出す。

実に早い退散だと感心させられるほどだ。


 「あのヒト達は誰なんですか? 仲がいいみたいでしたけど」


 「そうでもないですけどねぇ。 まぁ、同じトコロで学んだ弟子同士ですかね。 同じ剣術の師匠の下で修行したですから」


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