第十二話 仕事が終わって
「まさか、神代先生があんな顔をするとはねぇ~。 優さんのおかげで、面白いものを見れたわ」
学校を出て、車で優の店に向かい走りながら、言葉の割にはどこかトゲがあるように言う美咲。
優が事務室に行き書類を書いて戻ってくると、そこにはなぜか凛も一緒にいて、しかも見たことも無いぐらい楽しげに話しながら帰って来たのだ。
美咲としては面白い訳がない。
「話してみると良いヒトでしたよ。 連絡先も交換してくれましたし、可愛らしい方ではないですか」
美咲の心中を全く知らずに、そんなコトを言う優。
運転中なので、険しくなった美咲の表情をみることがなかったので自分がどれほどの地雷を踏んだか気付いていない。
「そうですか。 それで、今日もご馳走してくれるんですか?」
最初は堅い声だったが、優の鈍さに諦めたのか優に確認をとる美咲。
「ええ、いいですよ。 今日はオムライスでも作ろうかと思いましてね。 あ、買い物に寄ってもいいですか? 材料を買いたいので」
「そんな、わざわざ買うならご馳走してくれなくて大丈夫ですよっ! 優さんに悪いです!」
食材を買うためにそんなコトを聞く優だが、スゴイ勢いで美咲が断ってきたので思わず目を見開いて隣の助手席を見る。
「そこまで、言わなくても……どうせ、いつもご馳走してるじゃないですか。
今更、遠慮しなくていいですよ」
優の微笑みながら言う言葉に対し、イヤと言えない美咲はそのままシートに沈みこむ。
「……じゃあ、遠慮なくよろしくお願いします。 いつも、ありがとう」
結局優に負けてご馳走になることにして、蚊の鳴くような声で感謝の意を述べる。
「はい? 今、なんて言いましたか?」
「いいえ、何もっ!」
最後の言葉が聞き取れなかった優が美咲に聞くが、本人は否定してから窓の外を向いてしまう。
(また、なんか悪いコトしましたっけ私?)
そんな美咲の態度に疑問を感じつつ、自分の過去の過ちを記憶の中から探し始める優。
学校と自宅のちょうど中間あたりにあるスーパーに向かい車を走らせる。
10分ほど運転しながら過去の過ちを捜索していた優だが、結局見つからないままお目当てのスーパーに着いてしまった。
仕方が無く、そこで自分の記憶との対峙を諦め、車を駐車場に停める。
店の入り口から比較的近くに停めたので、買った食材が多くなっても大丈夫だろう。
というものの、いつもまとめて1週間分を買い足してしまうので、とんでもない量になる。
一人暮らしの割りにヒトより多く食べると自覚している優は、いつも無意識のうちに入り口近くに車を停めてしまうのだ。
他のヒトから見ると、ゆうに4人家族のヒトが買うぐらいの量と同じくらいなので、まさか優が独身の一人暮らしとは思わないだろう。
「では、買い物に行きましょうか。 あ、美咲さんそこにあるエコバッグを持っていってください」
「はいはーい。 ……って、コレ全部!?」
ドアに備え付けの収納スペース(ドアポケットという)に入っている大きめなエコバッグ3つを指差しながら言う優。
それに対し、一つだけかと思って赤いエコバッグだけを取った美咲に首を振る優を見て全部取り、満足げに頷く様を見て驚きに声をあげる。
「そうですよ。 まとめて買ってしまうんですから。 あ、ありがとうございます。 それじゃあ、行きましょうか」
「はいっ!。 さっき、遠慮してた私がバカみたいだわ……」
エコバッグを持ってくれてる美咲に礼を言い、先に立って歩き出す優に元気良く返事を返し、自分の持っている大きめの3つのエコバッグを見つめながら独白する美咲。
店に入るなりカートと買い物かごを慣れた手つきで手に取り、迷い無くどんどん進んでいく優。
野菜を物色してから、良さげなモノをかごに入れていく。
料理を全くしない美咲には何が良いのか全く分からなかったが、優がていねいにやさしく教えてくれた。
まずは、ジャガイモのたくさん入った段ボール箱の前に立ち、
「ジャガイモはですね、今は4月なのでちょっと早いですが、春の旬な食材でおいしいんですよ。 一般的に春に収穫されたジャガイモは『新じゃが』と言われてましてね。 ほら、このジャガイモのように皮に張りがあって、しわや傷が少ないものを選ぶんですよ」
キレイな色のジャガイモを手に取りながら懇切丁寧に説明をしてくれる。
「逆に、このように皮が緑がかってしまってるジャガイモはカタくて、えぐみがあるんですよ」
今度は皮のあたりが若干、色が緑になっているジャガイモを手に取って説明する。
そのように、野菜売り場を順繰りに見て回り、いろいろな野菜の説明を受けた。
無論、キノコ売り場は全くのスルーである。
二人とも全く言葉を発さなかった。
次に肉売り場に来たが、優はオムライスに使う鶏肉が一番近くにあったのにも関わらず、そちらを全く見ずになぜか牛肉のコーナーに歩を進める。
「優さん、鶏肉は見ないんですか?」
不思議になって質問するが、優は答えない。
「優さーん、ちょっと聞いてる?」
「このお肉、おいしそうですねぇ。 でも、意外と高いですしどうしましょうか……」
どうやら、自分の心の中に葛藤が生じているようだ。
確かに値段を見ると、100グラム450円と書いてある。
いくら、料理をしない美咲でも高いということは分かる。
「ムググ……」
ヘンな声を上げるので、思わず可笑しくてわらってしまう。
「ウフフッ、大丈夫ですか、優さん?」
「だ、大丈夫ですよ。 ただ、このお肉がおいしそうなので……」
そう言い、脳内で通帳の中身を確認する優。
(確かにまだ余裕はありますけど……どうしましょうか。 コレを買ってしまったら、新しいショーケースが買えなくなるかもしれない)
未だに葛藤中の優を不憫そうに見て、美咲がある提案をする。
「じゃあ、私が買ってあげるよ! いつも、ご馳走してもらってるからそれのお返しってことで」
「いやいやっ! それは悪いですよ! いつもは私が作るついででご馳走しているんですから、材料を買ってもらうのは忍びないですよ!」
美咲の提案に対し、即座に否定する優。
実際に、今までご馳走したときに材料費だけでも払うという美咲を断り続けてきたのだ。
「じゃあ、私も一緒に食べますよ! ご馳走してくれるのなら、それで、半額ずつってのはどうですか?」
「いえ、でも悪いですよ……。 それにいつ食べるんですか?」
まだ渋っている優の質問に答えを詰まらせる美咲。
そこをまだ考えていなかったのだ。
「じゃ、じゃあ、おこがましいですけど……今日の夕食もご馳走してもらってもいいですか?」
肉を食べたそうな優の目の色が変わらないうちにそう提案する。
効果はバツグンだった。
「あ、それなら……まぁ、いいですよ。 ではっ!! うでによりをかけて、ステーキにでもしますか!」
「いや、ステーキってただ焼くだけじゃん!」
優の天然に的確にツッコミを入れる美咲。
「あ、そういえばそうですね」
自分の言葉に可笑しみを感じて、微笑む優。
そして、二人は互いの顔を見て笑いあう。
傍から見る二人は、仲睦まじい夫婦の様だった。
この話を書いてから思いましたが、全く花が出てきませんでしたね!
それに、このままいくと料理人の話になりそうです(汗)
しかも、野菜について調べていたので大分詳しくなりましたw




