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花をあげよう  作者: 花咲 匠
12/22

第十一話 本業の仕事 Part,2

 先程までは晴れていた空が、今は雲行きが怪しくなってきており雨でも降り出しそうだ。

 そんな空の下、車の中で大好きなクラシックを聞きながら鼻歌を歌っている男がいる。

その男、即ち高校での入学式の準備を終えた優は、学校の駐車場で一人の女性を待っていた。


 「雨が降りそうですねぇ。 やはり、誘ってよかったですね。 それに、大事な話もありますし」


 今にも雨が降り出しそうな怪しげな天気の空をフロントガラス越しに見上げ、溜め息混じりに独白する。

 視線を空から地上に戻すと、ちょうどお目当ての人物が校舎のほうから歩いてこちらに向かってきていた。


 「おっ、来ましたか。 美咲さーん、こっちですよ、こっち」


 雨が降ってきそうだったので美咲を家まで送り届けるコトにしたので、美咲を待っていたのだ。

 エンジンを吹かし、車の窓を開けて手を振りながら呼び寄せる。


 「ちょっと、優さんっ!? 恥ずかしいから、あんまり大きな声で叫ばないでよっ!」


 イマドキの女子高生にしてはあまり短くないスカートの裾を恥ずかしそうに押さえながら顔を赤くしながら言う。


 「恥ずかしいって、私達の仲じゃないですか。 何をそんなに、慌てているんです?」


 「誤解を招くような言い方やめてもらいませんかっ!? まだ、同じ生徒会の子が見てるんですよ!?」


 さらりと他のヒトが誤解しかねないような言い回しで呑気に言う優。

 それに対し、恥ずかしさにより顔を赤くしたままの美咲が周囲の目を優に意識させようとする。


 「わかりましたって。 それより、ほら雨が降ってきましたよ。 早く乗らないと濡れてしまいますよ」


 ポツポツと降り出した雨を見ながら、優がこれまた呑気に言う。

 さっきまでは、真っ赤だった美咲も今では、驚くほど素直に優の言葉に従った。

 この男の最大の長所はヒトを落ち着かせる術に長けているというコトだけなのを本人は勝手に思っている。 

実際に長所の一つであることは確かなのだが、それ以外にも他のヒト(特に女性)に聞けばザルですくえるぐらいたくさん出てくるだろうが、本人は全くの無自覚である。

 助手席に滑り込んできた美咲を見て、出発前の最終確認をする。


 「シートベルトはしめましたか?」


 「子供じゃないんだから、大丈夫よっ!」


 「荷物は全て、積みましたし。 さて、行きますか」


 憤慨した様子の美咲を横目で微笑みながら見て、後部座席に乗っている色々な荷物を一瞥いちべつしてアクセルを踏もうとする。


 「アレ? あのヒトなにか用でもあるんですかね」


 「ん? げっ、神代かみしろ先生!?」


 足をアクセルから離して、こちらに大股で歩いてくる車の駐車場所で注意されたキツメの若くて美人な女性教諭を見ながら言う。

 その優の視線を追って、その女性教諭、神代先生を見つけうめごえを漏らす美咲。


 「こんにちは、高城さん。 ところで、あなたに学校から出るときは私に連絡をしてからといいましたよね?」


 運転席側から近付いてきたのに、助手席にいる美咲を見つけ、挨拶をしてから、ジロリと優を睨みながら言う。


 「こ、こんにちは、神代先生」


 「あ~、そういえば、そんなコト言ってましたねぇ。 まさか、美咲さんに

会うとは思わなかったのですっかり忘れていましたよ」


 若干おどおどしながら挨拶を返す美咲と、いつもと全く変わらず、悪びれる様子もなく言い切る優。


 「忘れていた? あなた、それで許されるとお思いですか! 早く事務室に行って、書類書いてもらわないと困るんですよ!」


 不穏な声音でそう告げる神代先生に対し、ゆるりと対応する優。


 「はい、すいません。 今から書きに行きます。 美咲さん、少し待っていてくださいね」


 そう言い、車を降りてしまう優。 

 それを満足げに見ながら頷き、優を先導しながら事務室へ向かう神代先生とまるで嵐のようなやりとりを呆然と眺めていた美咲が車に取り残された。




 神代先生の先導で事務室へと向かう途中、優は興味深げに学校を観察していた。


 「ここの学校って、意外とキレイですよね。 けっこう昔からあると思うんですが」


 20年以上前からある学校を見ながら、そう素直な感想を漏らしたら、前を歩いている神代先生が嬉しそうな顔で振り返る。


 「ホントですかっ!? ありがとうございます! 私、美化委員の担当でキレイにするよう心がけてるんですよ!」


 「そうなんですか。 やっぱり、担当の先生が美人だと生徒も張り切るんですかねぇ」


 ふと思ったことをすぐに口に出すのがこの男だが、まるで違和感がなく発せられた言葉に神代先生が顔を赤くする。


 「そ、そんなモノですかね。 そういえば、あなたの名前をまだ伺っていませんでしたね」


 気恥ずかしさを隠す為に、話題を変えて気をそらそうとする。


 「私は、藤咲 優といいます。 見ての通りの花屋ですよ。 あなたのお名前は?」


 微笑みながら自己紹介をする優に、促され自分も自己紹介をする。


 「私は、神代かみしろ りんです。 見ての通りの教師です。 教科は数学です。 よろしくお願いします」


 「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。 いいお名前ですね」


 「あ、ありがとうございます。 藤咲さんだって、名前どおりのお優しい方ですね」


 「そうですか? あ、私のことは優でいいですよ。 皆さん、そう呼びますしね」


 あまり苗字では呼ばれないので、どこか違和感を感じた優が名前で呼んでくれと凛に頼む。


 「いいんですか? じゃあ、私も名前で呼んでください」


 「わかりました、凛さん。 やっぱり、笑っていたほうが可愛いですよ」


 ごく自然な笑みを漏らしながら言う凛を見て、優はサラリと告げる。

 それを聞いた凛は顔をひどく真っ赤にしながら、かぶりを振る。


 「なっ、いきなり何を言い出すんですか!? あまり、ふざけないでくださいよっ!」


 「別に、ふざけてる訳ではありませんよ。 私の素直な感想を述べたまでですしね。 いつも、笑っていればいいのに?」


 ふざけていないというコトを証明するために、真剣な眼差しでジッと凛を見つめながら言う優。


 「そ、そうですかね。 あ、ありがとうございます。 でも、高校生相手にそれだと威厳がなくなるので……」


 真剣な眼差しに対し、たじたじとなって切実な問題を打ち明ける。

 大学を卒業してまだ2年なので、若いと軽く見られがちなので生徒に舐められる事が多いのだ。

 それを無くすために、厳しい先生を演じているのだ。

 元は演劇部だったので、『演じる』ことは得意なのである。

 そんな、凛の心中を知ってか知らずか優は特に多くを語らなかった。


 「なるほど。 まぁ、確かにそうですね。 お仕事大変そうなので、これからも頑張って下さい」


 出会ってすぐのヒトにこんなコトを言われたら凛は機嫌を悪くしただろうが、不思議と優の言葉はしっかりと心に響いた。


 「はい、ありがとうございます。 あ、事務室はここですよ」


 「ありがとうございます」


 温かい言葉に感謝の言葉を告げ、本来の目的地である事務室にたどり着いたコトを知らせる。

 それに礼を言い、事務室の扉を開けて入る二人。

 そんな二人を傍から見ていたある男子生徒は、神代先生の意外な一面に驚きを隠せなかった。


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