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第一話 「元精霊使い」

 ――じゃあね。


---


 ――転移してから数分の事。


 この世界に転移した理由はよく知っている。

 睡眠から覚めたらこの異世界にいたという、たったこれだけの出来事である。

 周囲を見渡してみればどこまでも広がっていそうな中世風のザ・ファンタジー世界。

 ある程度の風景も、昔からよくアニメなどで見てきたあるあるの異世界というのは見に見えて実感することができた。


 「それにしても異世界転移か……こんな俺でもヒロインと結ばれる展開を望むぜ」


 弱音が混じった声と希望を抱きつつ、そんなことを独り言として吐きながら街を歩き回る。

 八百屋のような店を経営しているお婆さんに日本円を渡してみると、案の定拒否された。


 「金も使えず、ヒロインも現れず……そして不登校の俺、完全に詰んでね!?」


 「――今宵はいい闇になりそうだ」


 「は、はい?」


 声の主は背後ではなく、ポカンと立ち尽くしている俺の横にある家の壁に寄りかかって黄昏ていた。

 黒と紫が混ざった衣装を羽織っており、パタパタと風によくなびいている。

 「男」は空を見上げるのを一旦やめ、俺に気がつくとニヤリと目を合わせた。


 「異世界にも厨二病キャラはいるのか……」


 「厨二病?ってのは知らないが、君は誰だ?初対面であれ親しき中にも礼儀ありだろう?」


 「あぁ、ダメだこりゃ」


 親しくなるほど仲良くなった覚えはない。

 俺はため息をつき、メインヒロインも現れないことに気力を無くしてしまった。

 男はまたも空を見上げながら、ぶつぶつ何かを口先からほざいている。


 ――その時だった。


 今度は背後から美声の持ち主が近づいてくる。

 咄嗟に俺は振り向くと、焦っているような顔つきで走ってくる「彼女」が見えた。


 「メインヒロイン爆・誕!! やっときたか!!」


 「ちっ、しつこい奴だな本当に」


 男は舌打ちをして立ち去ろうとするが、走ってきた彼女に最初で最後の「魔法」を放って足止めをする。

 彼女は道が阻まれ、男の行方を見守ることしかできない状況となってしまった。

 俺はただ何が起きているのか知らず、焦りに焦りまくって疲労が溜まるばかりだ。


 「いい加減、私の精霊返して!!」


 「精霊は我が神から離れない。染まり済みだ」


 「嘘、でしょ?――私の大切な精霊が……」


 男は立ち去り際にそう彼女に告げた。

 彼女は抵抗できずに漠然としない顔と声で絶望感に浸っている。

 俺は男の手のひらから顕現した闇色に染まった精霊を驚愕した顔で見つめることしかできない。

 彼女もそれを見て、察したかのように理解してしまうと膝から崩れ落ちて挙句の果てには涙を流した。


 「お、おいお前!! 俺のメインヒロイン泣かせるとか度胸あんじゃねぇか!!」


 「君とは仲良くできそうだよ。次にもし会うようなことがあれば、二人だけで話したいことがある」


 「話したい……こと?」


 「それよりも、君がメインヒロインと呼ぶその彼女を助けてやった方がいいんじゃないのか?」


 男は最後にそう言うと全身を色のついた闇のオーラに包み込んでその場から消えてしまった。

 その瞬間に男が放った闇色の魔法は足止めの機能を完全に無くし、男と共に消え去っていく。

 泣いている彼女に俺はゆっくりと近づき、安否確認へと移った。


 「えっと……大丈夫、か?」


 「―――あなたが止めてくれればよかったのに」


 「え?」


 「あなたが止めてくれれば!! まだ助かったかもしれないのに!!」


 胸ぐらを掴まれ、俺は地面に仰向けで倒される。

 彼女の瞼から涙がポロポロとこぼれ落ち、俺の顔面はグチャグチャに変化していく。

 俺は開いた口を閉じられず、ただ彼女の喚きを無言で驚きを隠せずに受け止める。


 「精霊がいなかったら……私、何もできないよ!」


 「――見た限りだけど、奪われたってことだよな」


 俺が彼女にかけた言葉は逆効果であったのが顔面にこぼれ落ちてくる涙の速度だけで察せられた。

 太陽はそんな彼女を無礼にも輝かせるが、輝くのはロングの狐色をした髪だけであり、心までは太陽でも輝かせられない。

 そんな彼女をずっと見てやれるはずもない俺は嫌われる覚悟で口を開いた。


 「―――助けるって言ったら信じてくれるか?」


 「それよりごめん!君は無関係なのに、こんな酷いことしちゃって」


 彼女の涙は止まり、掴んでいた俺の胸ぐらから手を咄嗟に離して謝罪の言葉をかけた。

 俺は立ち上がり、まだ立ち上がれずにいる彼女に俺の揺るがない意思を伝える。

 メインヒロインを助けてやるのは転移者として当然の行為なのだ。


 「どん底にいる俺だからこそ、同じ境遇である人間を助けてやれるかもしれない」


 「どういう……こと?」


 彼女は首を上げて問いかける。

 俺の顔と差し伸べられた手を見つめ、グチャグチャになった顔でも恥ずかしがらない。


 「俺が君のために無茶しようってことだ」


 「――でも、私の精霊はもう……」


 「無理かもしれない。けど、足掻いて足掻きまくってまずは君を助けたい」


 彼女は少しばかり希望を取り戻した。

 口元が微笑み、信用の証として俺の手をとった。

 元は綺麗な手だったと確信できるその手には、精霊なしでも彼女ながらに抵抗した複数の傷跡が温かい手に残されている。


 「私はアキレア。よろしくね!」


 自己紹介が始まり、彼女(アキレア)は希望の中に不安が混じったような声で俺に一言「よろしくね!」とだけ言って終了した。


 「俺の名前は椿蓮(ツバキレン)!! こちらこそよろしくお願いします!」


 友達ができた。

 いや、友達と言っていいのだろうか。

 人生で一度も友達を作れたことがなかった俺は考えていると眉間にシワが寄るが、


 「私、友達できたの初めてかも………」


 「え? いやいや嘘だよな?」


 「ほんとよ! だから、よろしくね?」


 「俺も初めてだよ!! よろしく!!」


 この会話で友達認定ということでいいだろう。

 彼女も一度も友達ができたことがないのは驚きだったが似たもの同士ということで仲良くできそうだ。

 

 ――だがその瞬間、俺はその場で意識が途絶えた。


---


 「――初めまして、かな。ツバキ・レンくん」


 「――ぁ?」


 天井は青すぎる晴天の空。

 そこで突如、何者かの声がかかった。


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