プロローグ 「不穏なる幕開け」
――息ができない。
呼吸困難に陥ったのは人生で初めてのことだった。
突如として地面に倒れ込んだ俺は、なぜか自分の首を絞められる苦しみを存分に味わう。
酸素が入り込める空洞は完全に閉ざされ、両手を首に強く押し付け空洞を作り込もうとしてもそれは無に返され、有限である労力を無駄に使ってしまう。
心拍数はバクバクと異常なほどに鼓動を高め、手足は痙攣するように人間離れした動きを施している。
「――死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!!!」
最後の足掻きとしてそばにいる仲間に助けを求めるが目はボヤけて何をしているのかが見えない。
瞼からは大量の涙が溢れ出し、充血した眼球があまりの重さに落ちそうになるが耐えるに耐えまくる。
喉の奥から口の外へ言葉を吐くたびに肺内の酸素は著しく低下し、限界という名の底に近づいていく。
――マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、マズイ。
緊迫感が向上しつつ、嫌な予感どころか死の気配を目の当たりにしている。
走馬灯が一瞬だけ目に映り込み、さらなる気持ち悪さが視界に影響を及ぼし酔いを発生させていく。
――10秒、20秒、30秒、40秒経過。
震えは依然として治らない。
全身の血の気はみるみるうちに引いていき、身体は低体温と化し、刻々と時間だけが過ぎ去っていく。
右目左目は共に、黒く染まった視界へと変化する。
小学生の時は水泳を習っていたため肺活量に自信があるほうだったが、今の彼の肺活量は衰え、以前のような自信は薄々と意識と同時に消えかけていく。
「――丈夫!?ねぇ!!」
仲間の声と心臓の爆動音だけが耳から体内へ響く。
もしやこれは突然の「病」というやつだろうか。
否、彼は意識が途絶える直前に察することができたのだがもう遅い。
すでに限界を迎えた酸素の含まれていない肺は役目を果たしたかのように機能しなくなり、
――彼、椿蓮の意識は闇の中に消えた。
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