↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂特戦隊-シーズン2(前日譚)  作者: portanlo
今シーズンの特殊編
31/34

【 オークの随扈特殊篇:自信と傲慢(ㄧ)】

「戦神の子嗣(しし)よ、汝らはハイランドの戦士なり。我らはこの両腕を誇りとする。されど、傲慢へと堕する自信を常に警戒せよ」――オークの戦神。


 深淵(アビス)の侵攻が始まったばかりの頃……。


 バンッ!


 乱暴に扉を開ける音が、ベッドに横たわっていたハイランドオークと、その左右にいた女オークたちを叩き起こした。ギィギィと音を立てて揺れる扉口には、巨体を誇るオークが立っていた。


「おお、酋長か……。今、一体何時だ?」


 まだ頭の働いていない傲慢なオークが、その巨体を起こしてベッドから起き上がる。左右でその腕に寄り添っていた女オークたちも、慌てて起き上がった。


 羽飾りをあしらった冠を戴くオークの酋長は、長い杖を突きながら問いかけた。「わしがどれほど長く扉を叩いていたか、分かっているのか?」


 目の前の光景に、酋長は失望と落胆を隠せず、かぶりを振った。「わしは一体、何を見せられているんだ……」


 女オークたちが慌てて衣服を身につける傍らで、傲慢なオークはのろのろとズボンに脚を通した。「勘弁してくださいよ、今更いつの時代の古臭い考え方を引きずってるんです? 俺は一族の未来の希望(スター)ですよ。これくらい普通でしょう?」


 二人の女オークが酋長に一礼し、慌てて去っていく。酋長は手にした杖で床をコンコンと叩き、叱責した。「己の立場を弁えろ。お前は次代を担う後継者だ。傲慢へと変わる自信を、常に警戒せねばならん」


「ぷっ、ハハハハ! 常に警戒してますとも。そうでなきゃ、どうやって俺がこの地位まで上り詰めたって言うんです?」傲慢なオークは思わず吹き出すと、逞しい両腕を掲げて見事な二頭筋を誇示した。


 酋長は、不真面目極まりない傲慢なオークの態度に杖を床へ叩きつけた。「東のハイエルフから、最高指導者が我が方に共同戦線の協議を求めて来られている」


「共同戦線(アライアンス)?」傲慢なオークはベッドに腰掛け直し、片眉を上げた。


「そうだ。ここ数日、東海岸に正体不明の敵が現れた。人間の島国がその連中に滅ぼされたらしい」と酋長が説明する。


 傲慢なオークはそれを聞き、鼻で笑った。ヘッドボードに背をもたせかけ、怠惰に返す。「くだらねえ、そんなことで共同戦線(アライアンス)か?  あのもやしどもが己の弱さを省みず……」


 酋長は傲慢なオークの漫不経心(なげやり)な態度を見かね、再び杖を力強く床に叩きつけた。「無礼者! お前はわしの跡を継ぐ者だ! それほどの不誠実さで、どうしてこのハイランドを治められる!」


「はいはい……」傲慢なオークは耳をほじくった。


 本来なら傲慢なオークを伴って異国の領袖に謁見するつもりだったが、目の前のお話にならない腑抜けた様子に、酋長は痛ましそうに眉間を揉んだ。「……もういい。お前は一人で深く反省しろ。その態度が、未来の酋長たる器のものか?」


 酋長が扉を閉めて立ち去るのを見送り、傲慢なオークは不耐そうにぼやいた。「全く、わしたちハイランドオークはあのトロルすら恐れんのだぞ。何を今更怯える必要がある?」


「さて、次はどこの娘と遊ぼうか……」傲慢なオークは手を擦り合わせると、そのまま扉口へと歩み出た。


 傲慢なオークが外へ出ると、酋長はすでに自身や他のオーク戦士たちを引き連れ、世界樹の下にあるエルフの議事堂を後にするところだった。


 道すがら、二振りの大鉈(おおなた)を背負った傲慢なオークは、不遜な眼差しで周囲のエルフの建造物やエルフたちを眺めて吐き捨てた。「ハッ! たかがもやしの集まりじゃねぇか。耳が長いかどうかの違いしかないくせに。力があるなら、自分の領土に侵入されるわけがねぇだろ?」


 傍らの完全武装したオーク戦士が同調する。「全くだ。挙句に俺たちオークの力を借りようだなんてな。兄貴、後で俺たちを暴れさせてくれよ、腕が鳴るぜ」


 酋長は杖を握り直して振り返り、鋭い眼光で連中を睨みつけた。「全員、黙ってついてこい。この老骨がまだ目の前にいるのが見えんのか? 他国の傭兵として雇われる以上、お前たちはハイランドの顔だ。身勝手な振る舞いは許さん」


 酋長の一言に、戦士たちは一瞬で口を噤んだ。やがて、一行は三国国境を突破された防衛線の最前線へと到着した。


 遅れて前線に駆けつけたエルフ議会長が酋長の前に進み出ると、ドレスの裾を持ち上げて恭しく一礼した。


 酋長は手を腹の前に当てて一礼を返す。「ここでの儀礼は不要です」


 酋長は遠方にうごめく無数の敵を見つめ、険しい表情を浮かべた。「直にこの目で現状を見ましたが、確かにあなたの仰る通り、楽観視できる状況ではありませんな」


「ええ……」


 エルフ議会長の言葉を待たずに、傲慢なオークは前線を警備していたハイエルフを強引に突き飛ばした。彼は二振りの大鉈を高く掲げ、手下たちに向けて叫んだ。「そこを退け、もやしども! 俺たちオークの力、とくと目に焼き付けやがれ!」


 予想外の暴挙と醜態に、酋長は慌てて怒鳴りつけた。「おい! 傲慢なオークよ! 止まれ!」


「……お終いだ」酋長は力なく首を振り、深いため息を漏らした。引導を渡すかのように、隣のエルフ議会長に向かって謝罪する。「申し訳ありません。お見苦しいところをお見せしてしまった……」


 酋長は頭の羽冠を外すと、太い杖に巻き付けられていた麻布を解いた。その下から、細長く鋭利な大剣が姿を現す。


 酋長は片手でその大剣を引きずりながら、傲慢なオークたちの向かった方向へと疾駆していった。


 血気盛んなオークたちを率いて先陣を切る傲慢なオークは、軽々と大鉈を振り回して突撃していく。襲い来る敵は彼の放つ強大な一撃の前に、次々と腰から両断され、叩き断たれていった。


「弱すぎる! 俺様は戦神の後嗣だぞ!」傲慢なオークは武器を狂ったように振り回し、一方的な蹂躙の快感に酔いしれていた。


 突如、上空から襲い来る黒い影。手にした大剣を垂直に叩きつけてくるのに対し、傲慢なオークは腰を捻って力任せに大鉈を薙ぎ払った。――直後、彼は驚愕に目を見張る。


 強烈な衝撃ののち、紫色の羽冠を戴き、オークの輪郭を持ったその敵は、空中で軽やかに身を翻した。大剣を地面に深く突き立て、奴は着地を果たす。


 呆然としていた傲慢なオークは激しく首を振り、目の前に立ち塞がる、不気味な紫色に染まった見慣れた酋長の姿を睨みつけた。ペッと唾を吐き、口角を吊り上げる。「丁度いい。どうせ酋長試練の場では戦う運命だったんだ。お前が俺の小手調べの相手をしろ」


 激しく刃を交える二人。遠方から敵を切り裂きながら進んできた酋長が、オークたちへ向けて大声を張り上げた。「退け! この傲慢な大馬鹿野郎どもめが!」


 酋長が戦闘中の戦士たちの元へ駆けつけるたび、その絶対的な命令の前に、戦士たちは強制的に戦闘を立ち切り、エルフの守備隊の方向へと退却せざるを得なかった。


 この時、最前線で紫色の酋長と死闘を繰り広げていた傲慢なオークは、もう一つの巨大な影が音もなく背後へ迫っていることに全く気づいていなかった。


 傲慢なオークが大剣を弾き飛ばし、右腕を高く掲げて、紫の酋長の脳天へ大鉈を叩き落とそうとした、その瞬間。


 不遠の場所から、酋長が絶叫した。「馬鹿野郎! 後ろだ!」


 傲慢なオークが反応するより早く。一閃。目にも留まらぬ速さで薙ぎ払われた巨大な斧が、彼の右腕を切り裂いた。鮮血が右へと激しく舞い散り、大鉈を握ったままの右腕が、地面へと鈍い音を立てて落下した。


 酋長は天高く跳躍し、迫り来る紫のトロルの身体へ着地する。大剣をその鎖骨へと深く突き刺し、鮮やかな動作で引き抜くと、傲慢なオークの息の根を止めようとしていた紫の酋長へ目掛けて飛びかかり、一撃を叩き込んだ。


 紫の酋長が砕け散る。酋長は身を翻すなり、呆然と立ち尽くす傲慢なオークの顔を力任せに引っ叩いた。さらに迫り来る敵を大剣で薙ぎ払いながら、吠える。「戻れ!」


 現実に引き戻された傲慢なオークは、頭を真っ白にさせたまま右腕の切断面を押さえ、エルフの防衛線へ向かって惨めによろめきながら撤退した。その背後では、酋長が襲い来る敵を次々と斬り伏せ続けていた……。


「傲慢な戦士は、頂の王座に登り詰める前に、必ずや墜(お)つる」――オークの戦神。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。