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【第十六章:俺のターン、ドロー!フッ、まずは『技術革新』を発動、さらに『砲撃支援』をオープン!どうだい、連合軍ボーイ?(二)】

「ゴブリン、俺のカバーに回れ! ベビー、そのままシャボン玉を撒き散らし続けろ!」


 オールドマンは戦況へと意識を戻した。 味方の損失は秒単位で増え続けている。 これ以上の死守は全滅を意味した。 彼は懐から、バイ指揮官が署名したあの書類を引っ張り出した。それを二つに折り曲げ、サインが記された箇所を高く掲げ、声を張り上げる。


「バイ指揮官の名において命ずる! 全軍、二つの梯団に分かれて順次後退せよ! 交互に火力カバーを行い、速やかに第二防衛線を構築するんだ! 急げッ!」


 命令。 命を吹き込まれたかのように、連合軍は前後の梯団に分かれ、秩序を保ったまま町の方角へと後退を始めた。 距離が開き、味方の猛烈な抵抗も相まって、追撃を試みる深淵の勢力は目に見えて減退していく。


──────────────────────────────────


「どこのどいつだ! 勝手に撤退を指示しやがったのはッ!」


 連合軍が迅速に撤退し、急ごしらえの臨時防衛線を構築するやいなや。 激怒した人間の大隊長は、血眼になって犯人捜しを始めた。 しかし、兵士たちが無言のまま指し示した先には――。


 指し示された先――通信用テントの傍らに佇むオールドマンたちの姿を捉えた瞬間。 大隊長の脳裏に、かつてバイ指揮官が私的に語っていた「最も信頼している風変わりな一団」の言葉がフラッシュバックした。


 大隊長はハッと息を呑んだ。 続いて怒りを噛み潰すようにしながらオールドマンの前まで踏み込んできたが、その表情は複雑に歪み、言葉を濁した。


「バイ指揮官から、俺の噂でも聞いてたか?」 オールドマンは迷う大隊長を見据え、直球で切り出した。


「……指揮官からは、最も信頼できる男だと聞いている」 それでも怒りを抑えきれず、大隊長はオールドマンの胸ぐらを鷲掴みにした。 「だが! この独断の撤退が、戦線にどんな致命傷を与えるか分かってんのか!?」


(――バイの野郎、余計な話を吹き込みやがって……) オールドマンが心の中で毒づく中。 通信テントの受信機から、不穏な戦報が次々と流れ込んできた。 『――こちらバイ戦線、状況は最悪。第一防衛線を破棄、順次後退……』 『――こちらトーテム戦線、敵の猛攻を受けている! これ以上の維持は不可能、早急に第二防衛線の構築を……!』


 混雑する通信音。 各地から上がる悲鳴のような戦報を背景に、大隊長はなおも食ってかかった。 「お前も分かっているはずだ! このノルド回廊は、議会と連合帝国を繋ぐ唯一のルートなんだぞ! ここを遮断されたら、二つの世界は完全に分断され、それぞれ孤立無援で戦う羽目になる!」


「そんなことは百も承知だ。だがな、目先の維持のために残された手札をすり潰してみろ。最後には、パンツまで毟り取られるのがオチだ」 オールドマンは大隊長を静かに見つめ、淡々と諭す。 「トランプの数字を知っているか? 戦況のルールは変わったんだ。ワンペア、あるいはフォーカード、使える手はすべて使い、たとえイカサマをしてでもチップを残せ。無駄に全財産をオールインする状況じゃねぇ」


 大隊長の怒りは依然として冷めなかったが、オールドマンの放つ圧倒的な説得力に、返す言葉を失い、ただ押し黙った。


「さっきの放送が聞こえただろ。俺たちの戦線だけじゃない、連合軍全体の防衛網が縮小を余儀なくされているんだ。敵の急襲が早すぎる、これ以上の死守は自殺行為だ」 オールドマンは熱を帯びた声で説明する。 「道はある。ただ、現時点でこれ以上の妙手がないってだけだ」


 突如。 通信天幕の受信機から、別の力強い、そして聞き覚えのある声が砂嵐を破って響き渡った。


『――海の民よ。我らが先祖は、荒れ狂う怒濤を切り裂き、ようやくホンヴァーシャという掛けがえのない「海の郷」に辿り着いた。だが今、我らの家は奪われ、無慈悲な砲撃が我らの避難所を脅かしている。我らは、先祖のように恐れを知らぬ存在ではないかもしれない』 『だが今、俺の手には煌めく星がある! 俺はかつて三王子に宣誓した。そして今、お前たちにもその煌めく星を共に掲げてほしいのだ! 同盟の友たちと共にこの暗黒の時代を駆け抜け、もう一度、我らの海の郷に光を取り戻すのだ! 我らホンヴァーシャは――!』


 大隊長は、オールドマンの肩に掛けられた見覚えのある軍外套に目を留めた。 掴んでいた両手から、ふっと力が抜ける。 「あんた……ホンヴァーシャの、指揮官だったのか……」


 オールドマンは汗まみれのシャツをパンパンと叩き、問い返す。 「……昔の話さ。この外套に見覚えがあるのか?」


「俺はかつてキュリアの百人隊長だったんだ。何度もホンヴァーシャの連中とバイを防いだ。作戦会議で顔を合わせた指揮官たちの外套や徽章くらい、嫌でも覚えているさ……」 大隊長はそう言うと、オールドマンの肩の階級章を見つめた。ひどく眉間を揉む。 「我が聖光よ……。脳がバグりそうだ。あんたの戦術眼や決断力は、俺なんかより遥かに指揮官にふさわしい。だが……あんたの階級はただの『曹長』だ。俺は一体、どっちのあんたを信じりゃいいんだ?」


 オールドマンは不敵に口角を吊り上げた。 「自分のその目で、今見ているものを信じればいいんじゃないか?」


「……噂に聞いた。あの懦弱な王室に見捨てられながらも、独力で深淵の侵攻を五日間も耐え抜いた指揮官がいたと。放送の主が、その英雄だったというわけか」


 大隊長は、どこか軽蔑の入り混じった眼差しでオールドマンとその肩の外套を見つめたが、相手の言い返す余地もない説明に複雑な思いを抱かされ、さらに続けた。


「あの三王子がいた頃のホンヴァーシャとは違い、王子を失った後のあんたたちの王室は、完全に腐敗しきって救いようがないと思っていたよ。宗主国に寄生することを選んだ、臆病者の集まりだとばかり……」


「……かもな。だが、極限の絶望ってやつは、時に『本物の英雄』を育てるもんさ」 オールドマンはそう言い残すと、ふとハイエナとエルフの姿を思い浮かべた。 (――そういえば、あの二人の野郎ども。一体どこで油を売ってやがる……?) (――コンビネーションの破壊力は抜群だが、なんせあの性格だ。トラブルを起こさなきゃいいんだが……)


「敵襲ッ!!」


 兵士たちが突貫で土嚢を積み上げ始めた矢先、南東の方角からけたたましい怒号とざわめきが響き渡った。


 大隊長とオールドマンたちは、弾かれたように騒ぎの元へと走った。 視界に飛び込んできたのは、不気味に砲塔を後ろに向け、右に左にと蛇行しながら突っ込んでくる敵の紫色の砲車だった。 周囲の地面を自らの砲撃で吹き飛ばしながら、一目散にこちらへ向かって猛スピードで暴走してくる。


 大隊長は顔をこわばらせ、背後の対砲車部隊に向けて絶叫した。 「対砲車砲、用意ッ! 奴を吹き飛ばせ!」


 連合軍の砲車が慌てて敵車両へと照準を合わせようとする。 凄まじい悪寒を感じたオールドマンは、目を皿のようにして暴走するタンクを凝視した。 操縦席からひょっこりと半身を乗り出しているのは――間違いなく、あの狂特ハイエナのクソ面だった。


 オールドマンは青ざめ、必死に両手を振って砲車隊の前に立ち塞がった。 「撃つなッ! 撃つんじゃない! 味方だッ!!」


 しかし、暴走するタンクは一向にスピードを落とす気配がない。 「おいおい、ウソだろっ!?」 塹壕の周りにいた兵士たちは、悲鳴を上げながら左右の泥濘へと身を投げ出した。


「このバカ犬がッ! ブレーキだ! 左足のところにあるペダルを踏み込めって言ってんだろぉぉぉッ!!」 装甲車は塹壕を豪快に乗り越え、風を切り裂いてオールドマンたちの鼻先を通過した。 その一瞬、車内から鼓膜を破らんばかりの、ヒステリックな絶叫が漏れ聞こえてきた。


「正面衝突するッ! このバカ犬ッ! 右を押して、左を引け! 右プッシュ左プルだぁぁぁっ!!」


 装甲車が本部テントへと激突する、まさにコンマ一秒前。 車体が猛然と右に流れ、クローラーが激しい悲鳴を上げてスピンした。 泥濘の上を激しく横滑りしながら、テントの布地のわずか数センチ手前で、ガクンと急停止した――。


「ひゃはははッ! 一号車、ゴールイン! 初代チャンピオンの誕生だぜぇっ!」 狂特ハイエナは狂喜乱舞しながら、ハッチから両手を突き出して万歳三唱した。


 恋銃癖は、タレットの上部ハッチから魂が抜けたような顔で這い出してきた。 駆け寄ってきた大隊長とオールドマン一味を見るなり、彼はガタガタと震える指でハイエナを指差した。 「……この、バカ犬が……っ。敵陣のど真ん中で、敵の砲車を乗っ取りやがったんだ……っ!」


「へんっ! 俺様は、あの死にかけジジイの命令で、お前を回収しに行ったんだぜ! 俺の辞書に『不可能』の文字はねぇ!  『フェデックス』 ってな!」

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