【第十六章:俺のターン、ドロー!フッ、まずは『技術革新』を発動、さらに『砲撃支援』をオープン!どうだい、連合軍ボーイ?(ㄧ)】
祝勝会が幕を閉じ、エルフ議会長は身内の政治家たちにオールドマンを紹介しようとした。 しかし、当の本人が気のない生返事で適当にあしらっているうちに、宴の終幕と共に人々は散り散りに去っていった。 オールドマンも送迎用の車両に乗り込み、ホーリー・グロリア・キュリアへと引き返した――。
翌日の深夜。 静まり返った一室の扉が、音もなく押し開けられた。 ベッドの脇でうたた寝をしていた看護婦が、ハッと目を覚ます。 暗がりの中、入り口を凝視する彼女の視線の先で、一人の男の影が音もなく忍び込んできた。
窓辺から差し込む冷たい月光が、侵入者の輪郭を照らし出す。 浮かび上がったのは、オールドマンの顔だった。 驚き、声を上げようとした看護婦に対し、彼はすかさず人差し指を唇の前に立てて制した。
彼は足音を殺してベッドの傍らへと歩み寄り、自分に背を向けて眠る息子の姿を見つめた。 オールドマンは立ち尽くしたまま、ただ静かに、じっと我が子を見つめ続ける。 ……愛おしそうに伸ばしかけた右手。 我が子の温もりを確かめたいという衝動を、彼は必死に、ただ必死に抑え込んでいた。
看護婦が慌てて彼の傍らに寄り、蚊の鳴くような声で耳打ちした。 「閣下……。大旦那様が……あなたを坊ちゃんに近づけるなと、固く仰せられております……」
「分かっているさ。俺はただ、我が子の姿をこの目に焼き付けに来ただけだ。もしお前が立場上、どうしてもあのジジイに報告しなきゃならねぇんなら、俺に暴力で脅されたとでも言っておきな」 オールドマンは寂しげな眼差しを向け、極限まで声を落として囁いた。 「それから、俺を敬称で呼ぶのはやめてくれ。俺はどこまでいっても、ただの野良犬にすぎねぇんだからな」
言い終えると、オールドマンは看護婦に静かに頭を下げた。感謝と、我が子への願いを込めて。 そのまま身を翻して部屋を後にすると、難民キャンプの住処へと戻った。窮屈な礼服を脱ぎ捨てて再び宝箱の奥底へとしまい込み、いつもの煤けた野戦装備へと着替える。 そして、闇に紛れてノルド戦線のあの廃屋へと、ひたすら引き返した。
翌日。 空が夕暮れの橙色に染まり、弦月がその姿をくっきりと現す頃。 連日の強行軍によって極限の疲労に達していたオールドマンは、廃屋の干し草のベッドに倒れ込むなり、瞬く間に深い眠りへと沈んでいった――。
突如――大気を引き裂くような連続した爆音が轟いた。 衝撃波に弾かれるようにして、オールドマンは跳ね起きた。 壊れた天井から見上げる空は、夜の深藍が陽光に指示されて消え去り、橙色から清々しい青へと刻一刻と変化している。
状況を把握できぬまま、オールドマンは信じられないといった面持ちで、掠れた声を出した。 「……おいおい、砲撃だと?」
慌てて喧騒渦巻く屋外へ飛び出すと、遥か遠方の前線野営地が、真っ赤な炎と黒煙に包まれていた。 こちらの装甲部隊群も既に配置につき、対岸に向けて狂ったように砲弾をぶっ放している。
陣地全体に警報がけたたましく鳴り響く。 兵士たちは頭上を交錯する砲火の光の下、押し寄せる深淵を食い止めるべく、我先にと塹壕へとなだれ込んでいく。
その中の一人、獰笑ゴブリンがライフルの銃身を突き出し、頭を覗かせた瞬間。 一閃。 致命的な紫色の光線が、奴の眉間を容赦なく撃ち抜いた。 砕け散った頭蓋骨と、焦げ付いた脳漿が混ざり合った穢物が、後頭部から派手にぶちまけられる。
遠方からそれを見ていたオールドマンは、カッと目を見開いた。 どさりと倒れ込んだゴブリンの、辛うじて原型を留める顔の中心――そこには、奴が生前見ていたであろう、対岸の景色がくっきりと見えるほどの大穴が穿たれていた……。
「チッ、クソッタレが……!」 オールドマンは弾かれたように廃屋へ戻ると、床に置いていた『クズの真髄』を力任せに引っ掴んだ。
「オールドマン!? いつの間に戻ってきやがったんだ!」 飛び出したオールドマンの耳に、恋銃癖の叫び声が響いた。 見れば、小隊の仲間たちも既に完全武装を整え、こちらへ向かって走ってきている。
「御託は後だ、まずは塹壕に入る! 状況把握はそれからだ!」 オールドマンは当機立断で叫ぶと、先頭に立って銃火の飛び交う塹壕へと身を投じた。
塹壕の泥濘の中には、無数の死体が折り重なるようにして転がっていた。 「全員、頭を下げるんだ!」 指示を飛ばしながら、オールドマンは息絶えた兵士の頭からヘルメットを引ったくり、その辺に転がっていた棒切れとライフルを素早く拾い上げる。
彼は棒の先端にヘルメットとライフルを括り付けると、即席のデコイを塹壕の外へと突き出してみせた。そして、一度ゆっくりと引き戻す。 さらに数歩横へ移動し、再びそのデコイをゆっくりと持ち上げた――。 その瞬間。 シュンッ! 容赦ない一閃が走り、ヘルメットを一瞬にして撃ち抜いた。
周囲には砲声が響き渡り、頭上を光線が切り裂いていく。 足元に転がり落ちた鉄帽には、熱線によって完璧に熔解した大穴が穿たれていた。 それを見た兵士たちと小隊の面々は、ゴクリと生唾を呑み込んだ――。
「恋銃癖! 敵の狙撃手を割り出して仕留めろ!」 おおよその方角を指し示し、オールドマンは戦闘指揮を開始する。自ら周囲の土嚢を積み上げていく。 ただし、単に積むのではない。中央を空け、両脇に土嚢を盛って『銃眼』を作るのだ。
オールドマンはトロールの方を振り向いた。 「ベビー! あの窓から、紫のお友達にシャボン玉を全部プレゼントしてやれ!」
トロルが配置につくよりも早く、背後で鼓膜を引き裂くような轟音が炸裂した。 塹壕内の誰もが悲鳴を上げ、頭を抱えて泥の中に身を伏せる。 降り注ぐのは、生臭い、赤くて粘着質な「何か」の肉片。 それに続いて、原型を留めないほどにへし折られた連合軍の砲塔が、凄まじい地響きを立てて目の前に墜落した――。
耳鳴りが鳴り止まない中、オールドマンは無慘な砲塔の残骸を睨みつけ、唾を吐いた。 「チッ、クソッタレが……!」
残骸の背後から迫り来る敵の砲車。 それが一瞬の火閃に捉えられ、急停車した。 操縦席には真っ黒な大穴が穿たれ、操縦手は即死しているはずだった。だが――その砲塔は、まるで死んでも死にきれぬ怨念のように、重々しく、不気味に、じわじわと連合軍へ向けて照準を合わせ始めた。
間一髪。 こちらの砲車が僅かに早く装填を完了させ、二発目の砲弾を叩き込んだ。 爆音。 目前の敵車体から不気味な紫色の煙が噴き出し、今度こそ完全に沈黙した。
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オールドマンが息を吐き出すよりも早く。 大破した車両の影から、銃を構えた紫色のドワーフが突然飛び出してきた。 オールドマンが塹壕の奥へ飛び退こうとした、まさにその瞬間。 シュッ! 細く鋭い黒い影が、ドワーフの身体に突き刺さった。次の瞬間、その突き刺さった鉄針を導線として、凄まじい雷光がスパークした。
落雷に直撃されたかのように、紫のドワーフは悲鳴を上げる間もなく弾け飛んだ。 焦げ付いた金属の針が、ポタポタと泥水の中へ落ちる。 泥塗れになって倒れていたオールドマンが立ち上がろうとした時、目の前に、四本指の緑色の頑丈な手が差し出された。
「よォ。ボケ老人が。戦争の真っ最中だってことを忘れちまったのか?」
オールドマンはその手を掴んで立ち上がり、狂特ゴブリンのもう片方の手に握られた、見慣れない奇妙な武装をまじまじと見つめた。
狂特ゴブリンは不敵に笑い、彼が口を開くより先に、押し寄せる深淵に向けて引き金を絞った。 「この武器と背中のバックパックはな、あの学者どもと共同開発した『おもちゃ』ってやつさ」
引き金が強く引き絞られたままになると、下部銃身から眩い火光が噴き出し、シリンダーの回転に合わせて無数の鋭利な金属製の鋼針が呼嘯を上げて射出された。それらは、深淵の兵士たちの体内へと正確に突き刺さっていく。間髪入れず、ゴブリンはグリップの側面の電撃ボタンを押し込んだ。上部の探針から目も眩むような極光が瞬時に走り、迅雷の如き電弧が瞬く荊棘のように、金属針の誘導を伝ってすべての敵を死死と『連鎖』させた。
バチバチと跳ね回る凄まじい電流を、オールドマンは驚嘆の目で見つめた。 深淵のバケモノどもは、あたかも一時停止ボタンを押されたかのように、不気味に身体を硬直させたまま一切動けない。やがて肉体へ無数の亀裂が走り、最後は塵となってサラサラと瓦解した。
その時、銃剣を構えた紫色のハイエナが、狂特ゴブリンの背後から不意を突いて飛びかかってきた。 だがその瞬間、エンジニアリング・バックパックの側面にある小さな機械アームが飛び出し、先端のドリルが、不意打ちしてきた紫色のハイエナの身体を容赦なく穿った。
反撃を試みようとする紫色のハイエナが、拳銃を抜いて狂特ゴブリンに向けて発砲するよりも早く、双頭のトロールがすぐさま手にした六銃身の銃器を紫色のハイエナに向けて猛然と一振りした。敵は砕け散った残渣を伴いながら、まるで野球ボールのように生々しく上空へと弾き飛ばされた。
「ムラサキ、ワルイヤツ! シャボン、オシオキダ!」
六本の金属銃身が狂ったように回転するのに伴い、眩い火光が噴水のように傾瀉し、狂暴な弾幕が半空の紫色のハイエナを空中にがっちりと押し留めた。正面から容赦なく浴びせ続けられた銃撃の嵐は、しばらくの間その標的を空中で痛打し、最後には半空で徹底的に粉砕した。
その間、オールドマンも遊んでいたわけではない。 手にした『クズの真髄』を構え、狂特ハイエナと見事な連携を見せながら、襲い来る敵を正確にハチの巣にしていった。
しかし、局地的な戦果とは裏腹に、全体的な戦況はジリ貧だった。 オールドマンはハイエナに向かって叫ぶ。 「ハイエナ! 恋銃癖を連れてこい、後撤するぞ! 道中、気をつけろ!」
敵から奪い取った紫色の武器を構え、紫のオークを一匹仕留めたばかりの狂特ハイエナ。 彼は弾切れの銃をそのままバットのごとく振り回し、別の敵を武器ごと叩き潰した。 「ふぅ」 粉々に砕け散った敵の残骸を両手で払い落とす。
ハイエナは誇らしげに口角を吊り上げ、驚くほど流暢な言葉を吐き出した。 「おい、死にかけジジイ。その幼児向けの交易語で俺に指図すんじゃねぇ」
言い残すや否や、疾風のように戦場を駆けていく後ろ姿を見送りながら。 射撃を維持していたオールドマンは、心底意外そうに舌を巻いた。 (――あのハイエナ、いつの間にかずいぶん言葉を覚えやがったな……)




