【第十五章:第十五章:イエーーイ!大勝利だ!社畜ども、続けて宴の準備をしろ!/肝臓『身体中がバキバキに痛ぇんだが……』(二)】
突入。 激しく交錯する火球、矢の嵐、重砲弾、工程を終えたライフルの光弾。 覗き窓から戦況を見据えていた騎兵隊長が、新たな指令を飛ばす。 『操縦手、車両を建物に寄せろ! 後方の歩兵を建物や遮蔽物へ滑り込ませるんだ!』
大砲が通りを威嚇し、車体が建物に貼り付く。 歩兵たちは素早く廃墟へと侵入し、瓦礫を盾にしながら町の中央へと掃討を開始した。 この瞬間、陣形は『歩兵が前、砲車が後ろ』へと切り替わる。
戦術的なフォーメーションで前進する歩兵たちの背中を見つめながら、騎兵隊長はタンクの小隊を分散させた。 低くうなるエンジン音を響かせ、車両は幾筋もの狭い路地へと分かれて進入していく。それぞれが護衛する歩兵小隊の背後にピタリとつき、即座に火力を提供できる姿勢を整えた。
路地を進む中、壁の陰に身を縮めている一団の歩兵が、騎兵隊長の目に留まった。 彼と、後方に控えていたオールドマンはハッチから身を乗り出し、大声を張り上げた。 「どうした! 手こずっているのか!」
「隊長! 前方の聖堂に、多数の深淵の残党が立てこもっています! 火力が凄まじく、近づけません!」 歩兵のひとりが、壁の向こうを指差して絶叫した。
「操縦手、前方左折。砲手、照準合わせろ!」 そう怒鳴るなり、騎兵隊長はハッチを叩き閉めて車内へと戻った。
ズオォォンッ! 重量級の車体が路地の角を曲がり、聖堂の正面へと躍り出た瞬間。制高点を確保していた深淵の魔導士や弓兵たちが、一斉に攻撃を集中させた。
無数の火球や矢が外装甲に激突し、狭い車内に豪雨のような金属音を反響させる。息の詰まるような、けたたましい音。
砲手は必死にハンドルを回し、レティクルを聖堂の基部に完全に固定した。 レバーを引き絞る。 火光が、一瞬にして聖堂へ向けて突き刺さった。
凄まじい大爆発。 直撃を受けた聖堂が激しく揺らぎ、上層の敵は攻撃の手を止めざるを得なくなる。 奴らが体勢を立て直すより早く、後続のオールドマンのタンクも主砲をぶっ放し、聖堂の基部へトドメの一撃を叩き込んだ。
ズガァァァンッ!! 爆音と共に支柱が破砕され、聖堂は轟音を立てて瓦礫の山へと崩れ落ちた。 時を同くして、南側から進撃してきた共同部隊のタンクと歩兵が合流する。
両軍は会師し、手短に状況を交わすと、即座に町に残る敵の掃討作戦へと移行した。
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奪還に成功し、騎兵隊長やオールドマンたちは北部の装甲駐屯地へと帰還した。オールドマンはすぐさま、激戦で傷ついた兵士たちの見舞いへと回った。
兵士のひとりが慌ただしく近づき、オールドマンの背後で急報を告げた。 「ボス。先ほど、エルフ議会長から緊急の伝言が入りました。ボスに今すぐバイの帝都へ向かってほしいとのことです。それと……『絶対に、軍外套を羽織り、小奇麗な格好をして出席するように』と、しつこく念を押されました」
「全く……人使いの荒いこった」 タバコに火を点けようとしていたオールドマンは、パイプを置いて口を尖らせた。了解したと兵士に手を振って下がらせる。 肩に掛けた軍用コートを引っ張り、クンクンと匂いを嗅いだ彼は、ひどく眉をひそめた。 「……こりゃあ、難民キャンプへ一度戻る必要がありそうだな」
傍らにいた騎兵隊長がすかさず言った。 「ボス、俺が送っていきますよ」
「いや、お前はここで指揮を執ってろ。適当な車を一台回してくれりゃあ、それでいい」
送迎用の車に乗り、自らの住処へと戻る。 久方ぶりの風呂で汚れを洗い流し、オールドマンは気持ちよさそうに身体を伸ばした。 再びあの宝箱を開ける。 中から取り出したのは、薄紙で丁寧に包まれ、綺麗に畳まれた『衣類』だった。
身なりを整えたオールドマンは、外で待機していた車に乗り込み、バイの帝都へと出発した。
不審に思いつつも、車を徹夜で走らせる。 翌朝、バイの帝都へと到着したオールドマンが車から降りると、出迎えに立っていたバイ指揮官と鉢合わせた。
バイ指揮官は、オールドマンのその極めて格式高い『礼服姿』を見るなり、呆然と目を見張った。 直後、自分の胸を叩き、深いため息を漏らす。 「おいおい……マジで着てこないんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ。さあ、行くぞ。まずは貴賓室へ案内してやる。夜の宴が始まるまで、そこで休んでいてくれ」
オールドマンは片眉を吊り上げ、面白そうに問いかけた。 「お前をそこまで狼狽えさせるとはな。俺は、普段それほど薄汚く見えるか?」
バイ指揮官はこれ見よがしに白目を剥き、不敵に笑う。 「よくそんなセリフが吐けるな。……まあ、いいさ。いつだってお前のやること成すこと、周囲の肝を冷やすことばかりだしな。今更驚く方が馬鹿だったよ」
オールドマンは気怠げに眉を上げ、口を尖らせた。どうとでも言え、と言わんばかりの表情。 耳をほじりながら問いかける。 「ところで、こんな朝早くから呼び出しておいて、挙げ句に『絶対にちゃんとした格好をしてこい』と伝令に何度も連呼させやがって。あのエルフ議会長がどんな怖い顔で命令したか、想像に難くねぇよ。……一体どんなデカいお祭り(イベント)があるんだ?」
バイ指揮官は、気まずそうに頬を掻いた。 「……我が王が、勇者団の凱旋を歓迎するためだよ。おまけに奴ら、帰還の途中で我が軍の重要な兵站拠点をあっさりと奪還しやがってな。王はご機嫌で、それでこれほど盛大な慶功宴を催すことになったのさ」
夜。 オールドマンは、すでに始まっていた絢爛豪華な宴会場へと足を踏み入れた。 きらびやかな礼服を纏った紳士淑女たち、飛び交う喧噪。そして、各議会長らと談笑を交わしている勇者団の姿を見遣る。
その時、偶然にもエルフ議會長が視線を向けた。 人混みの中に佇む、見慣れた、しかしあまりにも普段のイメージと『かけ離れた姿』。
それがオールドマンであると確信した瞬間、彼女の思考は完全にフリーズした。 その凛々しい礼服姿に釘付けとなり、言葉を失う。
ようやく我に返ったエルフ議会長。 傍らの者たちに軽く目配せをすると、微かな酒気と、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべてオールドマンの前に歩み出た。 「あら……。私は夢でも見ているのかしら? あの『野蛮人』が、急に文明人らしく振る舞い始めるなんて」
オールドマンは、泰然自若と微笑んだ。 「おいおい、老友よ。こんな晴れ舞台で、俺の『学徒』に恥をかかせるわけにはいかねぇだろ?」
エルフ議会長はクスッと小さく笑った。 「年齢を言うなら、私の方がずっとお姉さんですけれど?」
滅多に見られない彼の紳士的な装いに、彼女の口調も自然と和らいでいく。 「……でも、その格好、本当によく似合っているわ」
オールドマンは給仕のトレイからグラスを受け取り、彼女に向けて軽く掲げた。 「こういう格好を最後にしたのがいつだったか、もう忘れちまったよ。……確か、自分の結婚式が最後だったかな」
酒杯が交わされる華やかな光景を見つめながら。オールドマンの脳裏で、過去と現在が静かに重なり合っていく――。 愛する妻と腕を組み、三王子の見守る中で永遠の誓いを交わしたあの結婚式。そして、当時の殿下の、あの心底楽しそうに笑い転げていた姿……。
「お母様!」
突如として響いた高い声が、オールドマンの感傷を強引に引き裂いた。
声のした方へ目を向けると、そこには若いエルフの少女と、付き従う大柄なオークが立っていた。
少女が嬉しそうにエルフ議会長の胸へと飛び込む。 オールドマンは、その議長令嬢の姿を、極めて意味深な眼差しで見つめた。
それを見たエルフ議会長は途端に顔面蒼白となり、慌てて娘を背後に隠すと、狂犬でも見るかのようにオールドマンを睨みつけた。 「……私の娘に、その毒を吹き込むんじゃないわよ……っ!」
オールドマンは脅しをさらりと受け流し、ただひたすらに、慈愛に満ちた父親の笑みを浮かべた。
エルフ議会長は完全に平静を失い、オールドマンの両腕をガシッと掴んで激しく揺さぶる。 「おい! 聞いてるの!? あなたのおかしな教育を私の娘に染み込ませようとするんじゃないわよ! 分かったの、おいッ!」
慶功宴は閉幕。 夜空に浮かぶ双月。静まり返った帝都の一角。 そこには、モヒカン頭にだらしのない服を引っ掛けた議長令嬢が、壁を蹴りつけて凄んでいる姿があった。 「オラ、おい! 約束のショバ代(みかじめ料)はどうした!? アタシの『フーズ・ユア・マミィ』の恐ろしさを叩き込んでやろうか、あぁん!?」
壁に追い詰められ、ガタガタと震える被害者の小市民。 「ひ、ひぃぃぃぃッ!」
「ぎゃあああッ!」
エルフ議会長は、悲鳴と共に勢いよくベッドから跳ね起きた。 肩で激しく呼吸し、恐怖に目を血走らせている。
「奥様! ご無事ですか!」 異変を察知したオークが部屋の扉を叩き破るように入ってきたが、そこで言葉を失った。 目の前には、精神的に完全崩壊し、不気味な引きつった乾いた笑い声を漏らし続けているエルフ議会長の姿があった――。




