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【第十五章:イエーーイ!大勝利だ!社畜ども、続けて宴の準備をしろ!/肝臓『身体中がバキバキに痛ぇんだが……』(ㄧ)】

 落日が地平線へと沈み、兵士たちが整然とそれぞれの持ち場へと戻る中。騎兵隊長はオールドマンを連れて臨時指揮部の民家へと引き揚げていた。

 騎兵隊長がベッドを整えている隙に、オールドマンは一枚の図面を差し出した。 「折を見て難民キャンプへ戻り、造船の工匠たちを見つけ出し、この図面を渡してやってくれ」

「これは……」 手を止め、手渡された図面を覗き込む騎兵隊長。彼は怪訝そうに眉をひそめた。 「戦艦に火砲を架設する、と……? しかし、船体の構造がその反動に耐えきれないのでは?」

 オールドマンは神色自若で煙草をくゆらせた。 「北の専門家どもは揃って実現可能だと太鼓判を押している。だが、クリアすべき欠陥がいくつか残されていてな。だからお前に、難民キャンプへ足を運んでほしいのさ」

 図面を真剣な目で見つめ、騎兵隊長は思案に沈む。 「仮に可能だとしても、現状での造船は極めて困難です。ホーリー・グロリア・キュリアの主要な軍港は、ことごとく深淵の支配領域の奥深くにありますからね……」

 オールドマンは不敵に微笑み、逆に問いかけた。 「もし、俺のチームとお前んとこの野郎どもが手を組むとしたらどうだ?」

「え……?」 唐突に告げられた『チーム』という言葉に、騎兵隊長はポカンと間抜けな顔を晒した。

 オールドマンはパイプを咥えて火を点けると、あのイカれた仲間たちをスカウトした経緯を、淡々と語り始めた――。

 その突飛な顛末を聞き終えた騎兵隊長。心の中に微かな寂しさを抱きつつも、あまりに型破りなプロセスに失笑を禁じ得なかった。 彼は乾いた笑い声を漏らし、首を振る。 「ボスの手腕を疑ったことはありませんが……まさか、そんな方法で部隊を組織してしまうとはな……」

『――勇者団、トーテムゴブリンとバイの国境へ到着。現在、勇者と軍神バイ指揮官による秘密会談が行われており、領土奪還の日は近いと見られ――』

 部屋の外の放送装置から流れる最新の軍報。 騎兵隊長は外へと視線を向け、どこか遠い目で呟いた。 「ボス……あなたは、この大同盟を信じておられるのですか?」

 オールドマンの脳裏に、バイ指揮官とエルフ議会長の顔がよぎる。 「差し当たっては、信じるに足るさ。すでにこの世界はひっくり返っちまった。もう、元の場所には戻れねぇんだからな……」

「報告いたします! 南方の『円卓第三大隊』より、我が部隊の装甲ユニットを東南の町へ派遣し、共同奪還作戦を展開されたしとの要請がありました!」

 突然の伝令兵の叫び声が、二人の会話を遮った。

 二人は扉へと向かった。 騎兵隊長は兵士から書類を受け取って労うと、下がるよう促す。そのまま踵を返し、書類を素早く捲りながら戦略地図へと歩み寄った。

 書類の記述と戦略机の上に並ぶ駒を交互に睨みつけながら、騎兵隊長はオールドマンへ説明する。 「これは、キュリアが編制した近代化師団の一つですね」

「……何とも言えん作戦だな。いささか無鉄砲に思える」 オールドマンはパイプに火を点け、書類の記述と戦略机の盤面を見比べながら呟いた。

 訝しげな視線を向ける騎兵隊長に対し、オールドマンはパイプを口から外すと、白い煙をゆっくりと吐き出し、北方での経験を語り始めた――。

 話を聞き終えた騎兵隊長も、顔を曇らせた。 「ボスの言う通りなら……この作戦計画は、敵の近代兵力を全く考慮していないことになります。情報がまだキュリアに届いていないのか、それとも連合軍の足並みを揃えるために、何が何でも奪還せねばならん要衝なのか……」

「そうであってほしいもんだがな。あの町を奪還したところで、補給線を断たれて逆包囲されるリスクが高すぎる。東南のエリアに大砲の陣地を敷く腹づもりなら、まだマシだが……」 オールドマンは戦略地図の上を指先でなぞり、首を振る。 「だが、俺たちが確保している周辺地形を見る限り、砲兵を据えるのに適した場所はねぇ。連合軍が森の一部を丸ごと端から薙ぎ払うつもりなら話は別だがな……」

 オールドマンの懸念に頷いていた騎兵隊長。ふと閃いたように、オールドマンを見据えた。 「ボス。明日、俺たちに同行していただけませんか?」

 オールドマンは一瞬呆気にとられたが、やがて不敵に口角を吊り上げた。 「……断る理由がねぇな」

 翌朝。晴れ間の覗く雲の多い空。 夜明けの太陽が中天へと昇る頃、駐屯地の兵士たちは出撃を控えた砲車への最終補給に追われていた。

 騎兵隊長は一台のアサルト・タンクの車長席をオールドマンに譲り、内部の操作方法と機能を簡単に説明すると、自らその車両の指揮権を兼任した。

 歩兵たちがタンクのリアへと次々に飛び乗る。 重厚なエンジンが、地を這うような重低音を響かせて咆哮した。鋼鉄の履帯が、ゆっくりと泥を噛んで回り始める――。


 ──────────────────────────────────


『――ボス、乗り心地はいかがですか?』

 指示通り、レシーバーと連結したヘッドセットを装着するオールドマン。 ハッチの隙間から差し込むわずかな光が、薄暗い車内で彼の横顔をぼんやりと照らしていた。

 彼はインカムを掴み、スイッチを押して答える。 『悪くねぇ。だが、騎鳥ほど自由は利かねぇな。こんな狭い密閉空間じゃタバコも吸えやしねぇ。外の連中に、このタンクが煙を噴いて大破したガラクタだと勘違いされるわけにはいかんだろう?』

 車内の乗組員たちから、ドッと笑い声が沸き起こった。 ヘッドセット越しに、騎兵隊長の笑い混じりの声が響く。 『ですがボス、こいつは魔法や矢の嵐を完全にシャットアウトできるっていう最大の利点がありますよ』

 東南に向けて車両を走らせることしばらく。 車隊は目的地の手前、およそ2キロメートルの地点で横一列に展開して停車した。 リアに乗っていた歩兵たちが鮮やかな動作で飛び降り、即座に散開して戦闘隊形を整えていく。

 騎兵隊長は無線の出力を上げると、發話ボタンを押し込んだ。 『こちら北部アーマード・ユニット。目標より2キロの地点に到達。友軍に確認を求める。砲撃予定エリア内に友軍ユニットは存在するか?』

 ほどなくして、レシーバーからノイズ混じりの返答が返ってきた。 『――目標エリア内に友軍なし。砲撃の実行を許可する』

 返答を確認し、素早く弾道計算を終えた騎兵隊長。全車両に向かって命令を飛ばした。 『方位、一点半。仰角、71.4度。――装填!』

 ハッチから頭を出したオールドマン。砲塔が旋回し、照準が目標へと向けられるのを、じっと見つめていた。

 その傍ら、ハッチから半身を乗り出した装填手がレバーを握り、クレーンを操作して後部の弾薬庫から砲弾を釣り上げる。砲口へと導かれた砲弾が、滑り込むように薬室へと収まった。同時に、内部の砲手が火薬バッグをねじ込み、強固な尾栓を力任せにロックする。

 装填手の合図を受け、オールドマンは車内へと引っ込んだ。砲手は引き金を引き絞る姿勢のまま、指揮官の最終命令を待つ。

『撃てッ!』

 一閃。 砲手が撃発紐を引くと、火属性の魔法水晶が火薬へと叩き込まれた。 ズドォォォンッ!! 鼓膜を破壊せんばかりの爆音と共に車体が激しく揺れ、空気を引き裂いた弾丸が、凄まじい風切り音を伴って虚空へと消えていく。

 再びハッチを開け、身を乗り出したオールドマン。遠方の町を見すえる。 目標地点が次々と朱色の猛火に包まれ、遅れて地鳴りのような爆音が天地に轟き渡った。

 隣の砲塔に立つ騎兵隊長が、地上の歩兵たちに指示を出す。 「斥候小隊を先行させろ! 町の状況を報告させろ、残りの者はタンクの背後に続け!」

 続けて発話ボタンを押す。 『こちら北部アーマード・ユニット。友軍との共同による第一次砲撃を完了。これより目標の町へと進軍を開始する』

『了解。我々も砲撃を完了した。足並みを揃えて突入せよ』

 通信を切り、車内へと戻った騎兵隊長は、無線の出力を切り替えて新たな命令を発令した。 『砲手、一号砲に榴弾を装填。操縦手、目標に向けて巡航速度で前進せよ』

『ボス。ここからは車内に入っていてください。町に入れば、必ず待ち伏せがありますから』

 それを聞き、オールドマンは不敵に笑って応答した。 『了解したぜ、指揮官』

 オールドマンの言葉に、無線回線がどっと沸き立ち、茶化すような男たちの声が響いた。

 先行していた斥候小隊が帰還し、報告を入れる。 町の外縁に達したタンクはクローラーの速度を落とし、随伴する歩兵たちが各車両の影へと身を潜めた。

 距離が縮まる。 突如、町の方向から数筋の火球が、先頭のタンク目掛けて一斉に放たれた。

『全車、自由射撃! 敵を叩き潰せ!』

 騎兵隊長の鋭い指令。 低速で前進を維持したまま、各車両の砲塔がそれぞれの獲物をロックオンし、次々と火を噴く。

 崩壊する建物の轟音と、南側から響く共同部隊の砲撃音。 タンクの影に隠れた歩兵たちが、手にしたアサルト・ライフルを構え、敵の陣地へ向けて激しい援護射撃を開始した。

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