表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/40

残念なお風呂21

エルフ、オーク、ゴブリンと旅する残念な冒険者37


残念なお風呂21


 ついに出やがったな。

 このオーク族を率いるオークロードのゼノ王だ。すでに会うのは三回目だ。

 どうやら今度こそ三度目の正直になりそうだ。

「お前たちの腐れ縁もここでそろそろ終わりにしよう! 今回こそ決着をつけてやるぞ!」

 ゼノは俺たちに大声で呼びかけてきた。

「なあ、今回は吾輩にやらせてくれや」

 治療の終えたスクラブがゆっくりと立ち上がった。

「大丈夫なのか?」

「まあな。何とかなるだろ」と言いつつ肩を回す。

「体力は回復しました。ですが、まだ体にシビレは残ると思います」とメリットが心配そうに見守る。

「十分だ。ありがとよ」

 スクラブは首を動かしながら、体調を確かめている。

「これは吾輩と奴との問題だからな。落とし前はキッチリつけないとな」

 スクラブは不敵な笑みを浮かべた。

「スクラブ……」

 富美子が不安げな顔で見つめた。

「何、心配そうな顔してんだよ」

「えっ?」

「そんな顔しなくても、吾輩はすぐ帰ってきてやるよ」

「そ、そうよね」

「吾輩が負けて帰ったことがあったか?」

「ない」

「だろう。吾輩は無敵だ。そして今回もな」

「そうね、わかったわよ。なら、いつも通りやってきたら」

 いつもの表情に戻った富美子は尻に蹴りを入れた。

「痛てえ」

「負けたら承知しないわよ」

「へいへい。とんだお嬢様だ」

「別れの挨拶はもういいか?」

 ゼノが冷ややかに笑いながらたずねてきた。

「別れだと。とんでもない。少し喝を入れてもらっただけだ」

 スクラブもニヤリと笑った。


 両者が真っ向から睨み合う。その姿はまるで相撲取りの土俵入りだ。

「一度お前とはやってみたかったからな。オーク王とやらの実力はどんなのか、この吾輩が確かめてやるぜ」

「王に歯向かう不届き者が。その傲慢さが身を亡ぼすことになるとはな」

 オーク兵たちが槍をスクラブに突きつけるが、ゼノは手ぶりでやめさせた。

「手出しは無用だ。こんな奴に負けるはずがないからな」

 ゼノの手ぶりがそのまま複雑な印を紡ぎ始めた。

「術を使ってくるぞ!」

 俺の警告とゼノの術が同時に発動した。

 ゼノの姿がブレたかと思うと、三体のゼノがスクラブの前に対峙していた。

「幻影の術ね」

 メリットがつぶやく。

「あの程度の動きで正式な術は発動しません。指輪を使っての簡易発動です。これなら時間が短縮できます」

 魔法の専門家にはどういう行程で魔法が使われているのかすぐわかるようだ。

「三体だろうが関係ねえ。みんな叩き潰せばいいだけだ」

 スクラブは大きく手を振り回して三体とも攻撃した。

「すごい発想でガス」

「普通は迷うんだろうが、迷わずに三つ同時攻撃はさすがだ」

 スクラブは普段は馬鹿だが戦闘のセンスは一流だな。

 一番右のゼノが消えずに飛びのいてかわす。

「そいつか!」

 すぐに手に掴んだ土を投げつけた。

「うおっ」

 ひるんだゼノにスクラブが体当たりを敢行する。

 ドンっと鈍い音とともにゼノが吹き飛ばされた。地面を転がり数メートル離れたところでうずくまっている。

「どりゃああああっ!」

 野獣のごとく飛びかかり頭上から追い打ちで蹴りを食らわせる。

 何という情け容赦のなさ。倒れている相手に何の躊ちょもなく平気で蹴りを入れてくる。

 試合なら反則だが、この場ではこれほど有効な攻撃はないな。

 しかし、ゼノの姿は蹴りが決まった瞬間に消え去った。

「これは幻影よ。本体は隠れている」

 岩陰からゼノの影が見えた。

「岩だわ!」

 富美子が叫んだ。

 スクラブは富美子を見ずにその場で一歩右によける。その瞬間に顔の側を火の玉がかすめていった。

「大したものでガス。普通ならフミコの方を向くはず。それをせずに富美子の言葉から岩だけ見て相手の位置だけを確認して逃げたでガス」

「しかも無駄に走るんじゃなく、必要最低限の動きだったぞ。無駄がない。さすがに戦い慣れてるな」

 だてにオークの将軍やってないな。実力は俺たちよりはるかに強い。もし本気でスクラブと俺たちが戦ったら、おそらく全滅だろう。

 もっとも今の富美子ラブのスクラブが俺たちに歯向かうとは、とても考えられないけど。

「ちっ、幻影を使う相手はやりにくいぜ」

 スクラブはいまいましげにつばを吐いた。

「どうした、もう終わりか? なら、次はこっちの番だ」

 ゼノの声が荒野に響く。

 スクラブの目の前にいる三体のゼノが同じ動きで術を唱え出した。右掌の空中に次第に火のかたまりが出来上がっていく。

「どこから来やがる?」

「そこではありません。後ろです」

 メリットの警告がスクラブの耳に届いた。

「くそったれええっ!」

 スクラブが振り向きながら体の位置を横へとずらす。大きく身体を崩しながらそのまま地面に倒れこんだ。その頭上の火の玉が吹き抜けていく。

「すげえでガス」

「見事な反射神経だな。普通はかわせんぞ」

 そのまま地面を転がる。逃げるかと思いきや、そうじゃない。相手に向かってローリングアタックだ。

「おりゃああああっ」

 スクラブの横回転攻撃で魔法を唱え終わって硬直しているゼノは不意を突かれた。

 そのまま体当たりを受け、地面に叩きつけられた。

「くああっ、こっちも目がまわるぅ」

 ふらふらしてるスクラブからゼノがあわてて距離を置き、態勢を立て直している。目を回したスクラブはさっきみたいに追い打ちをかけられなかったが、今のローリング攻撃は効いたらしい。

 ゼノは足から血を流しながら、血走った目でスクラブを見た。

「おのれええええっ! ちょこまかとおっ!」

「ようやく一発食らわせたみたいだな」

「くそったれがっ! いい気になるなよ!」

 ゼノは足元がふらついている。

「お前、けっこうもろいな。一回攻撃受けただけでもう足に来てやがる。魔法に頼りすぎて体鍛えてなかっただろ」

「この体力バカが。戦闘だけは戦い慣れやがって」

「まあ、相手とやり合うんは面白いからな。もっと俺を楽しませてくれや」

 スクラブはニヤニヤしながら指をポキポキ鳴らした。


 ゼノは地面に膝をつき肩で荒い息をしている。一見したところ、ゼノはかなりのダメージを負っているようだ。

 スクラブはゆっくりとゼノに近寄る。そのときゼノの目が怪しく光った。

「気をつけろ。なんか企んでるぞ」

「遅いわっ! くらえっ!」

 ゼノは素早く立ち上がった。どうやら地面であえいでいたのは、油断させるための演技だったようだ。

 右手を振り上げて指輪をかざした。そのとたん、ゼノの周りに黒い霧が立ち込めた。

「はああああっ!」

 ゼノの気合の入った掛け声とともに、右手をスクラブに向ける。飛んで行った黒い霧はスクラブを中心に取り囲んだ。

 霧全体が上に一斉に吹きあがり、スクラブの周囲はあっという間に闇に閉ざされた。

「な、なんだあ? この黒いものは?」

 中から戸惑った声が聞こえてきた。

「どおだあああっ? そこからは何も見えまい。けっけっけっけっけっ!」

 あの嫌な笑い声を響かせながら、ゼノが闇の中のスクラブに呼びかける。

「マズいでガス。あれじゃあ、何もできないでガス」

「スクラブッ! 早くそこから逃げ出すのよ!」

 富美子が大声で黒い霧の中に呼びかける。

「暗闇の中で迷うがいい。絶望の中、おのれの無力を感じながらなあっ! けっけっけっけっけっ!」

 視界を奪われるという最悪の状況だな。

 よくアニメか漫画では心眼かなんかで暗闇から気配を読み取り、油断した相手を攻撃して一気に逆転というパターンが多いが……。

 こいつはどうする気だ。

「じゃあな、スクラブ。これで終わりだと思うと少し残念だ」

 ゼノは両手を振りかざした。奇妙なリズムで呪文を唱えている。しかもかなり長い詠唱だ。高度な何かの術を使う気だ。

 メリットの表情がこわばった。

「火炎術です! しかも巨大な範囲の! ゼノは暗闇ごと焼き払うつもりなんです!」

 そう来たか。これは俺でも予想外だった。

「逃げろおっ! 俺たちも巻き込まれるぞ」

 近くで様子をうかがっていたオークたちがあわてて避難し始めた。

「あっしらも逃げるでガス!」

「間に合いません!」

 メリットがひきつった顔で叫んだ。

「これでも食らえっ!」

 ゼノは両手を掲げて術を唱え上げた。

 巨大な球形の炎の塊が空中に浮かび上がり、そのまま黒い霧の中に飛び込んでいった。

 ズゴゴゴゴゴゴーーーーンと大音響と地響きとともに、激しい振動が辺りに広がった。

 熱風が吹き荒れ、何もかも吹き飛ばしていく。

 俺はその爆発に巻き込まれ、逃げる間もなかった。

 目の前がグラグラ揺れ、体がふわりと浮いたと思った瞬間に地面に叩きつけられていた。

 視界がしだいにぼやけて小さくなり、俺の意識が遠のいていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ