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残念なお風呂22

エルフ、オーク、ゴブリンと旅する残念な冒険者38


残念なお風呂22


 ここはどこだ? 

 俺はどうなったんだ?

 天国ってことは……ないよな。どう見てもあの世の管理官のいた部屋じゃない。岩と砂の荒野に青い空だ。

 俺は寝返りを打った。

 その横には汚らしいオークたちの姿が見える。

「!」

 思い出した! 俺はさっきまでスクラブとゼノの戦いを見つめていたんだ。

 確か暗闇の魔法でスクラブが閉じ込められ、そこに巨大な炎の球を撃ち込まれた。

 爆風に吹き飛ばされて、俺は気を失ったんだ。

 それじゃ、みんなは?

 記憶を取り戻し正気になった俺は周りを見回した。


 俺の側にゴスが倒れているのが見えた。術の効き目は切れていて、元のゴブリンの姿だった。

 さっきまでの猫の姿のほうがよかったんだけどなあ。

 とにかくあわてて駆け寄る。

「おい、しっかりしろ」

 呼びかけながらゴスの腕を取る。幸い脈があった。まだ、生きている。

 とりあえず一安心した俺は、ゴスの体を揺さぶった。

「おい、起きろ!」

「うるえせ。まだ飯に早いだろ」とかつぶやいて、横を向いた。

「寝ぼけてんじゃねえ。起きろ!」

 さらに強く揺さぶると、ゴスはクワっと目を見開いた。

「うわっ、なんだなんだって? し、師匠?」

 ゴスはあわてて飛び起きた。

「どうなっているでガスか?」

「こっちが聞きたいよ。俺たちは炎の魔法で吹き飛ばされたらしいぞ」

「え、ええっ? いったい何がどうなっているでガス?」

 まだ、寝ぼけて混乱しているゴスは状況を把握できていない。

 それは俺も同じなんだが。

 とりあえず、自分がわかっていることをゴスに説明する。ゴスはボォーとした顔のまま、話を聞いていた。

「他のみんなはどうしたでガスか?」

「見つけたのはゴスだけだ」

「じゃあ、さっそく探しにって……、行かなくてもよくなったでガスね」

「そうみたいだな」

 地面に座り込んでいる俺たちの前に槍を持ったオークどもが近寄ってきたからだ。


 俺たちはオークどもに向かって両手を上げ、降参の意を示した。

 オークは槍で小突きながら、俺たちを引っ立てて連れていく。

「どこに連れていく気でガスか?」

「どうせ、ゼノの命令で動いてるんだ。奴の前にだろ」

 俺たちがそんな話をしている間に、目の前にゼノの姿が見えてきた。岩陰になった日陰の一画に簡単な木の王座がこしらえてあって、そこにふてぶてしく座っている。

 周りには十数匹のオークどもが群がっていて、その横には富美子の姿もあった。

「オタニートにゴブリンじゃないの!」

「せめてタカって呼んでくれ」

「あっしもゴスって呼ぶでガス」

「はいはい。わかったわよ。タカにゴス、よく生きてたわねえ」

 続けて読まれると●ルトラマンに出てくる怪獣みたいな名前だな。

「おかげさまでな。富美子も悪運だけは強そうだしな」

「そりゃ、どうも、ありがとうございました」

 間違いないな。このしゃべり方は百パーセント富美子だ。誰かが変身してるってことはなさそうだ。

 俺たちは富美子のそばに座った。

「さて、見つかったのはお前たち三人、いや二人と一匹か。後はエルフ娘だけかな」

 俺が何か言おうとしたが、富美子が目で合図した。

「そっちは手下に任せるとして、お前たちには重要な役を任せるぞ」

「何をやらせる気だ」

「知れたことよ。俺の術で黒焦げになったスクラブの確認だ」

「俺たちはお前らオークの見分けなんかつかんぞ?」

「だったら、お前らはどうやってスクラブと他のオークを見分けてたんだ?」

 あの独りよがりの性格とふんぞり返った態度から、と言いたいところを俺は押しとどまった。

「そういえばフミコはどうして見分けてたでガスか?」

「見分けるも何も、『お嬢様ぁーーーっ』って付きまとわれたら、いやでもわかるわよ」

 確かにそうだな。

「そういうゴスはどうしてたんだ?」

「あっしは別に。見分け方なんか、どうでもよかったでガスよ。話しかけてきたら奴だとわかったし、赤い帽子をかぶってたら、ああいるな、と」

 あの帽子、エルフだけじゃなくゴスにもスクラブの見分け方に使われていたのか。

 まあ、俺だって、ゴスがこんな様子だからゴスの見分けがついているだけで、もしゴスがオタじゃなく他のゴブリンたちと混じっていたら見分けられるかどうか自信がない。

「帽子か。確かに見分けるにはいい方法だな」

 ゴスの言葉から、ゼノは俺たちがスクラブを見分けるのに赤い帽子を使っていたことに気づいた。

「あっ」

「もう、せっかく黙っていたのに」

「なるほどな。おい、赤い帽子をかぶったオークの焼死体を探してこい。すべてここに集めるんだ。わかったな」

「ホイ」

 オークどもが変な返事を返すと、それぞれ散らばっていった。

 冗談じゃねえぞ。オークの焼死体をここに集めて、遺体確認させるなんて、考えただけでも吐き気がする。

 俺はげんなりしながら、オークたちが忙しく動くのを眺めていた。


 小一時間ほど経っても、何の進展もなさそうだ。

 メリットはまだ見つからない。出ていったオークも帰ってこない。

 イライラしたゼノは仲間を怒鳴りつけている。

 俺たちにその矛先が向かなければいいが。

 俺は小声で富美子に話しかけた。

(なあ、さっき何を言おうとしたんだ?)

(後で話すわよ)

(何か隠してるんじゃないだろうな)

(それも含めてね。今はとにかく時間を稼ぎたいの)

 どうやら何かあるらしいが、今は富美子の計画に乗っておこう。

「お前ら、他に知っていることはないのか?」

 俺たちの会話に気づいたのかどうかはわからないが、急にゼノがこっちを見て話しかけてきた。

「俺が気付いた時には側にいたのはこのゴスだけだ。すぐにお前の仲間が来てここに連れてこられたんだ。後は何も知らないよ」

 確かにウソは言っていない。

「ちっ、確かにそうみたいだな」

 ゼノがいまいましげにつぶやく。

 こいつ、術で俺を確かめていたか。ただ、言葉の内容をウソかホントかで見分ける術で心の中までは読めないみたいだな。

 富美子にもかけているみたいだから、富美子が何も言いたがらないわけがわかる。

 下手にしゃべるとマズいらしい。

 ゼノはゴスにも同じ質問をしていたが、反応は俺と同じだった。

 本当に何も知らない以上、話ようがない。

 口を割れと拷問されないだけましだ。この世界では魔法があるから、そんなことしなくてもバレてしまうんだし。

 これ以上はボロが出ないように、俺たちは黙って時が過ぎるのを待った。


 さらに一時間ぐらいが過ぎた。

 オークどもが焼死体を集めて持ってきた。

 うー、考えるだけでも気分が悪い。

「さあ、この中に奴はいるかな」

 富美子もゴスもいやそうに首を振るばかりだ。

「なら、お前が来い」とゼノ自ら俺を指さした。

 結局、俺が貧乏くじを引く羽目になるのか……。

 部下が槍で俺をけしかけるので、いやいやながら俺は前に進み出た。

 何十体ものオークが地面に無造作に捨てられている。俺は吐き気をこらえながら、オークを見て回る。

 確認作業はかなり時間がかかりそうだ、と俺は暗たんたる気持ちになって目を凝らした。

 だが、そんな苦労はすぐに終わった。

 帽子をかぶった一体がすぐに見つかったからだ。

「あいつがそうだ」

 俺が指さしたオークにゼノの部下たちが駆け寄った。

「間違いないか?」

 背中が焼けただれうつ伏せになったオークだ。図体や体格がでかいから、スクラブって言われたらそうみたいだなと思えるが、はっきり言ってよくわからん。

「帽子はかぶっているみたいだが、俺だってわかるかよ」

「まあ、いい。どうやらこいつらしいな。これでせいせいしたぞ」

 さっきまでの落ち着き払った姿はどこへやら、ゼノは表情を崩したかと思うと、大声で笑いだした。

「ついにやっつけてやったぞ。これで思い知ったか。俺様に歯向かうクソ野郎が! けえっけっけっけっけっけえっ!」

 もうそのカエルのようなわめき声、もうやめてくれ。

 俺の知ってる中で、黒板を爪でひっかいた音に匹敵するうっとうしさだ。


「うるせえなあ。せっかく寝てたのに、最悪な目覚ましだぜ」

 スクラブと思える焼死体がむくりと起き上がった。

 周りのオークたちが一斉に後退りした。

「こ、こいつ、なんで生きてやがる?」

 ゼノは驚き半分、怒り半分の表情でスクラブを見つめた。

 お、おい、スクラブかと思ったらオークゾンビかよ。

 確かに俺はモンスターたちを仲間にしてるけど、『くさったしたい』だけは勘弁してくれ。

「お前、どうやって生きてやがった?」

 ゼノがわなわなと怒りで震えながらたずねてきた。

「ああ、あの時か。暗いので迷ってたら、お前らの手下がわめきながら逃げ出す声が聞こえたからな。こりゃあ何かあるなってんで、奴らの足音が聞こえる方向へ全速力で走ったってわけよ。おかげで直撃を受けずにすんだぜ」

「なんて奴だ。馬鹿のくせに悪運だけは強いな」

 俺もそう思う。あの一瞬で状況を判断して、とっさに逃げるとは。ねずみかカナリアなみの動物的カンとしか言えんな。

「気がついたらお前の手下に運ばれてここに来たってわけよ。おかげで探す手間が省けたぜ」

 生死の確認もせずに焼かれているってだけで連れてくるんだから、オークらしいというか。

「スクラブ! 本当に生きてたのね!」

 富美子も目を丸くしてスクラブを見ている。

「おう、お嬢様。悪いがちょっと待っててくれ。すぐ片付けてくるからよぉ」

 そう言うとスクラブは親指をあげた。


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