残念なお風呂20
エルフ、オーク、ゴブリンと旅する残念な冒険者36
残念なお風呂20
体力が完全回復した俺たちは、ほこらの入り口から様子をうかがった。
戦いはエルフたちの奇襲攻撃が続き、未だにオークたちが混乱している。
反撃しようにも姿を見せないエルフにオークたちは何の手も打てないままだ。
「まだ、オークどもは混乱しているみたいだな。メリット、ゼノの姿は見えるか?」
「いいえ、オークたちの群れの中にいるみたいですけど、ここからでは全然」
「チョコちゃん、箱がどこにあるかわかる?」
「ここからでは見えないケン」
俺もチョコと富美子同様に目を凝らして見るが、『封印の壺』も『氷の精霊』箱も見当たらない。
「どうやらゼノの手先が持って行ってしまったみたいだな」
「そんなあ、せっかく苦労して持ってきたのに……」
富美子が沈んだ声でつぶやく。
「フミコさん、オークたちはあの魔法の品の使い方をわかってはいません。だから、単にゼノの命令で持って行っただけだと思います」
「悪用される前に取り返すぞ!」
「わかったケン!」
「もちろんでガス!」
俺が声をかけるとチョコとゴスが応じた。
「風の守りをかけますね」
いつものようにメリットが矢が当たらないように周囲に風をまとわせる。
「壁沿いに進もう。そうすれば後ろを取られることもないし、戦いが楽になる」
「わかりました」
俺たちはほこらから出て、壁を背にオーク軍団の主力の方へと動き始めた。
さっそく俺たちに気づいたオークたちが向かってきたが、まずはメリットの弓矢で倒され、それでもたどり着いたオークたちは富美子の冷凍光線の前にその場で動けなくなっている。
「これ、すごいわねえ。気合を込めて手を向けるだけで、豚男たち麻痺してるわよ」
触れたら凍るとの説明だったけど、触れなくとも相手に指輪を向けるだけで効果を現わすらしい。思った以上にすごい効き目だ。
それでも向かってくるオークをゴスとチョコが相手にしている。さすがに動きが鈍いオークなど敵ではなく、チョコがかみつきひるんだところで、ゴスがショートソードを使った急所への痛恨の一撃で倒している。
「なかなかやるでガスね」
「ゴスも思っていたより強いケン」
足手まといと蔑んでいたゴスも、覚悟を決めたチョコが必死で健闘している姿を見て、少しは認めたようだ。
おかげで俺は戦闘中はすることがないが、まあそこはいちおうリーダー、状況を見ながら指示を出して、みんなのフォローをすることでカバーしている。
エルフたちは視力もいいので、俺たちが戦っていることに気づいているのだろう。さっきのような流れ弾が来ることはなかった。おそらくは長老が手出ししないように仲間たちに強く言い聞かせたにちがいない。
エルフたちの攻撃が敵をうまくかく乱しているおかげで、こちらへの攻撃が集中しないですんでいる。おかげで俺たちはオーク軍団の奥深くに潜入することができた。
「見えたわ」
メリットの遠目の術がついにゼノの姿を捉えた。
「ここから南、群れの奥にゼノがいる」
「『封印の壺』と『氷の精霊』箱はある?」
「ないみたい」
「じゃあ、使い方がわからないからどこかに隠したのかな?」
ラッキーだ。どうやらゼノは箱を俺たちが利用できないように持って行っただけと見える。自分たちで使うことができないのだ。
「メリットの視力はすごいケン」
「さすがでガス」
「それと……スクラブもいるみたい。赤い帽子をかぶった荒々しいオークが見える。周りのオークたちを一撃で殴り倒して、そのまま相手に投げつけてる」
メリットにも区別がつかないみたいだが、まず間違いないな。
「そんなことしてる奴はスクラブの野郎に違いないでガス」
「はあー、頼もしいような困るような」
富美子が微妙ぉーな顔になった。
「どこにいるケン?」
「オークを蹴散らかしながら西の方からこっちに向かってきてる」
メリットが目を細めて遠目で見ながら返した。
「どうしますか?」とメリットが俺の指示を仰いできた。
「とりあえず、スクラブと合流しよう」
「だよねえー」
富美子が深いため息をついた。
「気持ちはわかるでガス」
「フミコお姉ちゃん苦労してるもんねえ」
ゴスもチョコも同情してる。
気持ちはわかるが、どっちもどっちな気がするなあ。
「やっぱり知らせないでおきましょうか?」
メリットが気を利かせて富美子にたずねる。
「そうしてもらいたいのはやまやまだけど、戦力としてスクラブがいないと困るのはあたしたちだし、仕方ないもんね」
おおっ、今まで自分のことだけ考えていたのに、ついに仲間を思いやるようになったとは!
この成長ぶりに俺は思わず感動の涙を拭うのだった。
「それじゃ、スクラブにもわかるように合図しますね」
メリットが手を振りながら光の精霊を呼び出した。精霊は輝きながらメリットの頭上を舞った。
そのとたん、スクラブらしきオークは俺たちにも聞こえるぐらいの雄叫びを上げ、こっちに向かってきた。
「風に乗って奇声が聞こえてくるでガス」
「『キエーー、吾輩の最愛の人よぉー』とか言ってるケン」
「言わないでー」
富美子が両手で耳をふさぐ。
すでに俺にもはっきりと「お嬢様あーーーーーーっ、この吾輩、スクラブが戻ってきましたよおーーーーーーっ!」との声が聞こえてくる。
その迫力に周りのオークたちも俺たちから距離を置き出した。
厄介ごとに巻き込まれたくないとの表情がオークたちにありありと浮かんでいる。
そりゃあ、目がハートマークでたるんだ顔の口から涎をたらした奴が走ってこっちに向かってきたら、オークじゃなくとも距離を置く。
すでに俺たちとスクラブを妨げるものは何もなく、俺たちをはっきりと認識したスクラブは一目散にこっちに走って来る。
「お嬢様あああああっ、やっと見つけましたぞ!」
ついにスクラブが俺たちの前に姿を見せようとする瞬間、一匹の体格のいいオークがその前に立ちふさがった。
何という命知らずな奴だ。
この状態のスクラブに真正面から立ちはだかるとは。
どうなっても知らんぞ。
「誰かと思ったら貴様は裏切り者のスクラブかあっ! ここで会ったがお前の命日だ!」
「誰だ? お前?」
何かすごいデジャブーを感じるぞ。
「こ、この俺様を忘れるとはあっ。俺は王の十人衆の一人、『神風の……』」
最後までしゃべらせないまま、スクラブは相手のあごにアッパーカットを食らわせた。名を知らされていないオークは吹っ飛ばされ、群れの中に突っ込んでいた。
「大丈夫かあっ!」
「うわああっ! 首があっ!」
介抱したオークが白目になった哀れな名無しオークを見てパニックになっている。
俺にもこのオークの首が変な方に曲がっているのが見えたから、あのままリタイヤだろうな。
「無駄な御託を言ってないで、さっさと攻撃してこい。この馬鹿が!」
スクラブにこんなことを言われて、俺なら一生モノのトラウマになりそうだ。
せめて名前ぐらい聞いてやれよ。前の『ドーダ』様のほうがよっぽど印象に残ったぞ。
戦闘モードのスクラブはこっちに向きなおると、とたんに表情がまただらしくなった。
「お嬢様あああーーーーっ」と向かってきたスクラブだったが、
「もう、毎度毎度いいかげんにしてよおっ!」と、そのまま富美子を前にして冷凍光線で動けなくなっていた。
お約束とはいえ、少しは学習してくれ。
一連のてん末を見て、俺はメリットの方を向いた。
「凍らせてる余裕ないから、メリット、悪いけどすぐに解凍してくれ」
「はい」
メリットが炎の精霊を呼び出してスクラブを温めていると、オークの群れがしだいに俺たちから引き下がり始めた。
恐ろしい相手がきたから、場を退くように。
「き、気づいたよぉーー」
チョコがしっぽをだらんと垂らしてブルブル震えている。
「ついに奴が来たでガス」
ゴスも緊張した面持ちで見ている。
確かにあれだけ目立てば否が応でも気がつくか。
俺の目に見えたものは、オークロードのゼノ王がオークを従えながらこっちにゆっくりと向かってくる光景だった。
ああ、ここまでデジャブーが続くとは。




