残念なお風呂07
エルフ、オーク、ゴブリンと旅する残念な冒険者23
残念なお風呂07
俺たちは朝食もそこそこにキャンプを引きはらった。
追われているならのんびりすることはできない。できるだけ早く目的地へ行くに限る。
これからは『氷の精霊』箱はチョコを除く5人全員で交代で持つことになった。だから、どっちにしても必ず一日一回は持たないといけない。
「それじゃあ、きょう一発目は誰が持つかじゃんけん大会だ」との俺のセリフに富美子がうんざりした顔をする。
「こんなにうれしくない大会はないわねー」
「せめて気合だけでもと思って楽しく言ったんだけどなあ」
「その前に火トカゲの皮はどうなっていますか?」
火トカゲの皮はすっかり効力を失い、ただの服になっていた。
「やっぱり長老の術は切れてますね。もう一度かけなおします」
メリットが持ってきたスクロールを取り出し、書かれている呪文を読む。ここに書かれていることを読むだけで術が使えるので、魔法を知らない一般人でも術が使えるのは本当に助かる。
現代社会でもこんな道具があったらいいのに。
問題はここに書かれている言語が全く分からないということだが。
昨日同様にじゃんけんのことでもめつつ、最初の相手は負けたスクラブに決定した。
「うおおおおお、お嬢様ああっ、このような寒さにも吾輩の愛はまけませんぞおおおおおっ!」とのセリフを口走り、富美子が辟易した顔になっている。
そんなことを言うぐらい元気ならスクラブには2回分は持って行ってもらいたいもんだ。
いっそのことメリット免除にして、スクラブにさせたいぐらいだが、それを言っても納得しないだろうなあ。
「何でチョコには持たさないでガス。さてはえこひいき?」
ゴスが疑り深く富美子を見る。
「あ、あたしなの? あたしなにもしてないわよ。このエロゴブリン」
「いいや、お前の猫ならぬ犬かわいがりっぷりからして、何かの策略があっても不思議でないでガス」
「俺の提案だよ。チョコには斥候としての役割を頼んでる。オークどもが来てもすぐわかるように」
実際にチョコは前や後ろをひんぱんに移動して臭いをかいでいる。
何か少しでもオークどもの気配がしたらすぐに知らせるように頼んである。
「チョコちゃんには持てないって。だいたい火トカゲの皮のサイズが合わないんだから持たせられないでしょ」
「そ、そうでガスか」
ガスは納得してこれ以上言わなくなった。ゴスの奴は人一倍えこひいきや差別されるのを嫌うからな。
そして猜疑心を募らせていく。まあ、これはゴスに限ったことじゃないけどね。
俺はかつてのバイト先の人間関係の難しさを思い出してしまった。
まあ、モンスターたちは逆に表情に出たり言ってくれるので、まだましなところもあるな。厄介なのは陰で文句を言い、人の人気をおとしめる奴だからな。
余計なことを考えてしまった。旅に集中しよう。
俺は周りを注意深く見渡す。幸いにも山間のためこっちの姿が見えにくくなっている。
まあ、裏を返せばこちらにも相手の位置がわからないともいえるが。
しばらくは何事もなく行程は続き、次の交代の番となった。
次にじゃんけんに負けたのは富美子だ。「今度はパー出して負けたあ。なんでよう」とか地面に崩れおれて嘆いている。
まあ、どっちにしても持つんだから早いほうがいいような気もするが。そこは気の持ちようか。
泣きそうな顔で火トカゲの皮を被りつつ箱を持つ姿は、スマホで写真撮って保存しておきたいぐらいだ。
メリット、スクラブ、富美子、俺、しんがりはゴスという隊列で先を急ぐ。
しばらくは何事もなく、今回も無事に終わりそうだなと思った矢先だった。
「オークたちが待ち構えているよ」
チョコがあわてて帰ってきた。
「どこにいる?」
「この先に大きな岩山があって、そこの広場みたいな所だケン」
「数は?」
「多いよ。50匹ぐらいはいたかな」
「やはり待ち構えていたか」とスクラブは両肩を回す。
「ゼノの軍団の連中とは一度やってみたかったんだ。腕が鳴るぜ」
一人で鳴らしとれ。俺はいかに戦いを避けるべきかを考えないと。
「回り道はないの、メリット?」
少し考えてメリットは答えた。
「右に曲がれば獣道がありますが、遠回りなので3日で済まなくなりますよ」
「それもいやだなあ」
「あ、あたしはもうごめんよ。3日以上かかるなんてうんざりだわ」
「あっしも勘弁してほしいでガス」
今の仲間内の状態を見る限り無理だ。俺だってこれ以上持ちたくない。
「とりあえず様子をうかがおう。俺とメリットとチョコで見てくるよ。その間休んでいてくれ」
俺たちは先に行き、注意深く様子をうかがう。確かに報告通り、岩山の下の空き地にオークたちがたむろしている。
「あそこを通るなら絶対に見つかるな。くそっ、いい所に陣を張りやがって」
「強行突破するにしてもいかに被害を少なくするか……」
メリットが考え込む。
「幻術で気を反らそう」
「そうですね。それがいいと思います」
メリットは茂みに俺たちの幻影を浮かび上がらせた。そこに俺は石を投げ込む。ガサガサっと音がしてオークどもの注意がそっちに寄った。
「連中だ! いたぞ!」
メリットの幻影が茂みの中に入って消えていく。それを見たオークどもは後を追いかける。
「だいぶ連中が分散できたな」
「あれならスキが生まれました。奇襲をかけるにしてもだいぶ楽になります」
「ここを一気に強行突破だ。チョコ、みんなを呼んできてくれ」
「わかったケン」
すぐさま、メリットの矢が油断しているオークどもを貫いていく。まだ混乱しているところにどこから来るかわからない矢の攻撃。俺がオーク側なら心底メリットは敵に回したくないな。
「おう、ようやく出番か?」とやってきたスクラブを含め、みんながそろう。
「敵オークが混乱してる。今ならいいぞ」
「偉そうに命令するな」
「スクラブ、頼んだわよ」
「はいっ、お嬢様っ!!」
スクラブは意気揚々と走り降りていく。たちまちのうちにオークどもが吹っ飛ばされていく。
「俺たちは一気に駆け抜けるぞ!」
「はいっ!」
「了解でガス」
俺たちもスクラブの後に続いて特攻をかけた。
戦いはスクラブに任せ、俺たちは先に進むことに重点を置く。やってくる敵だけを相手にして、倒せばすぐに前に移動する。前から近寄る敵はメリットが容赦なく打倒していく。ゴスもショートソードを器用につかって応戦していた。少なくとも俺よりは強いだろう。
「えっほえっほ」と富美子が木箱を背負って追っかけてくる。幸いにもというか、富美子に追いすがる敵は一匹残らず氷漬けにされてその場で固まってしまう。その中を富美子が走っていくが、戦いから逃げることだけに集中しているせいか自分を及ぼしている惨状に気づいていない。
知らない間に活躍してるのはいいが、俺に近寄ろうとするのはやめてくれ。俺も冷凍人間にされてしまう。
岩山の空き地を抜けだし、俺たちは何とか茂みの中に逃げこんだ。
「はあはあ、とりあえずここまでくれば襲撃は収まるだろう」
俺たちは息を整える。
チョコが後ろから来た。
「大丈夫だケン。後から追ってくるオークはいないよ。幻影を追って行った連中もまだ帰ってきてない」
「何とかうまくいったでガスね」
「第二の関門突破だな。あとは山を目指して一直線だ」
スクラブも後から追っついてきて、俺たちは安心して茂みを抜けた。
「……えっ?」
茂みの向こうにはオークの群れがさらにさっきの倍以上群がっていた。




