残念なお風呂08
エルフ、オーク、ゴブリンと旅する残念な冒険者24
残念なお風呂08
「人間だ! 出てきたぞ!」
俺たちを見たオークどもが大声を上げた。
最悪だ。出会い頭に見つかり、さらに目の前にはオークの大群。何の準備もないまま、戦闘に突入する羽目になるとは。
俺たちを見て、たった6人の敵など物の数ではないとのばかり、一斉に襲い掛かってきた。
「ど、どうするのよっ!」
「もちろん、逃げるしかないだろ」
「でも、後ろからも来てますよ」
そうだった。さっき追い払った連中が戻ってきてるのだった。
結果的には挟み撃ち状態にしてしまったことになる。
前も敵、後ろも敵、左右にも逃げられそうにない。
「なら……方法は一つしかない。突撃だ!」
「はあ? 何言ってんのよ。馬鹿じゃないの? 死にに行くようなものじゃないの!」
まあ、常識的に考えたらそうだろうな。
「後ろはダメで逃げる方法が先へ行くしかないなら、前方への撤退戦しかないだろ。関ヶ原の戦いで島津家がやった方法だよ」
「あたしは歴史ファンじゃないから知らないわよ。まったくオタってのは変な知識はあるんだから」
実は本来ならこんな危険な方法はとらない。
むしろ大群であるという敵の過信と、『氷の精霊』箱の力を使えるからこそできる戦術だ。
「メリット、みんなに風の守りを」
「はい」
「スクラブは後ろから迫ってくる敵をぶちのめせ」
「よっしゃあ! やっと戦えるぜ」
「今回の作戦のポイントは富美子だ!」
「ええっ、なんであたしがあああああっ!」
「相手は戦闘で一番弱そうでしかも宝箱に見える『氷の精霊』箱を持ってる富美子をねらってくるだろう。そこを次々と凍らせてくれ。富美子のスピードならみんなが合わせられるから戦場ではぐれることもないし」
「あたし、いやよおっ。こんなの絶好の的じゃないの」
「箱持ってなくても絶好の的だろ。だったら襲ってくる連中を皆凍らせてやればいいじゃないか。むしろ今まで狙われてきたんだから、相手をやっける絶好の機会だろ」
「そ、そう言われて見ればそうだけど……」
よし、乗ってきたぞ。この作戦は富美子がウンと言わなけりゃ、成立しない。というか。足を引っ張るのは確実なんだから、逆に富美子を活躍できるにはどうすればいいかを考えたほうがいい。そのためにはこの方法しかない、というのが俺が考え出した結論だった。
「そうでガス。箱があるならフミコも活躍できるでガスよ」
「余計なことを、このエロゴブリンめえっ!」
「フミコさんが嫌なら他の人が持つことになりますが……」
「あーっ、わかったわよ。あたしが持つほうが安全だっていうんでしょ。なら持ってあげるわよ」
富美子は覚悟を決めたように、持っていた箱を背負いなおした。
「そのかわり絶対ここから生きて出るわよ!!」
「もちろん!」
俺たちは富美子の気合の入った激にみんなで応えた。
迫ってくる大群に俺たちは一見無謀な突撃戦を始めた。
相手からの矢は風の精霊の力で脇へとそれる。しかも混戦になっているため横にいるオークたちに刺さっていく。単純なオークどもは味方から弓を射られたことで激高し、お互いに仲間割れを始める始末だ。俺たちを攻撃せず、矢を打ったオークに攻撃を開始し始めた。こうなるともう誰が敵なのかわからない状態になる。
「よし、乱戦になった。これを狙っていたんだ。これで俺たちへの注意が削がれる」
「オークどもは指導者がいなくなると烏合の衆でガス。いくら王の軍勢でも目が届かないところではこんなもんでガス」
「さて、富美子のほうはと……」
俺は富美子に目をやった。
「おらおらおらおら!」
富美子は迫りくるオークの群れを相手に大立ち回りを演じていた。富美子がオークどもに近づくだけでも、相手はその冷気とオーラに飲まれ震えが止まらなくなった。まして触れればその場で固まりだし動けなくなるのだ。始めは宝箱を持った小娘なんぞ楽勝よ、と思っていたオークたちは次々と氷柱にされていくありさまだった。
こうなると逃げ惑うオークとそれでも懲りずに宝物を手にしようとするオークに分かれての大混戦が富美子の周りで繰り広げられることになった。
最初はおっかなびっくりだったのだが、相手が手出しできないことを知ったとたんに大胆になって来始めた。手出ししそうな相手にはむしろ自分から近寄っていく。触れたら最後、どんな相手も関係なく固まり始めるのだ。いくらオークどもが怒鳴ったり攻撃しようとしても、全く通用しないどころか、さわることすらできない。
無敵なのに気がついた富美子は「あたしに手を出そうなんて奴は凍ってしまえばいいのよ。凍れ! 凍れ! おっほっほっほおっ!」とか叫んでいる。
もはや、氷の女王の貫禄だな。
「フミコさん、すごい迫力です……」
「今までオークを見たら逃げ惑ってきたからな。立場が逆転してテンション上がりまくりなんだろ」
今までいじめられてた子が強くなって立場が逆転し、いじめっ子に復讐のやりたい放題ボコ殴りといった感じだ。
「富美子おっ、早く先に進めええっ」
「言われなくてもおっ! オークどもっ! 道を開けろおおおおーーーーーーーーーっ!」
よっぽど今までのストレスたまっていたのが発散できてうれしいのか、今日の富美子は完全にノリノリだ。
モーゼが海を割った奇跡のごとく、富美子を先頭にオークの群れが割れていく。凍ったり固まったオークの柱を盾にしつつ、俺たちは攻撃を避けながら前に進む。
特にメリットの活躍は目覚ましく、オークの柱の影から的確に相手の眉間を貫いていく。そして倒したオークどもの矢を風魔法で回収だ。なんて効率のいいやり方なんだ。群れの中にいる間は玉切れがなしかよ。
「ひるむなあっ、相手はたった6人だぞ。なぜ倒せん!」
「そう言うならお前が倒しに行って来いよ」とかの大声がどこからともなく聞こえてくる。
「そう言われても俺は死にかたねえ」
さらにスクラブが容赦なく、オークどもを殴り飛ばし、オーク氷柱を投げ飛ばして活躍中だ。
「この程度で俺様相手にするとはなめられたもんだ」と言って向かってきた相手を掴み上げジャイアントスイング中だ。
近くにいるオークもろとも吹き飛ばしている。
「すごすぎるでガス。どんだけいても負ける気がしないでガス」
なんか相手やっつけまくりゲームを再現できてる気分になるな。
その時、一体の大柄なオークがイノシシに乗ってやってきた。
「誰かと思ったら貴様は裏切り者のスクラブかあっ! ここで会ったがお前の命日だ!」
「誰だ? お前?」
見事な返しだな。
「こ、この俺様を忘れるとはあっ。恐れ多くも我が王の十人衆の一人、『旋風のドーダ』様とは俺のことだろうがっ」
知らない俺たちにもわかるようにわざわざ名乗っていただいてありがとうございます。
「なんだゼノに仕えるペーペーか。いつも仲間内で騒いでて戦場に出てこないもんだから顔知らなかったぞ」
「よ、よくもこの俺様を臆病者扱いしやがったなあっ!」
「いや、まじで戦闘してるの見るのは初めてだが。どこで何してんだ?」
スクラブは首傾げながら真面目に答えている。挑発してる気が毛頭ないのに相手にとってはめちゃくちゃ罵倒されているのが見てて面白い。
「おんどりゃあーー、覚悟さらせ!」
声だけはすごい迫力があるな。
ドーダは勢いよくスクラブに殴りかかってくるが、急に動きが止まる。
「な、なんだこの寒気は?」
「さっきからぎゃあぎゃあうるさいのよ。あんた、邪魔なのよ。とっとと道を開けてよおっ!」
富美子がドーダの前に立ちはだかった。
「こんなザコ、俺様の敵じゃな…」と言いつつ固まってしまうドーダ。
「おい、ザコはどっちだ?」
怒りに満ちたスクラブが目の前に立っていた。
「俺を馬鹿にするだけでなく、よりによってお嬢様まで馬鹿にするとはいい度胸だな」
スクラブが動けなくなったドーダに一歩また一歩と近寄っていく。
「ひ、ひっ、ひいいいいいいいい」
動けないうえに怒りの炎がたぎっているスクラブと氷の女王のコンボだ。俺ですら死を覚悟するだろう。
「おりゃああああああああーーーーーーーーーーっ」との掛け声とともにスクラブが力任せに高く投げ飛ばした。
「ぎゃあああああああああーーーーーーーーーーっ」との悲鳴を残してドーダはそのままオークの群れの中に投げ込まれた。
「なんてことだ! ドーダ様がやられたぞ!」
「やばい、撤退だ!」
パニックに陥るオーク軍団は逃げ出し始めた。
いちおう名の知れた戦士だったのだろうが、状況からみて完全なギャグ的ザコだったな。
「けっ、他愛もない。それにしても誰だったんだ?」
ドーダ様って名乗ってたんだが、聞いていなかったのか。
まあ、哀れなオークよ。来世はもっとましな人生を送ってくれ。
今週から水曜、土曜の夜の週刊2回連載に変わります。
今後もよろしくお願いします。




