残念なお風呂06
エルフ、オーク、ゴブリンと旅する残念な冒険者22
残念なお風呂06
ようやく初日が終わった。
俺たちは荒野の岩陰でキャンプすることになった。
富美子は疲れていたので食事を取ることもなく眠ってしまった。よっぽどこたえていたのだろう。
「今日はぼくが寝ずの番をするから大丈夫ケン。皆さんはゆっくり休んでください」
「いいのか? 一晩寝ないでなんて大変だろ?」
正確に言えば、俺にとっては徹夜がつらいのではなく翌日の生活に支障が出ることが問題なんだけどね。眠くて集中力がなくなり、とてもじゃないが仕事にならない。
「ぼくはうたた寝できるから変な物音がしたらすぐ目が覚めるんです。オークたちの襲撃なんかすぐわかっちゃいます」
できればその能力を来るときにも発揮してほしかった。もうオークたちに襲われるのはこりごりだ。
「それは助かるでガス。今日は夜の見張りは勘弁してほしかったところでガス。これでゆっくり寝られる」
「吾輩も今日は早々と寝るぞ。じゃあな」と言ってスクラブも地面に寝転がる。
ゴスもスクラブも横になると5分で寝てしまった。すごい寝つきの良さだな。
「モンスターたちも安心して寝てますね」とメリットが微笑んだ。
「チョコが番をするっていうから気兼ねなく寝られるんだろうな」
人間が犬を飼うようになった理由がわかるな。夜に襲撃されずにゆっくり寝られるってのは助かる。昼も番をしてくれる。役に立つかわいい相棒が一緒にいてくれると、しだいに愛着もわくよな。
「あら? ねえ。タカ、見て」
スクラブが猫のように丸くなって寝ているのに、ゴスは大の字だ。
「寝相がいつもとは全然違うのが面白いです」
「ホントだな。正反対だよ」と俺もつられて笑う。
「でも大丈夫でしょうか? 先ほどのオークがまた来るかもしれませんよ?」
メリットの疑問に俺は親指を出した。
「実はちょっと作戦があるんだ。手伝ってくれないかな」
翌朝、幸い何事もなく、みんなはぐっすり熟睡して目が覚めた。
これはとっても重要なことだ。RPGでは宿に泊まってヒットポイントとマジックパワーが回復して行動できるが、ファンタジー世界でもしっかり休まないことにはとてもじゃないが旅なんかできるものじゃない。
メリットも十分寝たみたいで魔力が戻ったようだ。富美子も昨日までのグロッキー状態がウソのように回復していた。
この目覚めの良さは若さなのか、ファンタジー世界ってことも関係しているのか、とにかく助かる。
「何もなくてぼくもよく寝られたケン」
「それなんだけどな、実は昨晩のうちにちょっと罠を仕掛けておいた。スクラブとメリットはちょっと来てくれないか」
「面白そうでガス。あっしもついて行くでガス」
「あたしはパス。チョコちゃんと遊んでる」
「そのほうがいいよ。見て面白いもんじゃないから」
富美子とチョコを残して、俺たちは罠を仕掛けた場所を見た。
「あれ、あっしらのいた場所には魔法がかかっていたガスね」
ゴスの言うようにキャンプを少し離れると富美子やチョコの姿が見えなくなった。
「透明の魔法です。正確には幻術で周りの景色をかぶせただけなんですよ。でもこんな荒野のような何も変わり映えしないところでは十分効果があります」
「問題はうっかり離れると迷子になってしまうから、術をかけたメリットについて行ってもらわないと困るってとこな。一度迷子になって死ぬと思ったよ」
エルフ村の魔法練習の時に困ったんだよな。
「それにこれはあまり富美子に見せたくないからな」
俺たちの視線の先には宝箱のような『氷の精霊』箱とそれにだまされたオークの氷漬けの群れがあった。
「15~16匹といったとこか。見事に凍ってやがるぜ」とスクラブがカンカン叩きながら言う。
「なるほど、箱を囮にしたってわけでガスね。宝箱だと思ってやってきた奴らは凍っちまうガス」
「それでも群れ丸ごとはな。どこまでアホウで強欲なんだ。こいつらは」
スクラブにそれは言われたくないな。
「そういうこと。こうすれば俺たちは熟睡できるし、襲ってきたオークは撃退できる。まさにオークホイホイ作戦」
「何でガス、それは?」
「ああ、気にしないでくれ。俺たちの国での罠の名前ことだ」
「それにしてもこいつら見覚えがあるな」
スクラブがしげしげと眺める。
俺にはどのオークも同じようにしか見えないが、オークどもには違いが判るらしい。
「こいつらあの時の戦争の生き残りだな。どうやら別な隊長の残党だ」
スクラブが見るのもいまいましいという表情を浮かべた。
「俺たちを追ってきたのか?」
俺はあわてて聞いた。俺たちはモンスターの群れを抜けて逃げ出してきたからな。裏切者は粛清しろとの命令が出てても不思議ではない。
「どうやらそうみたいだぜ。エルフ村では手出しできなかったからって、待ちぶせてきたかもな」
スクラブは念入りに凍ったオークどもを調べている。
「こいつらゼノの軍団の奴らだ」
「ゼノっていやあ、確かオーク王じゃないでガスか?」
「ああ、この辺りを支配してたオーク部族の王だ」
「このあたりのあっしらゴブリンの仇敵でガス」と怯えとも怒りともとれる表情になるゴス。
オークロードか。そんな奴に目をつけられてるとはヤバいぞ。
「ゼノか。奴が追っかけてきてるとはな。相手にとって不足はないぜ」
楽しそうにスクラブはボキボキと指を鳴らす。
どこかの戦闘民族じゃないんだから、戦いになるからってそんなに嬉しそうにするなよ。
「まあ、力が有り余ってるなら、そこの凍ったオークたちを何とかしてくれ」
「了解だ」
「いや、待つでガス。こいつらを溶かして訊問したら何か情報を吐いてくれるかも知れないガス」
訊問して吐かすか、スパイ映画物の拷問シーンを思わず想像してしまったぞ。
「いや、無駄だ。溶かした途端仲間に知らせかねんぞ。余計なことをする前に始末したほうがマシだ」
スクラブが真剣な顔で言うところを見ると、さすがに王直属の部隊、うかつに口を割らないか。むしろ、口を割ることで王に殺されるほうが恐ろしいのかも。
俺は後はスクラブに任せて出発の準備を始めた。
しかし、冗談じゃないぞ。
たかが『封印の壺』を取りに行くだけのはずが、なんでそんな戦争のごたごたにまた巻き込まれなけりゃならないんだよ。
俺はもっと静かで楽なメリットとのハッピーライフがしたいんだから、これ以上トラブルを増やすのは勘弁してくれ。




