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残念な潜入03

エルフ、オーク、ゴブリンと旅する残念な冒険者13


残念な潜入03


 中は思ったより静かだ。コボルドの姿はないのは単に寝ているだけとはいえ、大集落にしては意外だった。

 富美子がびくびくしながら周りを見回し、メリットも奥を見つめている。

「けっこう静かね?」

「皆寝てるんだと思います。昼はまぶしいのと太陽の光が苦手らしいから」

「吸血鬼みたいな奴らだな」

「さすがに血は吸わないでガス」

「気づかれないうちにどんどん進むぞ」

 俺たちは洞窟をできるだけ音を出さずに進む。自然にできた空洞に手を加えて住み心地を良くしているのか、道はある程度曲がりくねってはいるものの一本道だ。

「気づかれないようにするなんて面白くないぜ。いっちょ派手に大立ち回り大虐殺ってのが性にあうのによう」

 富美子からにらまれて、スクラブは肩をすくめる。

「お姉ちゃんはどこにいると思う?」

 富美子がチョコにニコニコ笑いながら問いかけた。

 チョコがビクッと尻尾を立てる。

「えっ、ぼくですか? うー、わからない。でも近くまで来たら匂いでわかると思うケン」

「匂いでわかるのか?」

 さすが犬だ。正式には犬じゃないけど、犬人間みたいな連中だからかな。

「ちょっと待つでガス。あっしらの匂いも連中にはわかるんじゃないでガスか?」

「そうだけど、たぶんここの連中は気にしてないケン。いろんな種族が出入りしてるから、人やモンスターの匂いがぷんぷんしてる」

「じゃあ近づいたら、どこにいるかわかるんだ」

「うん」とチョコがうなずく。

「ボスの臭いもわかるでガスか?」

「そこまではちょっと……わからないケン」

 突然、メリットが人差し指を口の前に立てた。

「シッ、何か近づいてきます。足音からして十匹ほどですね。どうしますか?」

「我輩なら倒せるぞ。お任せを、お嬢様」

 自信満々に胸を張るスクラブだったが。

「却下。術でやり過ごすわね」の一言で撃沈した。

「くぅーっ、残念、我輩の勇姿を見せたかったのに」

「次に期待してるわね」


 俺たちは洞窟の端に寄った。ピッタリ洞窟の壁越にへばりつき、毛布ごまかしの技をメリットがかける。

 息をこらして様子をうかがっていると、コボルドたちが走ってこっちへ来るのが見えた。

(大丈夫かしら?)

(シッ、静かにしてくれ)

 全くこの女、緊張してる時に何かしゃべらないとダメなくせでもあるのかよ。

 前の隠れていた時のことを思い出した俺は、また何かしでかさないかとハラハラする。

 俺とメリット、スクラブとゴス、チョコと富美子の三枚毛布隠れの術だ。はたしてうまくいくか?

 足音が近づいてくる。見つかれば戦闘は避けられない。緊張の瞬間だ。


 コボルドたちは数メートルのところまで来た。

 みんな走っている。俺たちがいることに気づいたのかとも思ったが、幸い術はうまく効いているようで、どのコボルドも周りを気にかけていなかった。

 俺たちのいる横を何事もなく通り過ぎていく。

 相手は思ったより多く、十匹以上だった。戦闘になると倒せないわけではないが、仲間を呼ばれる危険は十分にあった。

 急いで出口に向かっているわけではなく、近くの部屋に入っていった。

 あの様子から見て俺たちの侵入は、まだ知られていないようだ。


 俺はほっと胸を撫で下ろす。

「行ったな」と周りをもう一度確認して安全だと判断してから、俺は持っていた毛布を下ろす。

「あー、腕が疲れたわ。大丈夫、ぼく?」

「うん」

 富美子の胸元にチョコがしがみついている。

「な、なんという、このガキ、よりによってお嬢様に抱きつくとは。成敗して……、痛っ!」

 富美子がスクラブの腹に正拳づきを食らわせている。

「うるさーい! それにこの子はガキじゃないわよ。女の子だわ。さっき抱きつかれてわかったけど」

「ホントかよ」

「女の子とは驚きでガス」

「チョコちゃん、汚れてるから後でお風呂に一緒に入ろうね」

「お風呂……はだか……ハアハア」

 ゴスは富美子とメリット、チョコを見ながら赤面している。

 こいつ、様子がおかしいぞ。周りが女だらけと意識したとたん、なんかタガが外れたような感じだ。

 特に手がヤバそうだ。まさか……。

 俺はゴスの腕をとっさにつかんだ。

「師匠、想像したらあっしは、もう……」

 ゴスは涙目でうったえた。

「耐えろ! ここでそれをしたら、もう二度と仲間には戻れないぞ。帰ったらエロい絵を描いてやるから辛抱だ」

 気持ちはわかるが欲望に忠実すぎだろ。このスケベゴブリンは。

「なんの話?」と無邪気にメリットが聞いてくる。

「いや、男通しの話だ。なんでもない」

 メリットにはこんな耳障りな話は聞かせたくないもんな。

「ちょっとぉ、なにグズグズしてんのよ。さっさと行くわよ」

「お、おう」

「が、我慢でガス……」

 ゴスは震える手を抑えながら、俺たちの後からついてきた。


 かくしてメリットの術でやり過ごすこと数回、俺たちはひときわ大きな広間のところまでたどり着いた。

 注意深く内部を観察する。中には今までで一番大きな空洞で、調度品が所狭しと置かれているが、俺たちの目にはただのガラクタにしか見えない代物だった。

 部屋中にコボルドたちがたむろしており、その奥にあるむしろをひいた上にひときわでかいコボルドがいる。コボルドは犬人間だが、こいつは犬というよりは狼のようだ。

 おそらくあいつがこの洞窟の主だろう。床にごろりと寝転がっている。

「あれ、なのかしら?」と富美子が聞いた。

「間違いないでガス。あのふてぶてしさはボスの貫禄でガス」

「なんか調子狂うなあ。ボスって言うから贅沢なイスに座って偉そうにしてるのかと思ったら、ただのおっさんじゃない」

 床でごろ寝してケツをボリボリかいてたらおっさんかよ。

 まあ、間違ってはいない。

「ここだよ。右にある部屋からお姉ちゃんの匂いがするケン」

「ホントに? よかったわね」

「うん。ありがとう。ぼく一人じゃこんなとこ来れなかったよ。ありがとね、フミコお姉ちゃん」

「フミコお姉ちゃん……」

 そう呼ばれた富美子が機嫌よくニコニコしている。

「そう、そう、これからもそう呼ぶのよ。わかったわね」

「うん、フミコお姉ちゃん」

 そばでスクラブが何事かつぶやきながら、うずくまって『の』の字を地面に描いている。

 こいつら変な意味で盛り上がっているな。


「まあ、場所はわかったとして、これからどうするでガス?」

「いくら俺たちでもこの数の雑魚コボルドを全部相手にした後で、狼ボスコボルドを倒すのはちょっとやばいかも」

「我輩ならいくらでも相手をしてやるぞ」

「脳筋オークの意見はともかく、メリットは何かアイデアがあるかい?」

「やっぱり数が多すぎます。少しでも減らせればいいのですが……」

「そうだなあ。術で先制攻撃しても物音でかえって仲間を増やすことになりかねないしなあ」

 これといっていい案が出そうにないなと思ったときだ。

 ゴスが手を挙げた。

「逆にコボルドを混乱させればいいかもしれないでガス。あっしが囮になるのはどうでガス」

「むちゃだろ。ゴス一人で何ができるんだよ?」

 この群れの中を一人で囮なんて自殺行為だ。

「一人だからでガス。あっしでこの中を走って取りまきを引き付けるでガス。後はこの毛布で隠れるから、しばらく連中は混乱すると思うでガス。その隙に師匠たちはボスを倒してくださいでガス」

「ゴス……」

「どうせ、あっしにはこんな強い奴とまともに張り合う力はないでガス。ならせめて足止めでもするでガス」

「ぼくもするケン。ぼくはコボルドだから連中もしばらく気づかないケン」

 チョコがドンと胸をたたいた。

「チョコちゃん、あなたにそんな危険なことさせられないわよ」

「フミコお姉ちゃん、だってこうでもしないと倒せそうにないじゃない。だったらぼく、がんばるケン」

「チョコちゃん、お姉ちゃんねえ、チョコちゃんを危険な目に遭わせたくないの。だからムチャしないでね」

「うん、わかってるって」

 なんだろう。富美子がチョコの母親みたいに見えてきた。

「どうだろう、メリット?」

「……安全だとは言い切れませんが、何もしないよりましだと思います」

「じゃあ、その作戦に乗ろうか。ゴス、チョコ頼んだぞ」

 ゴスは親指を上げた。それを見てチョコも真似をする。

 適応力早っ。

「それじゃ術をかけておきます」

 メリットは毛布に術をかける。

「念のため風の守りをかけておきますね。これがあれば矢は刺さらないと思います。でも、過信しないで」

 そう言うとメリットは精霊語を唱えた。軽い風がゴスとチョコの周りを取り囲んでいるのがわかる。

「二人ともいいな。戦わないで逃げることに集中するんだぞ。いざとなったらここから逃げ出すなり、俺たちに助けを求めるなりしてくれよ」

「了解でガス」

「わかったケン」

「じゃあ、作戦開始だ!」

 俺の言葉にみんなが無言でうなずいた。

 いよいよ、本番だ。

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