残念な潜入02
エルフ、オーク、ゴブリンと旅する残念な冒険者12
残念な潜入02
「そう言えば、まだ名前聞いてなかったわね」
「あ、はい。ぼくの名前は『チョボリム』ケン」
「チョボリム? かわいくないなあ。チョコちゃんでいいよね」
勝手に名前を変えられたにもかかわらず、チョボリムはにこにこしている。
その光景をメリットが懐かしそうに見ていた。
「あの時、わたくしの名前が難しいからってメリットってあだ名をくれたことを思い出しますね」
メリットが感慨深げに言った。
「あれは嬉しかったです。人間から初めてもらったアダ名ですから」
「そ、そうだったかな」
改めて言われるとなんか照れる。
「アダ名っていやがるような名前はともかくとして、人からもらったら親愛の証になりますからね。結構いいものですよ」
「そ、そうなのかな」
俺は人からあだ名をもらったことがないからわからないな。
「ええ、チョコちゃんも嬉しそうです」
チョボリムは「チョコ、チョコ、うんうん」と言って自分に言い聞かせて納得していた。
横から覚めた顔で見ていたゴスが口をはさんだ。
「それはともかく、どうして潜入するか決めるでガス」
やっと話が本題に戻ったな。
「とりあえず、何かアイデアのある人いるかい?」
見渡すがメリットと富美子はのほほーんと話を聞いているし、スクラブに至っては鼻くそをほじっている。残念ながら立候補する人はいないようだ。
俺が切り出さないと、このメンバー動きそうにない。
こういう時はメリットにたずねるのがいいと、今までの経験からわかってきた。このメンバーの中では一番詳しそうだ。
「じゃあ、メリットから見てどこが入り口だと思う?」
「おそらく西に見える大きな岩山が怪しいと思います。ぽっかり穴も空いてますし」
やっぱりエルフの視力はすごい。人間には全然見えんぞ。
「すごいわねえ。そんなことわかるんだ」
「さすがエルフだなあ。俺たちにはなんもわからないけど」
「見張りはいるの?」
メリットは岩山の影から注意しながら遠目を効かせた。
「二つほど動くものが見えます。それ以外は誰も」
「住処なのに思ったより警戒がザルだなあ」
俺の問いにゴスが代わって答えた。
「コボルドは夜行性でガス。だからあまり昼間は動かないガス。まさか真っ昼間に住処が襲われるとは思ってないガス」
「のんきなもんだな」
人間なら城壁築いたり、門を作ったり、鍵をかけたりして警戒するのだが、警備する概念があまりないらしい。
「なら決まりだな。一気に殴り込みだ。我輩に任せろ!」
「おい、脳筋オーク、それしかないのか。チョコのお姉ちゃんがいるならできるだけ静かに行って助けるのが理想だぞ」
「そ、そうよね。お姉ちゃんいるんだもんね。いい、スクラブ、変な声出したり戦闘で物音だしたら、あとでお仕置きよ」
あの取ってつけたような口ぶりからして、富美子も人質がいること忘れていただろうな。
「わかった。しかし、お仕置きとな? よりにもよってお嬢様じきじきのお仕置きとは、我輩にとってはどちらも……はあはあ……」
ダメだ。関わらないでおこう。
「みんな、出来るだけ静かにな。相手に気づかれたら仲間を呼ばれるからな」
「わかったでガス」
「了解。スクラブもそれでいい?」
「お嬢様がそう言われるのなら」
しぶしぶ、スクラブも応じる。
「メリットは音を消す術とかないかな?」
「風を操って静かにすることはできるけど、ずっと魔力を使うからあんまり長くすると持たないわ」
「それでいいよ。部屋に入るときと相手がいそうなときだけでいい。他に幻影の術とか使えないかな?」
「初歩の目眩ましならなんとか」
「だったらこれはどうかな」
俺は持ってきた布に泥をかけた。泥だらけになった毛布を広げるとうまく壁に溶け込みそうだ。
「いい考えです。それなら三枚ぐらいに幻影の術をかければうまくやり過ごすことができるかもしれません」
「やるじゃない。ただのオタニートじゃなかったんだ」
「いちいち余計だろ! ケチつけなきゃほめられないのかよ!」
「何よ、うるさいわねえ。せっかくほめているのに」
ほめていると思えないが、もうこのパターンで言い合いするのも飽きた。
「それじゃ、作戦開始だ」
「「「「「おう!」」」」」と、全員こぶしを振り上げて気合を入れる。
俺たちは速やかに、それでいて慎重に西の岩山の方へと向かった。
西の岩山はひときわ大きく、小高い丘の上にあった。
目に見えるところまで近寄ってみると、メリットが言った通りコボルドの見張りが二人立っている。一人はあくびをして、もう一人は岩山に腰かけてぼんやりしている。
どう見ても警戒しているようには見えんな。
「いいかげんねえ。あんなんだったらすぐにでもやっつけられるんじゃないの?」
「それでも物音を立てられたら、すぐに仲間が集まってくるぞ。そうなりゃおしまいだろ」
「じゃ、じゃあどうするのよ!?」
逆ギレぎみに言う富美子をほっておいて、俺はメリットにたずねた。
「術でなんとかできないかな?」
「眠りの術ならなんとかなると思います」
「それそれ、さすがメリットは頼りになるなあ」
「じゃあ任すわね」
メリットは静かに精霊語を唱え出した。
『メギド スラン アド ホグベク』
(精神をつかさどる精霊スラン、目の前の相手に眠りをもたらせよ)
すぐに術が発動し、コボルドはそのままその場で眠りこけた。
「こいつらどうする?」
「我輩がきっちり後腐れないようにしてやるよ」
うれしそうに言うやいなや、スクラブは角材でコボルドを潰している。
さすがに富美子は目を背けていた。
そのままスクラブはコボルドたちをどこかに担いで持って行った。
前に富美子が死体を見るのを嫌がったので、スクラブなりに気を使っているらしい。
「お嬢様の目を煩わせないように片付けたぜ」と言ってニヤリと笑顔を見せた。
「あ、ありがと……」
富美子がひきつった笑顔を浮かべる。
すでにコボルドの死骸はなく、血の痕だけがその痕跡を残しているだけだ。
念のため、俺とメリットが跡を消しておく。時間稼ぎにしかならないけど、それでも少しは侵入者の発見を遅らせることができるだろう。
「行くでガス」
ゴスの号令で俺たちはついに洞窟内に足を踏み入れた。




