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残念な潜入01

エルフ、オーク、ゴブリンと旅する残念な冒険者11


残念な潜入01


 俺たちはエルフの村を出て、近くにある森に入っていた。

 中をさ迷うこと小一時間、行けども行けども同じような景色が広がる。まるでたちの悪いRPGの迷路を歩いているかのような、そんな感覚だ。

 マッピングしなくてもいいのかと思うが、メリットがこっちですとか、ここを右に曲がりますとか、的確な指示を出すので迷っているわけではないらしい。

 と言っても、メリットがいないと確実に迷子になる自信があるな。

 同じ景色がずっと続くのがこんなに苦痛に感じるなんて、日常生活ではあんまり実感できないな。

 まあ、何事もないほうがいいんだけどね。

「どこまで行っても森ばかりだな」

「ねえ、まだあー?」

「もう少しです」

「メリットのもう少しはあてにならないんだけどぉ」

「あはは、そうですか」

 まあ、山登りの時にそうだったな。

 突然、メリットの笑みが消えた。

「気をつけて下さい。前に何か動くものがありました」

 メリットがそう言うが、人間の視力では捉えられない。

「どうやら、これで退屈な時間は終わりそうだな」とスクラブが不敵な笑いを浮かべた。

「斜面の影に3匹隠れています。まだこちらには気づいていません」

「よし、吾輩が行くぞ」

 スクラブがこん棒をもって構える。

 こん棒といっても荒っぽい角材のような代物で、先が戦いのせいで欠けて削れている。

 背中に鉄塊剣を背負う戦士だったらサマになるが、この場合は敗残兵の豚男がとりあえず見つけた材木しょってみましたといったノリだからな。

「頑張ってね、スクラブ」

「お嬢様の期待に応えますぞおーーー!」

 フゴーッと鼻息を吹き出し、ドタドタと走っていく姿は残念感丸出しだ。

 せっかくの活躍シーンだから、もう少しかっこよく見せればいいものを、と思えてならない。

 敵のコボルド3匹は、どうやら斥候らしい。

 いきなりのスクラブの突撃でコボルド達はあっけに取られていた。形勢を立て直す隙も与えず、あっという間に一匹が吹き飛ばされ木に叩きつけられた。そのまま体液を木にすり付けながら動かなくなった。

 2匹にも容赦なくメリットの矢が突き刺さる。まともに頭に受けたコボルドはその場で倒れた。残った1匹もスクラブの次の一打でそのままはね飛ばされていた。

「すげえ……」

「ざっとこんなものだ。見てくださいましたか、お嬢様」

 お嬢様こそ富美子はというと、目の前で起こった出来事が信じられないと言わんばかりにぼーぜん状態だった。

「犬が人になってる……」

 富美子はコボルドを見るのは初めてか。俺もそうだけど。

 ファンタジーなれている俺でも驚くぐらいだから、いちおう一般人の富美子にはショックはでかいか。

「フミコさん、大丈夫ですか?」

「う、うん。ちょっとね」

 富美子は困惑した表情になった。

「あたし、豚男、オークっていうんだっけ、とか小鬼のゴブリンはあまりに違いすぎてモンスターって感じだったけど。コボルドは犬っぽいからなんか勝手が違ってて……、飼ってるような動物がそのままの姿で出てくるのって、ちょっとショックかな」

「富美子……」

 意外と繊細なとこがあるんだな。

 まあ、どんなに息巻いていても、もともとはただの高校生だから目の前で殺しあいを見たらそうなるよな。

「こいつ、なんかうちの近所のドーベルマンに似てるからつい」

「お嬢様、自分の知っている者に似ているとはいえ、こいつらは命を狙ってくる敵、殺さないと殺されることは考えておけよ」

 スクラブにしてはていねいに忠告しているところを見ると、富美子の心情を推し量って気をつかっているのかもな。

「わかった……」

「さあ、行くでガス。こんなところでのんびりしてたらすぐに仲間が集まってくるでガス」

 ゴスがあせって言うところを見ると、あんまりいい状況でないことは俺でもわかる。

「よし、すぐにここを離れよう」

 俺の言葉に富美子はただうなずいた。


 ようやく森は途切れ、荒野が広がる大地になってきた。ごつごつした岩山があちこちに点在する。

 幸いにも見張りの目をごまかせるので、目のいいメリットが近くに誰もいないことを確認すると、おれたちは岩の後ろに隠れた。

「とりあえず、ここで休憩してはどうでしょうか?」

「賛成っ! あたしもそう思ってた」

 女性二人が地面に足を伸ばして座った。

「俺、もう腹が減ってたまらないんだけど」

 いくら朝は食欲ないとはいえ、さすがにもう昼前にはペコペコになる。

「そうでした。レンバスを出しますね」

 メリットがリュックサックからビスケットサンドみたいなものを取り出した。

「へー、これがそうなんだ。味の方は、っと」

 富美子がさっそく一口食べる。

「んぐっ? な、何これ、こんなの食べたことないわよ! 甘いクッキーみたいだけどせんべいみたいにカリッともしてる。挟んでるクリームも甘くてとろけそう、まるでウニの食感みたいなシュークリームだわ、まろやかなのにあっさりしてる」

 さすが芸能界でグルメレポートしているだけあって、妙にコメントがリアルで的確だな。

「そんなに喜んでもらえるなんてよかったです」

「こんな食べ物食べたことないわあっ! エルフの食事ってすごいのねえ。あたし、このままここで過ごそうかなあ」

 そこまで富美子を虜にするとは、レンバス恐るべし。

「タカも、はい」

 メリットがレンバスを差し出す。

 腹が減っている俺は当然がぶりと大口でかぶりつく。

「なんじゃこれは!」

 確かに富美子が絶賛するだけのことはある。さくさくした歯触りにトロリと口のなかでとろけるクリーム、味はわけがわからないが、ただうまい。

「な、なあ、もっとないのか?」

「すみません、携帯用の食料なので、一枚だけで十分なんです」

「こりゃいけるわ。なあ、ゴスも一緒に食べないか?」

 ゴスは困ったように頭をかいた。

「あっしはエルフの食べ物は口に合わないでガス」

「そっか、残念だなあ」

 せっかくうまいのに。まあ、おいしさに目覚めてこっそり食料を盗み食いされるよりはいいかもな。

「我輩もいらん。エルフの食べ物は鳥肌がたつ」

 スクラブの言葉に苦笑するメリット。

 食わず嫌いは良くないぞ。

「ぼくにもちょうだいケン」

「あー、はいはい」

 俺は横にいる子供にレンバスを手渡す。

「ホントだ。おいしーい」

「そうだろ、そうだろ。ん?」

 俺の横には犬顔の子供がちょこんと座ってレンバスをカジカジしてる。

「ええっ!」

 俺が驚くより先に富美子が指差した。

「か、か、かわいい!!」

 俺を飛び越えて、富美子は子供をぎゅっと抱き寄せた。

「ふぎゃあああああああっ!!」

「この子、もふもふよおっ、なにこれ、ぬいぐるみが生きてる」

「ふにゃあふぎゃあ!」

「ん? 何かと思えば子供ではないか。しかもコボルドの子供だ」

 スクラブが木材をかかげた。

「ガキだがコボルドだからな。楽にしてや……ぐぎゃ」

 いきなり富美子がスクラブのすねにキックを食らわす。まさに弁慶の泣き所。両手で持っていた角材は滑り落ち、スクラブの頭に当たった。そのまま首がグネッと傾く。

 おいおい、変な音したぞ。大丈夫かよ。

「うおー」とか叫んでいるスクラブを無視して、富美子が子供コボルドに頬をすりすりしている。

「かわいいわねー、ねえ、ぼく、どこから来たの」

「おいおい、そいつどう見てもコボルドだろ」

「えっ?」

「よく見てください、フミコさん」

 コボルドの子供は茶色の毛で覆われ、両耳がたらんと垂れている。しっぽは恥ずかしそうにおしりから股にかけて大事なところを隠すようにぴったりくっついていた。

「だって、耳が完全に犬だろ。しっぽだってあるし」

「でも、この子かわいいよぉ」

「フミコさん、コボルドの子供といっても油断はできませんよ」

「でもお、どう見ても無害っぽいんだけどな」

 子供はプルプル震えてる。その姿はまさにいきなりもらわれてきた捨て犬が、新しいご主人様を前に緊張のあまり震え上がっているといった姿だ。

「ねえ、ぼく、お姉ちゃん聞きたいことがあるんだけど、答えてくれるかな?」

 キョトンとしている子供に質問する。

「ぼくはここに住んでるの?」

 何を当たり前なことを、と俺は思ったが、予想に反した答えが聞こえてきた。

「ううん。ぼくのお姉ちゃんがさらわれたんだケン」

「お姉ちゃん? その子、ここにいるのかな?」

「うん。ここにいる悪いコボルドに無理矢理さらわれたんだよ。お嫁さんにするって。だからぼく、お姉ちゃんを取り返しに一人でここまで来たんだケン」

「偉い! 君だけでこんなとこまで来たんだ」

「でも周りにいっぱい他のコボルドがいるし、どうしようかなって思ってたケン」

「やっぱりねえ。何か君はここのコボルドたちとは違うって思ってたんだ。だって、こんなにかわいいんだもの。同じ連中だとはとても思えないわ」

 そんな理由なのか?

「ねえ、よかったらお姉ちゃんを探す手伝いしてあげようか?」

「ええっ? 本気ですか?」

「何言ってんだよ!」

「気は確かでガスか?」

「お嬢様がご乱心された!」

 俺たちのいっせいにあげた声を完全に無視し、富美子は子供コボルド、コボル子に優しく微笑んだ。

「いいの、いいの。みんなはわかってくれるわ」

「わかってねえよ! ここのボスを倒さないとならないのに、この中から見つけ出せると思ってるのかよ?」

「いいじゃない。どうせボス倒すんだったらついでにお姉さん見つけてあげようよ」

「すみません、皆さんの迷惑かけるような事言ってしまって」とコボル子は尻尾をだらんと垂れる。

「そうだ。迷惑だ。だからとっと失せやが……」

 言葉は皆まで発せられることなく、スクラブは後ろからの金玉蹴りにその場で悶絶していた。

「お、お嬢様あぁ、それは冗談にしてもあまりの仕打ち、でもお嬢様の一撃ならあ耐えて見せますぞぉ……」とか、つぶやいているが相手にしないでおこう。

「やっぱり自分でやりますケン。皆さんに迷惑かけるわけにはいきませんケン」

 そう言ったコボル子を富美子はぐっと抱き締めた。

「大丈夫、お姉ちゃんにまかせなさい」

「ええっ? でも……」

「人の親切は受けられるときに受けとくものよ。あたしが助けたいって言ってるんだから、気にしなくていいの」

 こっちが気にするんだが、何を言ってもムダだな。

「そういうわけでこの子のお姉さんも探しましょう」と富美子はコボル子を抱き上げる。

「仕方がありませんね。ただ、先程言われたようにこの群れのボスの所にいるのはまちがいないみたいですね」

「さらってきたんだから手元に置きたいだろうし」

「あっしもそう思います」

「でもなあ、我輩だったらさっそく着てるものひっぺがして、今ごろはバーベキューに……」

「次言ったらあんたもバーベキューにするわよ」

 両手を腰にスクラブをにらみつけるその姿は、まさに大魔王フミコの貫禄があった。

 そのオーラにすっかり飲まれたスクラブは小さな声で「はい」とうなずき、犬同様にお座りをしたのだった。


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