残念な潜入04
エルフ、オーク、ゴブリンと旅する残念な冒険者14
残念な潜入04
打合せ通りゴスとチョコだけが隠れ毛布の術を解いた。
いきなり二人の姿がコボルドたちの前に明らかになる。
「な、なんじゃお前たちは! よくもおめおめとこの俺様の前に現れおったな」
さっきまでごろ寝をしていたボス狼コボルドがあわてて起き上がる。
「この俺のこんな姿を見られるとはっ! お前ら生かして帰さん!」
ごろ寝していたところを見られただけで生かして帰さんって、理不尽な奴だ。
ボス狼コボルドは首をくねくね曲げながら、ゆっくりと立ち上がった。
「お前らごとき雑魚どもが俺様の相手になると思ったか! おい、こいつらをかたずけろ!!」
手下の雑魚コボルドたちがいっせいに襲いかかってきた。それを見てゴスとチョコは互いにうなずくと、一目散に出口に向かって走っていく。
「侵入者だ! 逃がすな!」
洞窟中にカラカラと音が響き、わらわらと眠っていたコボルドがうごめき出した。ゴスたちを見て後を追いかけていく。
あたりはボス狼コボルドだけが残された。
少しは護衛ぐらいはつけると思ったのに、なんて単純な奴らだよ。まあ、そのほうがこっちにとっては好都合だ。
俺は行動開始の合図を送る。
それを見て、メリットが完全に術を解いた。
まだ、俺たちの存在に気づいていないボス狼コボルドは後ろを向いている。そこにスクラブがゆっくりとにじり寄る。
「ふー、他愛もない奴らだ。ん?」
「お前さんの相手はこの我輩だ」
油断しているボス狼コボルドにガツンと角材の背後攻撃。
おー、まさに非道の振る舞い。
頭からだらだら血を流しながら、ボス狼コボルドはこっちを向いた。
「やるじゃないか。我輩の一撃を食らっても倒れないとはな」
「き、貴様ああっ!」
「さて、お仲間もいなくなったし、正々堂々と一騎討ちしようぜ」
「どこが正々堂々だああああああっ!!」
ごもっともで。
「貴様らああああああ、よくもこの俺を本気にさせたな。手下なぞいなくとも、この俺自ら手を下してお前らをミンチにしてやる!!」
完全にマジ殺戮モードに入ったボス狼コボルドは近くにあった酒樽で殴りかかってきた。
「でやゃああああああああああああああっ!!」
「ごげえええええええええええええええっ!!」
凄まじい大声と武器というよりは身近な物を凶器にして殴り合う様は、戦いというより荒くれ者通しのケンカにしか見えない。
やっぱりモンスター同士の戦いはこうなるのか。
感慨にふけっている場合ではなかった。早く次の指示を出さないと。
「今だ! メリットは横の部屋からお姉さんを助け出してくれ。まだ、仲間がいるかもしれないから慎重にな」
「はい!」
メリットはさっと身をひるがえして、横の部屋に向かっていった。
「がんばれえーーー!!」
富美子は横から声援をあげている。
「な、なんじゃ、この女は?」
ボス狼コボルドは部屋の片隅にいる富美子を見つけた。
「どこから入ってきた。まあ、いい。お前も俺の慰み者にしてやる! グゲッ!」
体当たりされたボス狼コボルドはその場でよろめいた。
そこに立っていたのは目からかつてのスポ根漫画で見られたような目から炎をたぎらせたスクラブの姿だった。
「お嬢様をお前のような三下の慰み者だとおおおおっ! お前のような奴にお嬢様の魅力を感じるなど百年早いわああああっ!」
すまん、たぶん俺には百年たってもわからんと思うわ。
いきり立ったスクラブは「おりゃあああああ」と大声で吠えると向かっていった。それをがっしりと受け止めるボス狼コボルド。
すでに戦いによって武器というより凶器はボロボロに壊れて、素手で殴り合っている。ほとんどプロレスの場外乱闘状態になっていた。
戦いは熾烈を極めた。
両者は互いに殴りあったが、やはりというか最初の奇襲攻撃がここで効いてきて、ボス狼コボルドの足元が次第にふらついてきた。
その隙を見逃すスクラブではなかった。
「今だあああああっ!!」
スクラブの一撃がボス狼コボルドの腹に決まった。
「ぐばあああっ!」
ボス狼コボルドはたまらずガクンと膝を折る。
「もらったああああああっ!」
追い打ちのスクラブのパンチがボス狼コボルドの胸板に入り、地面に叩きつけられる。
相手を思いっきり殴ったら、重量の重い相手は吹き飛ばされるんじゃなく、地面の下方に叩きつけられるんだなと初めて知った。
痛みと息のできない苦しさにボス狼コボルドは地面に転がってもがいている。
ニヤリとスクラブが笑みをもらした。
「覚悟しろ! どサンピンが!」
「や、やめろぅ……」
負けを悟ったボス狼コボルドはあわてて懇願するが……。
「どりゃあああああああっ!!」
スクラブの足が地面に倒れているボス狼コボルドの顔めがけて踏み下ろされた。
富美子が目をつむった。
うわー、常に相手をフェイタリティーにしないと勝った気がしないプレイヤーかよ。
見ないでおこう。おそらくかなり悲惨な姿になっていると思うから。
「は、早くあたしの目の届かないところにかたずけておいてよね」
富美子が目をそむけて言う。
「わかってるって、お嬢様」
そうスクラブは言うと、ボス狼コボルドを引きずって空の酒樽の中に叩き込んだ。
血の跡を気にしないのがスクラブらしいというか。
「ふうー、なかなかいい運動だったぜ」
戦いですらないんだな。こいつにとっては。
スクラブはおもむろに、富美子の方を見た。
そこには今まで戦っていた戦士としての姿はみじんもなく、ただのケダモノだった。
「お嬢様あああああっ! 我輩はやりましたよおおおおっ!!」
ドドドドと駆け寄るスクラブに富美子は。
「そんな汚い体で近寄らないでえええええっ!!」と一喝して延髄蹴りを食らわせた。
確かに汗と互いの血で汚いとはいえ、頑張ったスクラブにこの仕打ち、あんた鬼か……。
さすがに激戦の後ではいつものようなドMなつぶやきを発する間もなく、スクラブは地面に倒れのびていた。
「タカ、見つかりましたよ」
メリットがコボルドの女性を連れてやってきた。
かわいらしいポメラニアン風の顔立ちをした女性だった。
「この他にも数人さらわれてきた女性がいましたから、みんなの鍵を開けておきました」
「さすがメリット、グッジョブ」
俺が親指を上げると、メリットも同じ仕草をした。
意味はわからないけど、とりあえずやってみましたという感じが出てかわいい。
「何の音だ」
「親方様のいる方だぞ」
どやどやとコボルドたちが帰ってきた。
「ま、まずいわよ。もう戻ってきたわ」
数十匹のコボルドたちはめちゃめちゃになったかつてのボスの部屋の惨状にあっけにとられ、次に地面に流されている血痕がかつての親方の変わり果てた姿と知って、ふぅーと怒りの声を上げ出した。
さすがに数十匹のコボルドの怒りのブーイングは、真に背筋を凍らせるものがある。
「こりゃあ、やばいぞ」
「ど、どうするのよ?」
俺たちはひとかたまりになって互いに身を守った。コボルドたちは俺たちを幾重にも取り囲む。
怒りに血走った目をたぎらせ、今にも飛びかかりそうなコボルドたちを押し止めているのは、ボスを倒せるほどの俺たちに対する警戒心だろう。
しかし、いくらコボルドたちがボスに及ばないとしても、数十匹を一度に相手にするには、分が悪すぎる。
「お嬢様、我輩が付いてますから、必ず助けますぞ」
いつもはふざけてるスクラブも、今回ばかりは真面目な豚顔で富美子を肩におぶっていた。
こいつがシリアスになっても様にならないなあ、とこんな時でもツッコミをいれたくなる。
「な、なにか助かる方法はないの?」
「タカ……」
メリットも富美子も俺の方を向いた。
二人とも俺のことを頼りにしてるんだな。
俺、そんなに頼られるほどの力はないぞ。筋力はないし、魔法も使えない、かいしょもないと思う。
でも、ここでみんなを救いたいと心から思ってる。
こんな俺でも必要としている人がいるんだ。
それは向こうの世界ではけっして感じられることがない思いだった。
例え一時的な仲間であっても、俺たちは同じ目的のためにここまで来たんだから。ここで終わりになんかにしてたまるか!!
考えろ! 何か逃げ出す方法はないか?
そもそも、なぜこいつら来ないんだ?
こんなにいるのに俺たちを遠巻きにしているのは、何されるかわからないと思っているからだ。
……だったら、何されるかわからないという恐れを形にしてやればいいんじゃないか。
「メリット」
俺はメリットに素早く耳打ちした。
メリットは意を得たりとばかり、うなずいた。
「お前らごとき雑魚など、お前らの親方に比べたらとるに足らんわっ!!」
俺は大声でどなった。
「ちょ、ちょっと、なに挑発してるのよっ!」
富美子が目を三角にしてこっちを見るが、俺はかまわず続けた。
「今こそ、お前らの親方を倒した方法を見せてやる!」
俺はそう大声でけしかけた。
『エーラソウ~ナフーミゴンクターバレエエーーーーーーーーーーーン』
俺の言葉に合わせてどろどろと目の前に黒い雲がわき上がった。その黒雲はやがて黒竜の姿になった。
「うげげげげげげえええええええーーーー!!」
「ふぎゃあ、ふぎゃああああああーーーー!!」
周りを取り囲んだコボルドたちが恐慌状態になって逃げ出した。
あるものは逃げ出したコボルドに踏み潰され、あるものは部屋から逃げ出そうとして押し合いへし合いになってぐぎゃああと悲鳴をあげた。
まさに群衆がパニックになったときに、どうなるかを見せつけられた形となった。
逃げ惑うコボルドたちの大混乱を俺たちはただ見守っていた。
だいぶ経ってから騒ぎはようやく収まり、洞窟内は静かになってきた。
「おっ魂消げたな。さすがの我輩も肝を冷やしたぞ」
事情を知らないスクラブも呆然とした表情でつぶやいている。
「ちょっと気をつけて見れば幻ってことがわかるはずなんだがな。まあ、どうやって倒したか見てないから、使えた方法だな」
メリットが感動して俺を見つめていた。
「タカ、すごいです。こんな簡単な方法で、あの数十匹のコボルドを追い払うんですから」
「ねえ、今の呪文らしい言葉、なんかあたしの悪口らしいように聞こえたんだけど」
「べ、別に、気のせいじゃないかなあ」
さっと横向く俺をジロリと見る。
「さあ、それじゃ、みんなを助けて帰るとするか」
「そ、そうだわ。チョコは?」
「そうだ、ゴスも」
俺は今更ながら二人のことを思い出した。
「まさか、今のパニックに巻き込まれてるんじゃないでしょうね」
富美子が俺の首根っこをつかんでガタガタ揺さぶる。
「あの子になんかあったら、あたし承知しないわよ!」
「俺だってゴスがどうなってるか心配だよ!」
「とにかく早く探しにいきましょう!」
俺たちは洞窟を探し始めた。中はほとんどのコボルドたちが逃げ出した後で、残されているのは踏み潰された死体と動けなくなってうめいているコボルドたちだった。
生き残りの残党が襲ってくることに備えて、スクラブが先頭を歩き、俺たちは周りを調べながら出口へと向かった。
「ゴスぅぅぅーーー」
「チョコちゃーーん」
俺たちの声が洞窟に響いたが、二人の姿はなかった。
とうとう洞窟の出口まで来てしまった。
「見つからなかったか」
「あたし、帰らない」
富美子が洞窟の前で座り込んだ。
「きっとまだどっかにいるのよ。あたしたちが来るのを待ってると思う。だからあたしは帰らないわよ」
「お嬢様……」
「もういっぺん洞窟に戻るわよ。今度は入っていない部屋を見て回るの。まだ、見落としてる所があるかもしれないわ」
「わかったよ。俺だってゴスを失いたくないしな。あんなスケベで欲望丸出しの奴だったが、俺のこと師匠とよんでついて来てくれたもんな」
ツンツンと俺をつつく人がいる。
横を見るとメリットが申し訳なさそうに、俺の横をつまんでいた。
「あのぅ、信頼を高めあって、盛り上がっているところ申し訳ないんですけど……、お二人ならあそこに」
メリットが指差したのは岩山の上にしがみついているチョコとゴスだった。
「師匠ぅ~~、お助けぇ」
「もう限界だよおー」
メリットが素早く風の呪文を唱えた。
とたんに二人の体が宙に舞い、ゆっくりと風に守られながら地面に着陸する。
「よかったな、二人とも無事でって、あれ?」
すでに横に富美子の姿はなく、チョコに向かって走っていた。
「チョコちゃーーん!」
「お姉ちゃーーーん!」
二人の感動の再開かと思いきや、チョコは富美子の横を通りすぎ、本当の姉のもとに飛び込んでいった。
「お姉ちゃん、会いたかったよぅ」
「チョボリム、ごめんね、心配かけて」
「うあああああーーーん」
姉妹の感動の再開をよそに富美子は地面にペタンと座った。
「そりゃそうだけどさあ。少しはあたしにだって感謝してくれてもいいんじゃないかなあ」
今度は富美子が何事かつぶやきながら、うずくまって『の』の字を地面に描いている。
思わず笑いをかみ殺す俺だった。
後で訳を聞くと、コボルドたちがいっせいに出口に向かって逃げ出したので、俺たちがボスを倒したことに気がついたらしい。しかし、コボルドたちのパニックに巻き込まれないように、火事場のクソ力で岩山を登って難を逃れたとのことだった。
こうして俺たちはコボルドの親玉を倒し、チョコのお姉ちゃんを助けて、エルフ村に帰還した。




