第七話 あの方は、コッティ様ばかり見ている
「アザリア嬢は、コッティ様を嫌っていません。追い出して喜んでいるようにも見えませんでした。いつも、兄と帰ってきてからも、何度もコッティ様のことを尋ねていました」
「何を?」
「お怒りだったか。泣いていたか。最後に何とおっしゃったか。服は何色だったか……」
「服まで?」
「……はい」
あの時は、淡い青灰色のドレスだった。アザリア嬢は私の向かいに座っていたのだから、見ているはずだ。
「なぜ知っていることを、もう一度尋ねたのでしょう?」
「私も聞きました。すると、『ジョナサン様の目には、どのように映っていたのか知りたかった』と」
窓の外から、庭師が枝を払う音が聞こえた。
一度。少し置いて、もう一度。
「兄は、アザリア嬢が自分を愛していると思っています」
「二人とも、そうおっしゃっていましたわ」
「両親もそう思っています。若い二人が恋をして、昔からの婚約を解消した。それだけだと」
「違うとお考えなの?」
「……分かりません」
キャサディは首を振った。
「兄を好きなのかもしれません。でも、兄だけを見ている方には思えないんです。コッティ様が選んだ人だから欲しい。コッティ様の隣にいた人だから、その人と結婚したい。そんなふうに見えて」
「それを、ジョナサンへ話したのですか」
「何度も」
「何と?」
「アザリア嬢は、《《兄よりコッティ様を見ているのではないか》》、と」
「ジョナサンは?」
「私がコッティ様に懐いているから、アザリア嬢を悪く見ていると言いました。コッティ様が義姉になると思っていたから、新しい人を受け入れられないのだとも」
「ご両親は?」
「私が寂しがっているだけだと」
キャサディは、膝の上へ視線を落とした。
「ですから、私も自分が意地悪なのかと思いました。兄がコッティ様との婚約を捨てたことが許せなくて、アザリア嬢のすることを何でも悪く考えているのかもしれないと」
「それで手帳を?」
「はい。感じたことではなく、起きたことを書いてみようと思いました」
キャサディらしいやり方だった。
彼女は昔から、感情のまま人を責める娘ではない。兄に腹を立てても、その日のうちに自分の言い方まで振り返る。
「見せていただいても?」
「もちろんです」
手帳を受け取る。
日付と場所、アザリア嬢が身につけていたもの、口にした言葉。キャサディの感想は、欄の端へ小さく分けて書かれている。
最後の頁には、昨日の日付があった。
――兄がコッティ様との話を終えたと言った。
――アザリア嬢は「これで、私がジョナサン様のお隣ですのね」と言った。
――嬉しそうだった。
――けれど、その後すぐに、コッティ様は指輪を外したかと尋ねた。
「キャサディ」
「はい」
「この手帳は、お預かりしても?」
「そのつもりで持ってきました」
「分かりました。父と兄にも見せますわ」
「コッティ様は、私の考えを信じてくださるのですか」
「すべてを信じるとは、まだ申し上げられません。アザリア嬢がわたくしの真似をしていることと、ジョナサンを愛していないことは別です。あなたの推測どおりとは限りませんし、服や言葉を真似るだけなら、強い憧れで説明できるかもしれません」
キャサディの肩が少し下がる。
「ただ」
手帳を閉じる。
「あなたが怖いと感じて、その理由を確かめるためにここまで書いたことは信じます。ご両親にもお兄様にも聞いてもらえなかったのなら、なおさらですわ」
「コッティ様」
「それと、昨日まで黙っていたことを謝る必要はありません。あなたは何度も話したのでしょう?」
「はい」
「聞かなかった方々の分まで、あなたが責任を負うことではありませんわ」
キャサディの目が赤くなった。
彼女はすぐにカップを持ち上げた。飲むには、もう空だった。
「お茶を足しますわね」
「……はい」
呼び鈴へ手を伸ばす。
「それで、キャサディ。あなたはこれからどうなさるおつもりですの?」
「私?」
「アザリア嬢は、近いうちにオルスタイン家へ入るのでしょう。あなたはあの家で暮らし続けることになりますわ」
「それについても、お話ししようと思っていました」
キャサディは鞄から、もう一通の封書を出した。
「以前からいただいていた縁談を、進めていただくことにしました」
「まあ」
「お相手とは何度かお会いしています。派手な方ではありませんけれど、お話はきちんと聞いてくださいますし、ご家族も穏やかな方々です」
「結婚を急ぐほど、怖いのですか」
「兄の結婚まで、まだ時間はあります。その前に婚約を整えて、できれば式も早めていただきます」
「ご両親は承知を?」
「私が兄のことで傷つき、早く自分の家庭を持ちたくなったのだと思っています」
「違うの?」
「それも少しはあります」
キャサディは、今度こそ小さく笑った。
「でも一番は、私の部屋へアザリア嬢を入れたくないからです」
「お部屋へ?」
「あの方は以前、私の刺繍台を見て、『コッティ様のお部屋にも同じものがありましたわ』とおっしゃったんです」
私の部屋の刺繍台は、キャサディが気に入ったため、同じ職人へ頼んで贈ったものだった。
「その時の顔が、どうしても忘れられません」
キャサディは鞄の留め金を閉じた。
「兄の妻になったら、次は私のものまで欲しがるような気がするんです」
それはまだ、キャサディの推測だ。
けれど手帳には、アザリア嬢が欲しがったものがいくつも並んでいる。
服――髪――言葉――手紙の書き方。
……そして、婚約者。
「ご婚約が決まりましたら、すぐに知らせてくださいませ」
「はい」
「必要なら、わたくしからもお相手のご家族へお話しします。あなたがお兄様の結婚に腹を立てて、衝動的に決めた縁ではないことくらいは証言できますわ」
「ありがとうございます」
「ただし、急いでも相手を見る時間は取ること。家を出るために、別の困った家へ入っては意味がありませんもの。ご本人だけではなく、ご両親、兄弟、使用人への接し方、領地の状態、それから――」
「コッティ様」
「はい」
「少し長くなりそうです」
「大事なことですもの」
「でも」
キャサディが笑った。
「聞きたいので、最後までお願いします」
呼び鈴を鳴らす。
新しい茶が届くまで、私はキャサディが確かめるべきことを、順に話し始めた。




