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勇者召喚された俺のギフトは村作り~無能と追放されたので辺境に最強の村を作ります。  作者: 葉月


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7/20

7話 ポンッ

「次は……この陽射しだな」


 見上げた空は、容赦という言葉を忘れたかのように青く澄み切り、太陽は無遠慮に熱を叩きつけてくる。

 肌が、じりじりと焼ける。いや、“痛む”という表現のほうが正確だろう。熱が皮膚を越え、骨の内側にまで染み込んでくる感覚があった。


 このまま直射日光に晒され続ければ、いずれ日射病になる。

 水があっても、それだけでは足りない。倒れれば終わりだ。最悪の場合、命を落とす。


 鬼人族の彼らなら、この程度の暑さなどものともしないのかもしれない。逞しい体躯と、鍛え上げられた血がそうさせるのだろう。

 だが――俺は違う。


 ただの人間だ。

 この世界に来て、少しばかり特別な力を得たとはいえ、肉体そのものは脆弱なままだ。無理をすれば、あっさりと死ぬ。


「……というわけで」


 独りごちるように呟き、俺は意識を切り替えた。


 【井戸】の次は――【小屋】だ。


 再び、視界の端に浮かぶ不可思議なインターフェースへと意識を集中させる。

 半透明のカーソルをゆっくりと動かし、集落の端、地面が比較的平らな場所を選ぶ。


 ――ここだ。


 決定の意志を込めた、その瞬間。


 ポンッ。


 乾いた音とともに白煙が噴き上がり、視界が一瞬だけ遮られる。

 煙が晴れると、そこには――


「……おお」


 思わず、感嘆が漏れた。


 粗末な仮設小屋を想像していたが、実際に現れたのは、意外なほど立派な木製の小屋だった。

 きちんと組まれた壁、傾きのない屋根。雨風を凌ぐには十分すぎる造りだ。


「ま、まただ!」

「何もない場所に……家が現れた!?」

「あの人族が、やってるのか……?」

「一体、何者なんだ……」

「シズナちゃんが連れてきた人よ」


 井戸に群がっていた鬼人族たちの視線が、一斉にこちらへと向けられる。

 ざわめきが波のように広がり、警戒と驚愕が入り混じった空気が漂った。


 無理もない。

 何もない場所に、井戸が生まれ、家が生まれる。理屈を知らなければ、恐怖すら覚えるだろう。


 だが、今は説明している余裕はない。


「……よし」


 彼らの反応は一旦脇に置き、俺は小屋の扉を開けて中に入った。

 内部は簡素だが、清潔で、木の香りがまだ新しい。


 広さは――八畳ほどか。

 寝るだけなら問題ないが、五十人が身を寄せ合うには、さすがに窮屈すぎる。


「これじゃ、足りないな……」


 誰に聞かせるでもなく呟き、俺は再びギフトを起動する。


 ポイントを30、消費。


 ポンッ。

 ポンッ。

 ポンッ。


 立て続けに白煙が上がり、最初の小屋の隣に、もう三つの小屋が姿を現した。


 即席とは思えない、四棟の建物。

 灼熱の太陽の下、影を落とすその光景は、荒れた地に突然現れた“避難所”のようにも見えた。


 ――これで、少なくとも倒れる心配は減る。


 俺は小屋を見上げながら、胸の奥で小さく息を吐いた。

 この世界で生き延びるために、今はただ、できることを積み重ねるしかないのだから。


「お次は……と」


 小さく息を吐き、俺は気持ちを切り替えた。

 立ち止まっている暇はない。休息は必要だが、それは“生き延びる準備”を整えてからの話だ。


 水と日陰を確保した。

 次に必要なのは――食糧。


 生きるために、やるべきことをやらなければならない。


 俺は小屋の裏手に視線を向け、【村作り】のギフトを再び起動した。

 意識を操作盤へと沈め、40ポイントを消費する。


 畑、二つ。


 視界に浮かび上がる選択肢が、淡く光を放つ。


 ――じゃがいも

 ――レタス

 ――白菜

 ――キャベツ

 ――トマト

 ――きゅうり

 ――ナス

 ――その他


「……なるほど」


 畑そのものを選ぶのではなく、作物を先に指定する仕組みらしい。


「畑を選択すると、そこから育てる野菜を選択する……ってことか」


 少し考え、俺は二つを選んだ。


 じゃがいも。

 そして、トマト。


 じゃがいもは、痩せた土地でも比較的育ちやすいと聞いたことがある。主食にもなるし、保存も利く。

 トマトについては――まあ、理屈より欲望だ。この灼熱の下で、冷えたトマトを思い浮かべてしまった以上、選ばない理由がなかった。


「……よし」


 決定。


 ――ポンッ。


 乾いた軽い音とともに、再び白煙が立ち上る。

 煙が晴れると、そこには――


「おおっ……」


 思わず声が漏れた。


 耕された黒土が、きれいな区画として広がっている。畝は整い、無駄な石一つ見当たらない。

 まるで、長年手入れされてきたかのような、完成された畑だった。


「……種とか、撒かなくてもいいのか?」


 素朴な疑問が口をついて出る。


〈【村作り】ギフトで生成された畑は、基本的に自動生成されます。ただし――〉


 少し間を置いてから、淡々と続く。


〈――水やりは、セルフで行ってください〉


「そこは人力なんだな……」


 妙に現実的な縛りに、苦笑が漏れる。

 まあいい。水なら、さっき作った井戸がある。


「鬼人族の人たちが元気になったら、頼めばいいか」


 独り言のように呟き、さらに問いを重ねる。


「収穫まで、どれくらいかかる?」


〈じゃがいも、トマトともに――一日です〉


「…………はい?」


 一瞬、思考が止まった。


「一日!? いやいや、待て待て。一日って、二十四時間の“あの一日”か?」


〈はい〉


「……マジか」


 通常なら、数ヶ月かかるはずの作物だ。

 それが、たった一日で収穫可能になる。


 いくら異世界の不思議な力とはいえ、さすがにやりすぎだろう。

 世界の理を、力技でねじ伏せているとしか思えない。


「……まあ」


 小さく肩をすくめる。


「いまは、そのデタラメがありがたいんだけどさ」


 生きるか死ぬかの瀬戸際に、理屈は二の次だ。


「すごいです!」


 弾んだ声に振り向くと、シズナが両手を胸の前で打ち鳴らしていた。

 瞳はきらきらと輝き、まるで奇跡を目の当たりにした子供のようだ。


「村に、井戸ができて……家ができて……それに、畑まで……!」


 純粋な称賛。

 その視線が、少しだけ居心地を悪くさせる。


 人から、こうして真っ直ぐに褒められることなど、ほとんどなかった。

 悪い気はしないが、どうにもむず痒い。


「……できることをやってるだけだ」


 そう答え、鬼人族の人々へと向き直る。


「今日は、無理せず小屋で休んでください。動けるようになったら、畑に水をお願いします」


 彼らは深く頷き、静かに頭を下げた。


 すべてが、少しずつ前に進んでいる。


「……残り、0ポイントか」


 ギフトの残量を確認し、俺は小さく息を吐いた。


「さすがに、今日はもう何もできないな」


 そう思った――その時。


〈女神像を建ててはいかがでしょう?〉


 唐突な提案が、頭の中に響いた。


「……は?」


〈現在、0ポイントで設置可能です〉


 無料。

 その言葉が、逆に胡散臭さを際立たせる。


「なんで急に、そんなものを……」


〈信仰は時に、人に活力と希望を与えます! いまの彼らに必要なのは、そういった“心の拠り所”ではないでしょうか!〉


「……やけに必死だな」


〈……そ、そうですか?〉


 とぼけたように、ガイドが口笛を吹く。

 明らかに誤魔化している。


「ますます怪しい……」


 しばし沈黙。

 だが――


「まあ、0ポイントだし」


 肩をすくめて、俺は結論を出した。


「置くだけ置いてみるか」


〈ですです!〉


 妙に嬉しそうな反応を最後に、ガイドの気配が引いていく。


 俺は空を見上げた。

 容赦なく照りつける太陽の下、それでもこの村には、確かに“明日”が芽吹き始めていた。

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