表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者召喚された俺のギフトは村作り~無能と追放されたので辺境に最強の村を作ります。  作者: 葉月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/10

5話 村作りガイド

〈この場所の土地を所有しますか?〉


 唐突に、頭の奥で声が鳴った。

 同時に、視界の中心へ淡い光を帯びた文字列が浮かび上がる。


「……ん? なんだ、これ……?」


 思わず呟いた俺に、隣のシズナが小首を傾げる。


「リョウジ様? どうかなされたのですか?」


 その反応で察した。

 この声も、この文字も――見えているのは、どうやら俺だけらしい。


〈私は【村作り】ガイドのレタと申します。これより加治木りょうじ様の【村作り】を全面的にサポートさせていただきます〉


 ――普通に名乗った。


 しかも、妙に丁寧だ。

 脳内に直接響く声だというのに、抑揚も間も自然で、作り物じみた違和感がない。


 いやいや、ちょっと待て……。


 心の中でそう突っ込むと、即座に返答が返ってくる。


〈ご安心ください。思考の読み取りは、必要最低限に制限されています〉


 ……やっぱり読んでるじゃないか。


「ええと……【村作り】ガイドってことは、君が俺のギフト……って認識で合ってるのか?」


〈はい。村を築く際に必要な知識の提供、判断補助、各種アドバイスを行います〉


 会話は成立している。こちらの言葉も、疑問も、すべて正確に受け取っているようだ。


 しかも――妙に“人間的”だ。


「……どこかで、俺のこと見てたりするのか?」


 思わず周囲を見回した、その瞬間。


「……リョウジ様?」


 シズナが、わずかに不安げな声を出す。


 そりゃそうだ。

 彼女からすれば、俺は突然立ち止まり、虚空を見回しながら独り言を呟いている、不審人物にしか見えない。


 ――まずいな。

 三十路のおっさんが、何もない空間に話しかけている図は、だいぶ痛い。


「い、いや……その……」


 俺は咳払いひとつしてから、言葉を選ぶ。


「ギフトが……頭の中に直接、話しかけてきてるみたいでな」

「……ギフトが?」


 シズナは一瞬きょとんとし、それから慎重に頷いた。


「……そう、なのですか」


 その“間”が、やけに長い。

 疑っている。

 遠慮がちに、しかし確実に。


 やめてくれ……そんな目で見るな……。


 言葉には出さないが、内心では必死だった。これは妄想でも幻覚でもない。異世界特有の、れっきとした超常現象なのだ。


 ――たぶん。


 だが、説明すればするほど胡散臭くなるのも、また事実である。


 シズナの視線が、ほんの少しだけ柔らいだ。


「……リョウジ様が、嘘をついているようには見えません」

「……ありがとう」


 その一言に、地味に救われる思いがした。どうやら“痛いおっさん”の烙印は、ギリギリ回避できたらしい。


 俺は、再び視界に浮かぶ選択肢へ意識を向ける。


〈この場所の土地を取得しますか?〉


 またしても、あの無機質な声が脳裏に響いた。


「……土地を取得すると、何か起きるのか?」


 問いかけると、間を置かずに返答が返ってくる。


〈土地を取得することで、村の建設が可能となります。村はポイントを消費することで、必要な建物や各種施設を設置できます。なお、現在の気温は四十四度。早急な飲水の確保を強く推奨いたします〉


 四十四度――冗談じゃない。

 日本の猛暑日を思い出したが、あれとは質が違う。湿気がないぶん幾分か呼吸は楽だが、肌から水分が奪われていく感覚はむしろこちらの方が露骨だ。


 視線を向ければ、鬼人族の中にはすでに膝をつき、浅い呼吸を繰り返している者もいる。唇は乾ききり、目の焦点も定まっていない。


「……確かに、悠長に考えてる場合じゃないな」


 ここで迷っている余裕はない。

 選択肢はもはや一つしかなかった。


「よし。俺は――ここに村を作る!」


〈土地を取得します〉

〈土地の取得に成功しました〉


 ……。


 …………?


「……え?」


 内心では、大地が割れるとか、光の柱が立つとか、そういう派手な現象を想像していた。

 だが現実はあまりにも静かだった。


 風が吹き、砂が舞う。

 それだけだ。


 ただ一つ、視界の中央に淡く浮かぶ文字列が現れた。


【加治木りょうじの村】


「……これだけ?」


 思わず本音が漏れる。


〈意識を集中していただければ、地面が発光しているのをご確認いただけます〉


 言われて足元を見つめると――確かに。地表が、ほのかに、しかし確実に光を帯びていた。まるで見えない境界線が、地面そのものに刻まれたかのように。


 それはどこか懐かしい感覚だった。

 学生時代に遊んだ、シミュレーションゲームのマップ。移動可能エリアを示す、あの淡い光。


〈発光している範囲が、加治木りょうじ様の所有地となります〉


「……つまり、この中なら、好きに村を作れるってわけか」


〈はい〉


 あまりにもあっさりと肯定され、逆に背筋が寒くなる。

 この土地は、今や俺のものなのだと、世界そのものが宣言している。


〈現在の加治木りょうじ様のレベルは1。設置可能な施設は以下の通りです〉


 次の瞬間、一覧が視界に流れた。


 ――女神像(0)

 ――土嚢(5)

 ――柵(5)

 ――堀(5)

 ――小屋(10)

 ――畑(20)

 ――井戸(20)

 ――物見櫓(20)

 ――その他……


「……レベル1にしては、やけに選択肢が多いな」


 素直な感想だった。


〈括弧内の数値は、設置に必要なポイントを示しています〉


「……待てよ」


 嫌な予感がして、俺は問い返す。


「俺、ポイントなんて持ってるのか?」


〈初回ボーナスとして、100ポイントが付与されています〉


「……100?」


 思わず声が裏返る。

 思っていたより、ずっと多い。


「なるほどな……。じゃあ、そのポイントはどうやって増やすんだ?」


 問いかけた瞬間、俺はふと背後を振り返った。

 そこには、渇きと絶望を抱えた五十余名の鬼人族がいる。


 ――ポイントの稼ぎ方次第で、生きるか死ぬかが決まる。


〈毎日17時。村人の信仰度に応じてポイントが付与されます。

 信仰度は【低い】【中】【高い】【超絶】の四段階。付与ポイントは【低い】1、【中】2、【高い】3、【超絶】5となります〉


 ……村作り、だよな?

 なぜそこで信仰が出てくる。


 頭の中で、その言葉が何度も反芻される。

 ――信仰度。

 誰が、何を、信じるというのか。


 村長である俺か?

 それとも、この【村作り】という得体の知れない力か。

 あるいは――女神、だろうか。


「……なあ。そもそも、何を信仰するんだ?」


 疑問をそのまま口にした。

 この世界に来てから、曖昧なことばかりだ。せめて根幹だけは知っておきたい。


 しかし、返ってきた答えは予想外だった。


〈……それよりも、先に水を確保すべきではありませんか?〉


 ……ん?


 一瞬、思考が止まる。


 ……今、さらっと話を逸らされなかったか?


 問い詰めようとした、その時。視界の端に、ふらりとよろめく鬼人族の老婆が映った。誰かが慌てて支えているが、その手も震えている。


 乾いた大地。焼けつく空気。

 そして、喉の渇きに耐えきれない人々。


「……」


 舌打ちしたい気分をぐっと飲み込む。


 確かに、今は信仰がどうとか言っている場合じゃない。

 理屈よりも、まず人命だ。


「……わかったよ。水だな」


 少しだけ、負けた気分だった。

 だが、今はそれでいい。


 鬼人族の人々に、一刻も早く水を飲ませてやりたい。それができるなら、信仰だのポイントだのは後回しで構わない。


 そう自分に言い聞かせ、俺は次の選択肢へと意識を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ