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第1章 獅童正道は巨大財閥の御曹司である。

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第9話 悪目立ちする2人

「桃花」

「なに?」

「俺たちちょっと悪目立ちしてる」


 俺が周囲に視線を向けながら少し声を潜めて言うと、桃花はハッとしたように肩をピクリとはねさせた。

 続けて周りをババッと見ると、その顔がみるみると赤くなる。


「ご、ごめんなさい。つい気が()いちゃって」

「別に謝ることでもないけどさ。でも、あんまり人前でする話でもないだろ?」


 俺がさらに声を潜めて言うと、


「まぁ、うん。それは、そう……だよね」


 俺に諭されて、桃花も声のトーンを大きく下げた。

 冷静に話を進める俺に釣られるように、幾分か冷静さを取り戻したようだ。


 OK、それでいい。

 家の借金の話をみんなの見ている前でして――せっかく借金がなくなったのに――変な噂でも立てられたら桃花が可哀そうだ。


「今日はこの後、普通に授業だろ? 放課後にでもゆっくり話そうぜ」

「放課後って……こんな大事な話、そんなに待てないもん」


「言っとくが俺は学校はサボらないからな。中学に続けて高校でも皆勤賞を狙っているんだ」

「皆勤賞って、まだ高1の初めだよ?」


「俺は小学校3年生の冬にインフルエンザにかかって休んで以来、風邪をひいたことがないのが密かな自慢なんだ」


 これは割とマジで。


「わ、わかったわよ。じゃあ放課後に話をしましょ? 全部聞かせてもらうんだからね? 約束だからね?」

「了解。放課後に話すよ。でも別に大した話でもないんだぞ?」


「これが大した話じゃないなら、世の中のほとんど全てのことは、大した話じゃなくなりますぅ~!」


「大山鳴動して(ねずみ)一匹、ってな」

「タイザン……? なにそれ?」


 割と有名なことわざを言ったものの、桃花は右手の人差し指をピンと伸ばして口元に当てながら、不思議そうに小首をかしげた。


「……よくうちの高校に受かったな?」


 おっと、つい思わず失礼なことを言ってしまったじゃないか。


 だが俺たちの高校は東大・京大に何十人も送り込むような超進学校ではないものの、毎年ちらほら東大・京大の合格者が出ているし、中学でもかなり上位でないと入れない高校だぞ?


 しかし桃花は俺の失言には気付かなかったのか、俺の言った言葉について考え込んでいた。


「多分、ことわざだと思うんだけど。うーん。昔からことわざとか古文は苦手なんだよね。あ、理数系も苦手なんだけど」


「それじゃあほとんど全部の教科が苦手じゃないか……」


「そうともゆう? それで、さっきのはどんな意味なの?」


「大きな山が今にも噴火しそうだったのに、実際には鼠が一匹逃げてきただけって意味だよ」


「あ、タイザンは『大きな山』の音読みってことなんだね。なるほどなるほど~。物知りだね正道くんは」


「俺は平凡だよ」


「平凡……って。あ、正道くんって絶対に、テスト勉強してないって言って裏でやりまくってるタイプでしょ? わかっちゃったかも?」


「そういう奴いるよな。俺は違うけどな」


「ふうん。じゃあ行こっか」


 桃花はわりとどうでも良さそうに答えると、笑顔でそう言った。


「行くってどこに?」

「そんなの教室に決まってるじゃない。入学して間もないのに皆勤賞を狙ってるんでしょ? ほら早く♪」


 桃花が俺の手を取って歩き出す。

 女の子特有の小さくて柔らかい手にドキリとしながら、俺も自然と歩き出した。


 すぐに隣に並ぶ。

 桃花はすぐに手を離すと思っていたら、下駄箱まで手を繋いだままだった。

 もちろん周りからは見られまくっている。


 俺と付き合ってるだのなんだの、変な噂を立てられて困るのは桃花だと思うんだが。

 そういうのあんまり気にしないタイプなんだろうか?


 でも週末に話した時とは打って変わって、とても機嫌がよさそうで安心したかな。

 それはきっと家の借金がなくなったから。


 うん、やっぱり女の子は笑っていた方がいい。

 それが身近なクラスメイトならなおさらだ。


 そんなことを思いながら、俺は桃花と一緒に自分の教室へと向かった。

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やっぱ主人公優しっ!
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