第73話 桃花を母の誕生日パーティにご招待
そんないつもの日常のある日。
高校からの帰り道に、俺は桃花に少し先の予定を尋ねた。
「桃花、再来週の土曜日って空いてるか?」
「えーっと、その頃ってもう夏休みだよね? 特に用事はなかったと思うけど」
右手の人差し指をピンと立てて口元に添えてのほほんと答える桃花に、俺は告げた。
「だったらその日、母さんの誕生日パーティがあるんだ。よかったら俺と一緒に出席してくれないか?」
「正道くんのお母さんのお誕生日会に? わたしが? 出席していいの?」
「実は今回の一件を知った母さんから、桃花とぜひ会ってみたいって言われててさ。ちょうどいい機会だから紹介しようと思うんだ」
ちなみに母さんは押しがとても強い(ただし父さん以外。父さんの前では別人ってほどにダダ甘になる)。
母さんの「ぜひ」は「なるはや」&「マスト」という意味に他ならないのだ。
「お、お義母さんにご紹介……!」
桃花が驚いたようにぴょこんと小さく跳ねた。
別に今から会うわけでもないのに、桃花はあせあせと髪を整え出す。
「どうだ? 無理にとは言わないが、美味しい物も食べれるぞ? 桃花はスイーツが好きだろ? ライオネル・グループお抱えの超一流パティシエが作ったスイーツは絶品だぞ? お土産も付く」
「会うのはむしろどんとこいなんだけどね?」
「おお、やる気だな。じゃあオーケーってことで」
「でもわたしパーティのマナーとか社交界のルールとか、全くわからないんだよね」
あはは、と桃花が苦笑する。
「高校生だし、そもそも身内のパーティだから気を張る必要はないさ。ただのお誕生日会なんだから」
母さんの誕生日を祝う会。
ただそれだけだ。
「そう言われたら……気は楽かも?」
「だろ?」
「え、でも待って? ライオネル・グループの身内ってことは、社長とかそういう人ばっかりじゃないの?」
「まぁそうだな。場所もちょっといいところだ」
グループ会社の社長だったり、教科書に載るような著名な学者だったりと、まぁそんな感じではある。
「ぜんぜん大丈夫じゃないじゃん!? やっぱり無理~!」
「本当に大丈夫だから。俺は嘘は言わない、信じてくれ」
とはいえあくまで内輪の会なのは間違いなく、マナーやらなんやらが過剰に要求される場所ではないことは断言できる。
普通にすれば問題はない。
不安がる桃花を安心させるべく、俺が柔らかな笑みで見つめると、桃花は恥ずかしそうにはにかみながら、
「じゃあ、うん」
こくんと頷いた。
「OK。桃花は参加な」
「あ、だったらドレス用意しないとだよね? そういうのってどこで買えるのかな?」
「その辺も俺に任せてくれ。ドレスもメイクアーティストやスタイリストも、全て俺が手配するから。桃花は何もしなくて大丈夫だよ」
「それはそれで申し訳ないような……」
相変わらずの遠慮しいな桃花である。
「実は俺も母さんに女の子を紹介するのは初めてなんだ。だから桃花の魅力を最大限に引き出して紹介したいんだよ」
「わ、初めてなんだ……?」
「ああ。母さんにいいカッコしたいっていうか、どうせなら最高の桃花を見てもらいたいんだ。これはあくまで俺の願望だから、桃花が申し訳なく思う必要はないんだぞ?」
「正道くんの言いたいことはよくわかったけど。うう、話を聞くだけで緊張してきちゃうよぉ……」
「俺が最初から最後までエスコートするし、困ったらすぐに助け船を出すから」
「えへへ、本当に頼りになるよね正道くんは」
そんな話をしながら、そろそろ俺んちのタワマンへと着くって時に、突如、俺たちのすぐ横に車が止まった。
黒塗りのロングサイズの高級リムジン。
ロールスロイスのハイエンド特注仕様だ。
この辺りはエリアトップクラスの高級住宅街とはいえ、さすがにロールスロイスは走っていない。
完全に周囲から浮いている。
VIPが乗っているのは明白で、チラリと周囲を確認すると少し離れたところに護衛と思しきごついバイクが数台ずつ、チームを組んで待機しているのが見えた。
そして運転手がドアを開ける前に勢いよく後部座席のドアが開くと、そこから一人の少女が飛び出してきた!
見覚えのある少女が、俺の胸に向かって飛び込んでくる。
俺が優しく受けとめると、少女は俺にひしっと抱き着きながら、嬉しそうに俺の顔を見上げてきた。
「正道様、ご無沙汰しておりますの!」
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