第72話「正道くんは本当にすごいなぁ……一緒の大学、行けるかなぁ」
「桃花は指定校推薦はあんまり興味ない感じか? 一発勝負の本試験をパスできるから、一般受験よりも楽だって話だぞ?」
もちろん指定校推薦もそれはそれで苦労もあるだろうが、一発勝負の緊張感ほどではないだろう。
「そもそも受験って2年以上も先でしょ? そんな先のことを、わざわざ考えたりはしないかなぁ。もう別世界の話って感じしない? だって2年後だよ2年後」
「ははっ、だよな」
限りなく今を生きる女子高生にとって、2年後は異世界ファンタジーらしい。
なるほどOK。
わかったつもりになっていたが、俺はまだまだ女子高生への理解が浅いようだ。
ま、そうはいっても桃花は真面目にやり遂げるタイプだし、このまま地道な勉強を続けていけば自然と推薦枠にも手が届くだろう。
その時に桃花がきちんとチャンスを掴めるように、俺は桃花の勉強をこれからも見てあげるとしよう。
「あ、でも、できれば――」
「ん?」
何か言いかけた桃花だったが、
「ううん、なんでもないよ! そんなことより、正道くんはテストどうだったの? なんか全教科満点とか男子が盛り上がってたけど」
慌てたように顔の前で両手をブンブンと振って、話を変えてきた。
何を言おうとしたのか気にはなるが、まぁことさらに追及するほどのことでもないだろう。
「言葉の通り全教科満点だが?」
俺は自分の鞄から回答用紙を取り出すと桃花に見せた。
そこには全て「100」という数字が記されている。
「わっ、ほんとだし。これ普通にすごくない? っていうか中間テストの時も全教科満点とか言ってたよね? ちょっと引いちゃうんだけど」
「まぁそれなりにすごいかな」
以前までの俺なら、きっと修二と比べてしまっていただろう。
修二と比べて劣っていると心の中で比較してしまっていたに違いない。
だけど今は違う。
俺は桃花の言葉を素直に受け止めることができていた。
「全教科満点はそれなりじゃないですぅ~。数Aの最後の問題とか、すごく難しかったよね? 先生も、実際の大学入試の問題だーって言ってたし」
「言ってたな」
「解けたのは1人だけとも言ってたよね?」
「言ってたな」
「つまり解けたのは正道くんだけだよね?」
「全教科満点だし必然的にそうなるよな」
「正道くんは本当にすごいなぁ……一緒の大学、行けるかなぁ」
「ごめん、なんだって?」
最後がささやき声のように小さかったのもあって、俺は桃花の言葉を途中から上手く聞き取ることができなかった。
「え? ううん! 正道くんはすごいなぁって、言っただけだし?」
「や、その後に何か言っただろ?」
「べ、別に? 言ってないよ?」
「そうか? 一生とか衣装とかなんかそんな感じの言葉が聞こえたんだが」
「い、言ってないですぅ~!」
「そうか」
そこまで強く言うんなら、まぁそうなんだろう。
何か聞かれたくなかった心の声がぽつりと漏れたのかもしれない。
これ以上の不要な追及はやめておこう。
「で、でも……?」
「どうした?」
「ま、正道くんがどうしても聞きたいって言うなら、言ってもいいけど……?」
「俺は秘密にしたいことを無理に聞き出したりはしないよ。気にするな」
俺が笑みを浮かべて右親指をグッと立てると、
「う、うん……ありがと……」
桃花は曖昧な笑みを浮かべながら、小さくこくんとうなずいた。
とまぁ、こうして。
俺の日常は桃花というプラスアルファを加えたままで変わらず続いている。
いつか「次」へとステップアップする時が来るその日まで。
もうしばらくの間は、この関係を楽しむとしよう。




