第71話 戻ってきた日常
こうして俺はダーダネルス電機による特許強奪の一件を退けた。
するとどうなるか?
なんのことはない、俺にもまた普通の高校生活が戻ってきた。
朝起きて、学校に行って授業を受ける。
生徒会から手伝いを頼まれたり、部活のヘルプをしたり、友だちと遊んだり。
一高校生に戻った俺は、一度きりの高校生活を満喫していた。
もちろん、桃花との関係も続いている。
◇
放課後。
俺んち(タワマン)にて。
日々の精力的な片づけのおかげですっかり綺麗になり、もはや特にすることもなくなった桃花が、嬉しそうに次々と鞄から用紙を取り出して見せてきた。
今日返却されたばかりの期末テストの答案用紙だ。
「見てみて! じゃじゃーん!」
そこには90点を超える点数がズラリと並んでいる。
数学、化学といった桃花が苦手としていた理数系科目も軒並み高得点をマークしていた。
「文句なしにいい点数だな。おめでとう。中間テストと比べて格段に進歩してる。まさに日々の努力の賜だ。よくやった、えらいぞ」
俺は桃花の頑張りを手放しに誉めたたえた。
「えへへ~、それもこれも正道くんがつきっきりで教えてくれたおかげだよ~」
「最終的には本人の努力だよ。この結果は桃花の頑張り100%だ。謙遜する必要はないと思うぞ?」
「もぅ、これだけいい方に変わったんだから、家庭教師してくれた正道くんのおかげだってばぁ」
「それがないとは言わないけどな」
「でしょでしょ?」
「でもほら、マラソンをする時に、沿道の歓声は後押しする力にはなるよな? でも結局、最後まで走りぬくのは自分だ。やりぬいた本人が一番偉いんだ。これ、俺の持論な」
「わお! ちょっと納得しちゃったかも! 前から思ってたんだけど、正道くんってたとえ話が上手だよね」
「そうか? たとえ話なんて誰でもできるだろ?」
「それがさー? わたしも友達に時々たとえ話をするんだけど。『桃花のたとえ話って、余計に分かりにくくなったかもー』って言われちゃうんだよね」
ピンと伸ばした人差し指を口元に当てながら、桃花が困ったように笑う。
「たしかに下手なたとえ話は、聞いてて微妙に思う時はあるよな」
「ねーねー正道くん、いい感じに例えるコツとかあったら、教えて欲しいなー?」
上目づかいの桃花がおねだりするように言ってきた。
「いい感じに例えるコツか。あまり考えたことはなかったんだが……そうだな、相手に理解してもらうためのたとえ話だから、そもそも理解しやすい例えにすることかな」
「ふんふん」
「つまり誰でも直感的にわかりやすい一般的で身近な例で例えるんだ。今回なら長距離を走るのはしんどいって基本理解が桃花にもあるから、スッと入ってきたんじゃないか?」
「直感的にわかる身近な例、ね。なるほどだねー。っていうか、正道くんって言語化も上手だよね。今も、宿題を見てくれる時も、いつもすっごくわかりやすいもん。やるぅ♪」
「ははっ、ありがと。それで話をテストに戻すんだけど、これなら総合20位以内も狙えるんじゃないか?」
「まぁ、狙えるのかも……?」
俺の問いかけに桃花が怪訝そうに小首をかしげた。
それがどうしたのって顔をしている。
「なんだ、嬉しくないのか? 意外と謙虚なんだな?」
「そりゃあ、成績がよくなったのは嬉しいよ? 中間テストよりも大きく成績があがったし。でも20位ってなんか微妙じゃない? 10位とかならわかるんだけど。なんで20位なの? 意図はなんなの?」
「20位以内をキープできたら指定校推薦でいいところがもらえるはずだ。さらに上位だと早慶あたりも狙える」
進学校だけあって、うちの学校は人気大学の指定校推薦枠をいくつも持っている。
その枠を狙うには3年生になってからでは遅い、1年生からの準備が大切だ。
「へー、そうなんだ?」
だけど桃花はさっぱり興味がなさそうだった。




