第68話「自分から仕掛けたケンカだ。やり返されたからってどうこう言える立場じゃないと思うけどな? お門違いってやつだ」
「く、クラスメイトだと?」
「ええ。たまたま桃花とクラスメイトで、偶然、桃花と深い話をする仲になって、この工場の持つ特許のことを知って、ライオネル・グループ総帥である父に美味しい話があると話を付けました」
たまたま、偶然。
そんな言葉を敢えて入れる。
なぜかって?
もちろん黒田を煽るためだ。
言っただろ、個人的にムカついてるって。
「たまたまだと? 偶然だと? なんだそれは! 冗談は休み休み言えよっ!」
「やだなぁ。俺は他人の人生を左右するようなことで、軽々しく冗談は言いませんよ」
おっと、なんかこのセリフ、ちょっと前にも言ったよな?
最初に桃花を助けた後、5000万円を立て替えたことをファミレスで桃花に告げた時だったっけか。
ま、あの時とはぜんぜん受け取る側の意味が違っているわけだが。
「じゃあなんだ! お、俺はっ! 俺はそんなものに人生を狂わされるっていうのかよ! たまたま偶然居合わせただけのライオネル・グループの跡取りのガキに、俺が必死に積み上げてきたものが崩されるなんて――!」
「いやー、偶然って怖いですね。俺もこの先、足元をすくわれないように気を付けないと」
俺が小さく笑うと、黒田の怒りがヒートアップした。
「何をへらへら笑ってやがる! 俺はな! この大手柄を手土産に、将来ダーダネルス電機の社長になるはずだったんだぞ! 東証プライム上場、天下のダーダネルス電機の社長に上り詰める俺の計画が、こんなことで――っ」
黒田の声は震えていた。
それは怒りなのか、絶望なのか、はたまたその両方なのか。
ま、どっちだろうが俺には関係ないがな。
「言わせてもらうが、この町工場だって、桃花のお父さんだって、積み上げてきたものがあるんだ。それを潰そうとしたのはあんたが先だろ?」
「うぐ――」
「自分から仕掛けたケンカだ。やり返されたからってどうこう言える立場じゃないと思うけどな? お門違いってやつだ」
「――っ」
黒田は俺の立て続けの正論に反論できず、悔しそうに唇を噛んだ。
「というか冷静に考えたら、別にやり返してるわけでもないんだよな。こっちからしてみれば降りかかってきた火の粉を払っただけだし。まったく、いい年して逆恨みはやめてくださいよ黒田さん。ダサいことすると、せっかくのロレックス・コスモグラフデイトナ最新モデルが泣きますよ?」
「ぐっ、ぐぅ……」
最後にぐうの音も出ないほどの正論パンチを放つと、黒田は完全に沈黙してしまった。
さらにこの前は自慢げに見せつけてきた高級腕時計を、恥ずかしそうに袖の下に隠す。
「これまでもこうやって他人を蹴落としてのし上がってきたんだろうが、今回ばかりはケンカを売った相手が悪かったな。ま、これに懲りたら、今後は心を入れ替えてまっとうな営業に励むことだ」
黒田は悔しそうに俺をにらみ、歯を噛みしめ――しかし最早なす術はないと悟ったのだろう、
「きょ、今日のところは失礼いたします……で、では……」
最後に震える声でなんとかつぶやくと、よたよたとした情けない足取りで退散していったのだった。
車が離れていく音が聞こえる。
そのエンジン音までもが力なく聞こえたのは、俺の気のせいではなかっただろう。
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