第67話 俺は獅童正道。ライオネル・グループの御曹司だ。
「や、黒田さん、どうも」
「ちっ、お前はあの時もいた高校生かよ。なんだ、まだうろちょろしていたのか。目障りだと言っただろうに」
今の今までは必死過ぎて、俺のことなんて目に入っていなかったのだろう。
黒田はバツの悪そうな顔をしながら、スーツの襟元をクイクイとただした。
それで少しだけ冷静になれでもしたのか、黒田は以前と同じく俺を見下すような視線を向けてくる。
だが瞬きは多いし、手を小さく握ったり開いたりしていたり、体重を右足にかけたり左足にかけたりと、動作のいたるところが忙しない。
動揺が隠しきれていないぞ?
必死に冷静を装う黒田を、完全に見透かしながら俺は言った。
「まぁまぁ、居るくらいはいいじゃないですか。そんなことより、以前に俺の顔に見覚えがあるって言ってましたよね? 多分それ、正解ですよ」
「はぁ? なんだ急に。今はそんな話をする気分じゃないんだ。何が言いたい?」
露骨に苛立ちを見せる黒田。
やれやれ、高校生相手だろ?
そういうのを器が小さいって言うんだぜ?
小物臭を漂わせる黒田の内心を見透かしながら、俺は淡々と話を進めていく。
「だからそれこそが、今回の一件の全ての答えだって言ってるんですよ」
「……なんだと?」
俺の言葉の意味がまだ理解できないのだろう、黒田は怪訝そうな視線を向けてきた。
「俺のことまだわかりませんか? エリート営業マンは顔を覚えるのが仕事だってよく聞くんですが、意外とそうでもないのかな? ま、俺自身は別に有名でもなんでもないんで、仕方ないと言えば仕方ないんでしょうけど」
「……さっきからのその言いよう。うっすらと見覚えのある風貌……お前、いったい何者だ? どこで会った?」
ここに来て黒田が初めて俺に警戒するような視線を向けた。
だが今さらもう遅い。
もし初めて会った時に気付いていれば、もしかしたら結果は違っていたかもしれないのにな。
さぁ舞台は整った。
俺は満を持して名乗りを上げた。
「自己紹介をするのは初めましてですよね、黒田さん。獅童正道です。以後お見知りおきを」
「は? 獅童正道だと? 何がお見知りおきだ、高校生風情が生意気を言ってんじゃねぇ。…………なっ!? し、獅童だと? し、獅童!?」
途中まで居丈高だった黒田が、ハッとしたように大きく目を見開いた。
口が情けなくパクパクと閉じたり開いたりしている。
「はい、獅童です。多分ですけど、パーティか何かで俺の顔を見たことがあったんじゃないですか? 少し前までは父に連れられよく政官財のいろんなパーティに参加していましたから。それにたしかうちの新年会には、毎年ダーダネルス電機も呼ばれていましたよね?」
「ま、まさか――! お前まさか――!!」
「そのまさかさ。いわゆるライオネル・グループの御曹司って言えば、一番わかりやすいかな?」
「ら、ライオネル・グループの御曹司だと!? う、嘘だっ! ありえん!」
黒田の言動からは極度の困惑と狼狽が伝わってきていた。
俺を見る目が明らかに変わったのを感じる。
「本当ですよ。それは今回の結果を見れば一目瞭然だと思いますけど?」
俺の言葉で、黒田の中で全てが繋がったのだろう。
黒田の目が、表情が、驚愕から絶望へと変わっていく。
へー、人ってこんなに分かりやすく顔色が変わるものなんだな、俺も気を付けないと。
あと、これが普通の反応だよな。
やっぱりライオネル・グループ総帥の息子であることは、明かさないようにしないとだ。
「ば、バカな! そんな馬鹿なことがあってたまるか! だいたいどうしてこんなところにライオネル・グループの御曹司がいやがるんだ! 何がどうなってこうなったんだよ! おかしいだろうが!」
「あれ、前に言いませんでしたっけ? 俺は桃花の高校のクラスメイトなんですよ。忘れちゃいました?」
盛大に取り乱し感情的に声を荒げる黒田とは対照的に、俺は理路整然と答えを返していく。
さぁ盛りあがってまいりました!
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