第66話 ぐぅの音も出ない黒田(ざまぁ)
「は、はて? な、なんのことでしょう……?」
「隠さなくても大丈夫です。全てわかっておりますよ」
「……」
その言葉に、黒田が押し黙った。
「そもそもの話ですが、もし黒田さんが不当な圧力などかけず、全てを包み隠さず話して特許が欲しいと言ってくれたのなら。公正に特許を使うと約束してくれたのなら。私はそんな大金を積まれなくとも、特許を譲っていましたよ」
「な――!?」
黒田の顔が驚愕に見開かれた。
だがこれには俺もちょっとビックリしている。
だって100億の利益を生み出すような特許だぞ?
「だってそうでしょう? 私が持っていても仕方のないものを、国のため世界のために有効利用してくれる。かつて研究の道にいた人間として、これほど嬉しいことはありません。もちろんこれまでの特許維持費用などの諸経費はいただくでしょうが」
「……な、なにをバカを言っている……アレにどれほどの価値があるかも知らないくせに……」
お、黒田が一発でゲロったぞ。
前も思ったが、桃花のお父さんは経営者もやってるだけあって会話上手だよな。
のらりくらりやりながら、ここぞでドンと核心に踏み込んでくる。
まぁ黒田(というかダーダネルス電機)の本心なんて既にわかってはいるので、今さらではあるのだが、これで言質も得た。
ダーダネルス電機の目的が例の特許だったことが、完全に確定した。
後で父さんに報告しておこう。
「知っていますよ。あの特許は、フェライト磁石を使った同期リラクタンスモーターの磁力制御に流用可能なのでしょう? いわゆるレアアース代替技術です」
「――っ! で、ではあなたは価値を知ってもなお、みすみす譲ったと言うのですか? 冗談は休み休み言ってもらいたいものだっ!」
「いいえ、逆です」
「逆ですって?」
桃花パパの言葉に、黒田が今日一番ってくらいに困惑の表情を見せた。
「価値があるものだからこそ世の中の役に立ててほしい。それが研究者の本懐なのです。研究者でないあなたには、その気持ちは到底わかりえないのかもしれませんが」
「な――」
「だけどあなたはそうはしなかった。強引に、真実を話すこともなく、何度も不当な圧力をかけて特許を掠め取ろうとした。自らの利益のためだけに。そして私だけでなく従業員や家族も辛い目にあわせようとした。私はそれが何よりも許せない」
「むぐ――っ」
大きく目を見開きながら、ギリギリと歯を噛みしめる黒田。
「ゆえにダーダネルス電機は信頼するに足りないと考え、ライオネル・グループと提携することにしたというわけです。お話は以上です。どうぞお引き取りください」
「お、お引き取りなどできるものか……! この件は副社長の肝いりだったんだぞ!」
「はぁ、そうですか」
「特許を手に入れると豪語していたのに! ライバル企業に横取りされたと知れたら、俺は副社長のメンツを潰したダメ社員の烙印を押され、将来の社長どころか出世レースから完全に外れてしまう――」
「取らぬ狸のなんとやらですな。ご愁傷様です」
桃花のお父さんは取り付く島もない様子で淡々と答える。
これはこれまで黒田のやりくちに、本気で怒っているからだろう。
「くっ……! だがなぜライオネル・グループが手を出してきたんだ? この町工場の取引先は全て調べあげたが、グループ子会社との取引すらなかったはずだ。なのにいったいどうやって、この短期間で話を付けることができたんだ……!」
そこで桃花のお父さんが俺に視線を向けた。
つられるように黒田も俺の顔を見る。
話は以上だって言ってたし、さてと。
ここからは俺が最後の幕を下ろさせてもらうとするか。
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