第63話 正道と修二
◇
「兄さん、お疲れ様」
すると扉を開けたところで修二が待っていた。
すらりと背の高い細マッチョなイケメンは、壁にもたれかかっているだけでまるで絵画から抜け出してきたかのようだ。
「もしかしてずっと待っていたのか?」
俺よりも背の高い修二を、わずかに見上げながら問いかける。
「せっかく兄さんが帰ってきたんだから、待つくらいはするよ。それに頭の中で数学の問題集を解いていたから時間は気にならなかったし」
「本当に修二は天才だよなぁ」
双子であまりに違うスペックに俺は苦笑するしかなかった。
ちなみにさらっと言っているが、問題集ってのはおそらく東大の過去問とかそういうレベルだ。
(修二は中高一貫の超難関進学校に通っており、既に高校の学習範囲は
全て履修済みと聞いている)
「その調子だとプレゼンは上手くいったみたいだね」
「なんだ、今日俺が何しに来たのか知ってたのか」
「兄さんが父さんに話があるって鹿島さんから聞いて、父さんにしつこく尋ねたら教えてくれんだ。兄さんが作った資料も見せてもらったよ」
「かなり極秘の資料のはずなんだけどな。父さんは修二に甘いよなぁ」
「僕は普段の行いがいいからね。たまに甘えると父さんも強くは断れないのさ。でもすごいじゃない兄さん。これってライオネル・グループにとっても大手柄なわけでしょ? まだ高校生なのに、やっぱり兄さんはすごいや」
嘘偽りもおべっかもお世辞もよいしょも何もない、混じりっ気のない尊敬の眼差しが俺へと向けられる。
かつての俺はこのピュアな眼差しに、じわじわと心をむしばまれていた。
全てにおいて圧倒的に格上の弟に、ただ数分早く生まれたというだけで慕われることに、言いようのないおさまりの悪さと、時には息苦しさを感じていた。
だけど今は少し違う。
俺は何年かぶりに、自分の心を偽らずにまっすぐに修二の顔を見ることができていた。
心が軽い。
その心境の変化は、実際に結果を出したからかもしれないし、父さんに認められたからかもしれない。
そんな俺の脳裏にはとある女の子の顔が浮かんでいた。
今さら言うまでもない、桃花の顔だ。
実を言うと、父さんにプレゼンした時も俺の心の片隅にはずっと桃花がいた。
桃花のために頑張るんだって思いが、少なからず存在していた。
心の中の桃花が俺の背中を後押ししてくれていた。
そもそもの話、煮詰まっていた俺に桃花が声をかけてくれたからこそ、この解決はあったのだ。
俺一人の力じゃ絶対に無理だった。
桃花がいてくれたからこそ、俺は最良の結果を出すことができたのだ。
無邪気に笑う桃花。
ほっぺをぷくーと膨らませて怒った振りをする桃花。
理数系の宿題を前に悲しそうな顔で机に突っ伏す桃花。
いろんな桃花の顔が次々と思い起こされる。
もういい加減、金を貸した側だのなんだの心の中であれこれ言い訳するのも辛くなってきたんだよなぁ。
そうだ。
俺は桃花が好きだ。
これだけずっと一緒にいて、好意を向けられてきたんだ。
そろそろ俺も自分の心に正直になってもいいのかもしれない――などと桃花のことを考えてしまっていると、
「どうしたの兄さん、急に黙っちゃって?」
修二が怪訝な様子で尋ねてきた。
「ああいや、なんでもないぞ……そろそろお腹がすいたなと思ってさ」
双子の弟に、好きな女の子のことを考えていたとは言いづらく、俺は適当に誤魔化して答える。
「じゃあ久しぶりに一緒にお昼を食べようよ」
「そうするか」
悩むでもなく、俺の口は自然とそう動く。
でも桃花が待ちわびているだろうから、いったんラインで成功の連絡だけはしておこう。
「でも、兄さんらしいね」
修二がくっくっと面白そうに笑う。
「おい修二、どういう意味だそりゃ? 俺の食い意地が張っているってことか?」
「うん、だって兄さんは昔から大食いでしょ? 僕の2倍くらいの量をペロッと食べちゃうし」
「……否定はしない」
「でしょ?」
「というかむしろ修二が食べなさすぎなんだよ。運動部なんだからもっと食べろよな」
「だから僕の方が適正な食事量なんだってば」
「いいや、成長期の男子はたくさん食べるべきだ」
「過ぎたるはなお及ばざるがごとし、だよ?」
「大は小を兼ねるってな」
双子の弟の修二とじゃれ合いながら、俺は大きな屋敷の廊下を歩く。
長年ずっと感じていた息苦しさを、今の俺はほとんど感じていなかった――
いつもお読みいただきありがとうございます
「第5章 ダーダネルス電機の陰謀」これにて終了です!
後は黒田をざまぁ!&桃花との恋というメインデッシュを残すのみ。
今から最高に気持ちいい瞬間なので、どうぞ最後までお見逃しなく!
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