第61話 プレゼン(2)
「俺は別に大したことはしていません。たまたまクラスメイトの実家が困窮しているのを知って、手助けしているうちに偶然見つけました。それ以上でもそれ以下でもありません」
本当にそれだけ。
俺が凄いわけでも何でもなく、たまたまと偶然の産物だ。
しかも俺一人じゃとても解決できず、桃花の何気ない一言があって初めてこの結論へとたどり着くことができたのだ。
そもそも助けた相手が桃花でなければ、俺はこの一件を知ることすらなく変わらぬ高校生活を過ごしていただろう。
そう考えると、いろんな意味で桃花には感謝しかないな。
「それだけ、か。なるほど、いかにも正道らしいな」
「それは誉めてくれて――いるんですよね?」
偶然が俺らしいとは、どういう意味なのか。
偶然でもない限り俺に大きなチャンスは得られないと、そういう意味なのだろうか?
だが父さんはそういう無意味な皮肉を言って、悦に浸るような人間では決してなかった。
「もちろんだとも。正道、昔からお前の周りには自然と人が集まってくる。それはお前が人と関わり合う才能を持っているからだ」
「人付き合いは得意な方だと思いますが……」
それを才能とまで言うのはどうだろうか?
「修二もそうだ。修二はお前にたいそう懐いているだろう?」
「それは……だって俺たちは兄弟ですから。俺は兄で、修二は弟です。立場が逆なら関係も変わっていたはずです」
「いいや、立場が逆でも変わらんさ」
「そう……でしょうか?」
「ああ、断言しよう」
「は、はい」
思いのほかはっきりと言われてしまい、俺は内心ビックリしていた。
普段の父さんは、推測の域を出ないことをあまり強く断定調では言わない人だからだ。
だからこれは父さんの中である種、確信めいたものがあるに違いない。
父さんが言葉を続ける。
「正道、お前には人と関わり合う才能がある。これは人の心を掴んで離さない才能と言い変えてもいい。それは普段はほとんど見えることがないが、静かに築かれた関係性は知らず知らずのうちにとても強固な礎となり、時に大きなうねりとなって大局を動かす。今のようにな」
「さっきも言いましたが、今回のはたまたまの偶然ですよ」
「その偶然を引き寄せたのは他の誰でもない正道、お前だ。父さんでも修二でもなく、他の誰でもなく、お前がその手で引き寄せたのだ。ライオネル・グループに莫大な利益をもたらすその偶然をな。これはお前の作った最初の大きな実績としてこの先、評価されることになるだろう」
「それは確かにそうかもですけど……でも、人と関わり合う才能ですか」
「この説明では納得がいかないか?」
「あ、いえ、そういうわけでは……」
「それとも仮にそんなものがあるとして、なんでも完ぺきにこなす修二と比べたら、なんとも微妙な才能だとでも思ってしまったか?」
「それは……」
まるで心を読まれたかのようだった。
図星を指された俺は、返す言葉がなくて押し黙ってしまう。
言い淀んだ俺に、父さんは少し声のトーンを柔らかくして言った。
「まぁ、そう気張るな。ただの久しぶりの親子の会話だ」
「……はい」
「そうだな、これは父さんの持論なんだがな。人と関わり合う才能とは、周りの力を己の力へと変える才能なんだ。これは上に立つ者にとってこれ以上なく必要な才能といえる」
「上に立つ者の才能……?」
「そうだ。多くの経営者や指導者を見てきたからわかる。お前は修二にいろいろと思うところがあるみたいだが、これは修二にもないお前だけが持つキラ星のごとき才能なのだ。誇るべきものであり、そしてこれからさらに磨いていくべき類のものだ」
「別に俺は修二に思うところなんて――」
「出来の良すぎる弟のことで兄として思い悩んでいることが、実の父親にわからないとでも思っていたか?」
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