第60話 プレゼン(1)
そして父さんと会う日。
俺はプレゼン用の資料を手に、勝手知ったる実家へと乗り込んだ。
父さんの待つ応接間へと向かう。
応接間のドアをノックすると、すぐに返事があった。
「どうぞお入りください」
父さんではなく、父さんが懐刀と絶大な信頼を置く筆頭秘書の声だ。
ドアを開けると、広々とした応接間の正面に父さんが座っていた。
こうして俺は数か月ぶりに自分の父親と対面した。
「父さん、お久しぶりです。正道です」
「久しぶりだな正道、元気そうでなによりだ」
すらりと背が高く、年を重ねて渋みを増したイケオジは、まさにライオネル・グループの総帥にふさわしい力強さに満ち溢れている。
「今日はお時間を取っていただきありがとうございました」
「ははっ、実の父親に対してえらく他人行儀じゃないか」
「けじめです。今日は親子の会話ではなく、プレゼンをしに来ましたので」
「そうか。ならばさっそく聞かせてもらおうか」
父さんに促された俺は大きく一度、深呼吸をするとプレゼンを始めた。
プレゼンの主軸は、この特許がいかに価値があるかということの説明と、その利用価値についてだ。
「資料は事前にお渡ししていたかと思いますが、この特許はいわゆるレアアース代替技術に関するもので――」
そもそもこの特許がどんなものであるか。
この特許の利用価値がそれほどの規模なのか。
これがあればレアアース代替技術市場で、大きな優位性を得られるであろうこと。
この特許を手に入れるためにダーダネルス電機が裏で暗躍していること。
他にも特許権訴訟による製品差し止めや不当なライセンス料の支払いを防げることなどなど、少なく見積もっても100億円前後の価値は見込めるだろうということ。
そういったことを、俺は端的にポイントを押さえながら説明していった。
「ですがここで問題があります。一介の町工場では、この特許を有効活用することができないということです」
だからこの特許をライオネル・グループに適正価格で買い上げてもらいたいこと。
加えて今後はライオネル・グループの取引先を紹介してほしいこと。
俺は事前に準備してきたプレゼンを丁寧にしっかりと、時に抑揚を付けて最後まで話しきった。
ちなみに参考にしたのは弟の修二が、中3のスピーチ大会で全国優勝した時のスピーチだ。
最高の手本が目の前にい続けたことは、こういう時には役に立ってくれる。
「――以上となります。なにか質問はありますか?」
「大枠はわかった。事前に資料も貰っていたしな。まずは結論を言おう、この特許には大きな価値がある。法務部と技術部には既に確認済みだ。金額は正式な査定をしてからになるが、この特許に相応の価格で買い上げよう」
「本当ですか!」
それは正式な査定はまだとはいえ、100億規模の価値があるものとして特許を買い上げてくれるという意味だ。
町工場を買収するはした金とはわけが違う。
「この特許はライオネル・グループに大きな利益をもたらすだろう。特許をライオネル・グループが持ったとなれば、この町工場が余計なちょっかいを出されることも今後はないはずだ」
「もちろんそれも狙いの1つです」
MAGAクラスならいざ知らず、天下のライオネル・グループと面と向かってケンカしたい日本企業はそうはいない。
たとえ東証プライム上場のダーダネルス電機であっても、ライオネル・グループの前ではネコの前のネズミのごとし。
ライオネル・グループと関係があると知れば、桃花の実家の町工場に不当な圧力をかけることは二度とないだろう。
父さんから満額の回答を貰い、俺は内心でホッと一安心していた――のだが。
「ところで1つ、聞いておきたいことがある」
「なんでしょうか?」
父さんの視線が俺をまっすぐに射抜く。
いったい何を聞かれるのかと俺は少し身構えたのだが、
「どうやってこんなものを見つけてきた? しかも権利者から一任を受けているというではないか」
父さんがしたのは本筋とは特に関係ない、そんな些細な質問だった。




