第52話 暗中模索
とまぁ学校の宿題を瞬殺するのとは反対に。
その後どれだけ精査しても、何度読み込んでも。
ダーダネルス電機ほどの大企業がこの町工場を欲しがる理由を、俺は見つけることができなかった。
俺は敗北感を感じながら、隠しきれない疲労感からため息のように大きく息を吐いた。
と、そのタイミングで、
「はい、紅茶とお菓子だよー。少し休憩しよ?」
タイミングを見計らったかのように、桃花が差し入れを用意してくれた。
「サンキュー……ああ、美味しい。いい茶葉だな」
紅茶をすすると疲れが一気に抜けていくのを感じる。
気付かないうちにかなり根を詰めていたようだ。
「えへへ、実は工場の応接室にある来客用のちょっといい葉っぱを使っちゃったんだよね。あ、お父さんには内緒ね? ほんとに高いやつだから。それで何かわかった?」
機会があったら、紅茶の茶葉でも持ってくるか。
紅茶といえば母さんの得意分野、今度イチオシを送ってもらおう。
――などと頭の片隅でチラリと考えながら俺は現状を報告する。
「これと言って特筆すべき点はないんだよなぁ……」
ダーダネルス電機から嫌がらせを受けるまで、この町工場はしっかりと利益を出していて、経営は安定していた。
だが大儲けをしているとまでは言えなくて。
技術力も高く納期も早いが、かといってずば抜けて特殊な技術をもっているとまでは言い難い。
(俺は工作技術の面では素人なので、あくまで資料から読み取れる範囲でのイメージだが、そう的外れと言うわけではないはずだ)
結論を言おう。
優良企業だが他社への代替性があり、ナンバーワンでもオンリーワンでもない。
良くも悪くも普通の町工場。
それが俺のプレーンな見立てだった。
「そっかぁ。正道くんでもすぐには見つけられないんだね」
「大口叩いておいてこのざまでごめんな」
桃花を失望させてしまったかもしれない。
やはり凡人の自分には分の過ぎた大言壮語は良くないなと、改めて思う俺だ。
「そんなにすぐに見つかったら苦労しないってば。千里の道も一歩からってね」
そんな俺を桃花が優しく慰めてくれる。
「そう言ってもらえると気も楽になるよ。宿題でもなんでも地道に進めないとだよな」
「その意気その意気♪」
「進めないとな?」
「今日の分の宿題は、数学も英語もちゃんと全部やりました~!」
俺の軽口に、桃花がぷくー! とふくれっ面を見せて返す。
「偉いぞ桃花。お互い地道に頑張っていこうぜ」
「だねー♪」
だけどふくれっ面はただのアピールだったようで、俺が誉めると桃花はすぐにいつもの笑顔に戻った。
「さてと。一息ついたし、ここからは技術面も含めて、桃花のお父さんにも意見をもらってみるかな。専門技術については俺じゃわからないし」
「あ、お父さんってば、そういう話をしだすと止まらないから、ほどほどで切り上げちゃってね」
「そうなのか?」
「お父さんってば凝り性で、いったんスイッチが入っちゃうとネジ一個で1時間くらい平気で語っちゃう人だから。長さを0.01ミリ短くしたのがどうたらこうたらって」
「オーケー、了解。桃花のお父さんは職人肌なんだな」
俺は立ち上がると桃花のお父さんに話を聞きに行った。
町工場に技術的な優位性があるのかどうか。
なにかしらの特殊な技術を持っているのかどうか。
資料だけでは読み取れないことを俺は忖度なく尋ね、桃花のお父さんも隠すことなく全て話してくれた。
だが残念なことにこれといった有益な情報は得られず。
結局この日の調査は成果なしでお開きとなった。
◇
それからというもの、俺は桃花の実家の町工場に足しげく通って調査を続けたのだが――。
「だめだ、まったく何も出てこない。ダーダネルス電機はいったい何が目的で、この町工場を強引に傘下に収めようとしているんだ?」
ただただ時間が過ぎるのみで、俺は何も見つけることはできなかった。
まさか本当に桃花狙いなのか?
そんな有り得ないことをつい思ってしまう程に、俺は何のとっかかりも見つけられないでいた――




