第5話 正道くんと、桃花
「ふーん」
「なんだよ?」
「勉強もできて、運動もできて、誰もやりたがらないクラス委員長にも真っ先に立候補するクラスのリーダー的存在の獅童くんが、そんなこと言うんだなって。ちょっとビックリしちゃったかも?」
しまった。
つい余計なことを言ってしまった。
「別にそんなに深い意味はないさ。単に性格が暗いより明るい方がいいってだけ」
「うん、それはそう。同感かなー」
「ま、お互いに意外な一面を見れたわけだ。素の自分も出せちゃうし、これでただのクラスメイトは卒業だな」
誤魔化すように少し茶化して言うと、
「ふふっ。だね、正道くん」
花宮さんが俺のことを名字ではなく名前で呼んだ。
「なんだよ、急に名前で呼んできて」
ドキッとするだろ。
むやみやたらと可愛いんだから、そういう不意打ちはやめろよな?
でないと変な勘違い男子に粘着されるぞ?
「仲良くなれた気がしたからなんとなく? ほら、名字だと他人行儀だし? タダのクラスメイトじゃなくなったし? ご飯だって奢ってもらうんだし」
「まぁ、桃花がそれでいいなら」
俺は花宮さんを桃花と名前で呼んだ。
この流れで俺だけ苗字呼びを継続ってわけにもいかないからな。
「それでいいよー。っていうかわたしの名前、知ってたんだ? 同じクラスだけど、正道くんとはほとんど話したことなかったよね?」
花宮さん──桃花がわざとらしく尋ねてくる。
「それ、わかってて聞いてるだろ? 同じクラスで、『お嫁さん検定1位』なんて呼ばれる学園のアイドルの名前を知らないほど、俺は浮世離れしていないさ」
「えへへー♪ それはそうかも♪」
俺の答えを聞いて、桃花が楽しそうに笑った。
クラスメイトと他愛のない馬鹿話をして、少しは気持ちもほぐれてくれたかな?
その後、タブレット式のメニュー表を見ながら食事を注文する。
ほどなくして料理が運ばれてきた。
「注文した時にも思ったんだけど」
「なんだ? 欲しいものがあれば、一口ならあげるぞ?」
「違いますぅ! わたしはそんなにさもしくないですぅ! そうじゃなくて、ステーキセットにミラノ風ドリア、パスタ大盛りって。そんなにたくさん食べて大丈夫?」
テーブルの上に大量に並べられた食事を見て、怪訝な表情を見せる桃花。
「さっきまで友だちとカラオケしててさ。今日は特にお腹が空いてるんだ」
桃花を助けようとアドレナリンが出まくったのと、カラオケで熱唱してカロリーを使ったのもあって、明らかにいつもよりもお腹が減っている。
「わたし、どれだけお腹が減ってても、そんなにたくさんの量は食べられないかなぁ」
「そうでなくても育ち盛りの男子高校生だからな。エネルギーがいるんだよ」
「男の子ってってすごいんだね」
「むしろ俺からしたらハンバーグ定食だけの桃花の方が信じられないよ。寝る頃にはお腹ペコペコになってないか? それで足りる女子のがすごいよ。やっぱりステーキを少し分けようか?」
「本当に大丈夫だってばー。気持ちだけもらっておくから」
なんて和気あいあいと言いあいながら、俺たちは顔を見合わせると、小さく笑いあった。
「さてと、食べるか」
「うん、いただきます」
「いただきます」
俺と桃花は揃っていただきますをしてから、食事を始めた。
適当に学校での話なんかをしながら、まずは空きっ腹を満たしていく。
俺が注文した全てのメニューを余すところなく完食したのを見て、
「すごい。本当に全部、食べちゃった……」
桃花は目を丸くして驚いていた。
そして食後のデザートにケーキとホットティーを2人分頼むと、俺は本題に入った。
「それで桃花に何があったんだ? どうして橋の上で物思いにふけっていたんだ?」
真剣に。
だけど問い詰めるようなきつい言い方にならないように十分に配慮をしながら、俺は桃花の目を見て問いかけた。
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