第48話 工場視察
「今日はこの町工場に対して敵対的な行動を繰り返すダーダネルス電機について話を聞きに来ました。できれば工場の様子や、決算書などの資料を見せていただけませんか?」
「うん、いいよ~」
桃花が笑顔でうなずくが、もちろん聞いたのは桃花のお父さんにである。
「や、今のは桃花に聞いたんじゃなくてだな?」
「だよね、あはっ♪」
「もちろん企業秘密などは開示できないでしょうが、なぜダーダネルス電機がこれほどまでにこの町工場に固執するのかを、可能なら明らかにしたいんです。でなければ仮に今回の件が事なきを得ても、なた同じことが繰り返されるでしょうから」
「わかりました。では今から工場を案内しましょう。決算書や経営資料なども全て自由に見ていただいて構いません」
「いいんですか?」
「巨額の融資をした債権者には、現状の全てを知る権利があるでしょう?」
「それはたしかに、そうですね」
「ほら、お父さんもいいって言ってるし」
「はいはい、そうだな」
というわけで、俺は桃花の実家の町工場を調べ始めた。
といっても案内してもらった工場は良くも悪くも俺のイメージ通りだった。
20人ほどの従業員がいて、大きな機械を動かしていたり、金属加工や溶接、はんだ付けなどを行っている。
「これってなにか特殊なものを作ってるんですか?」
「うちは普通の下請けです。作っているのも、うちじゃなくても作れるものばかりで。もちろん精度には自信がありますけれど」
「お父さん、凄腕の職人なんだよ? 国から表彰されたこともあるんだから」
「国から表彰って、それはすごいですね」
「経産省の小さな賞ですよ。それが特段、大きな仕事に繋がっているわけでもないですし、そうたいしたものではありません」
「とか言って、額縁を入れて表彰状を飾ってるじゃん」
「桃花、そういうことは言わなくてもいいんだ」
「あははー。ほら見てみて正道くん、あそこにあるのがそうだよ」
桃花の指さした先には、しっかりとした作りの額縁に収められた表彰状が飾ってあった。
仲睦まじい親子に俺はほっこりしたものの。
「でも大手企業が固執する理由にはならないかなぁ」
これが正直な感想だ。
もちろん極め抜いた職人の技能は、時に最先端の軍事技術にも利用されたりするものだ。
たとえば日本の神業的なレンズ磨き職人の磨いたレンズが、アメリカ軍の軍事偵察衛星に搭載されていることは有名な話だろう。
だがここまで話を聞く限りでは、この工場の技術はそれなりにすごいが、しかしそこまでの神業というわけでもなさそうだった。
「同感です。ダーダネルス電機はいったい何が目的なのやら……」
桃花のお父さんも困ったような顔で小さくため息をついた。
さて軽く現場を見た感想では、ダーダネルス電機が手に入れたいのは、この町工場が生み出すものではないということになる。
あくまで仮説の域は出ないが、いったんはそういうことにしておいて他の検討に移ろう。
「じゃあ次は決算書をはじめとした営業資料を見せてもらえませんか?」
俺がそう言いかけたところで、そいつは突然やってきた。
「やぁやぁどうも花宮さん。しばらくぶりですね。今日も精が出ているみたいで何よりです。とはいえ明日は休みだし、こんな日は仕事なんてしていないでパーッと遊びに行きたくなりますよねぇ」
妙に癇に障る声に思わず振り向くと、そこには高そうなスーツ――腰や襟の形状からおそらくアルマーニだろう――をびしっと着込んだ20代後半くらいの男が、ニマニマと軽薄な笑みを浮かべながら俺たちへと視線を向けていた。
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