第46話 桃花パパとご対面(1)
それから数日後の金曜日。
ちょうど学校の創立記念日で、世間は平日なところが休みなのを利用して、俺は桃花の実家の町工場へと赴いた。
事前に地図で場所は確認してあったので、迷うことなくたどり着ける(ナビアプリを使わなくても、俺はほとんど迷ったことがない)。
すると到着の少し前にラインで連絡を入れたからだろう、
「正道くん、おはよう。それといらっしゃい♪」
玄関で桃花が俺を笑顔で出迎えてくれた。
桃花は軽やかなオフショルダーの白いブラウスに、ライトブルーのフレアスカート。
腰のベルトがワンポイントでアピールしていて、可愛らしい髪飾りで髪をまとめている。
オシャレとカジュアルの両立って感じでとてもよく似合っていた。
でも、まるでデートにでも行こうとしているかのようなおめかしっぷりだな?
や、どんな格好でもいいんだけどさ。
「おはよう桃花。可愛い服を着てるな。オシャレさんでよく似合ってるぞ」
俺は軽く手を挙げて挨拶を返しつつ、桃花のオシャレぶりを褒めた。
桃花は元がいいから、オシャレをすると「これぞ、ザ・美少女」になるなぁ。
「えへへー、ありがと、正道くん♪」
そんな嬉しそうに笑うおめかし桃花の隣には、仕事から抜けてきたのだろう、作業着姿の男性がいた。
真面目そうな顔立ちは、しかし優しそうな目元がどこか桃花と似ている。
この人は多分――、
「初めまして獅童くん。桃花の父の花宮幸助です」
俺の思った通り桃花のお父さんだった。
「初めまして、獅童正道と申します。桃花さんには公私ともにいつもお世話になっております」
俺はしっかりと目を見て挨拶をしてから、腰を折って深くお辞儀をする。
俺が顔を上げると桃花のお父さんはとても真剣な様子で言った。
「先だっては5千万円もの大金をご融資いただき、誠にありがとうございました。今の今までお礼を伝えることもせず、心苦しく思っておりました。ご融資については、一生かかっても必ず返済を致す所存です」
桃花のお父さんはそう言うと、俺がやったお辞儀よりもはるかに深く、丁寧に、腰をそれこそ直角まで折り曲げて深々とお辞儀をしてきた。
「どうか顔を上げてください。お礼も返済も必要ないと桃花――桃花さんに伝えたのは他でもない俺なんですから。心苦しく思われると、俺の方が心苦しくなっちゃいます。それに俺のことは桃花から聞いていますよね?」
俺の問いかけに、桃花のお父さんが申し訳なさそうな様子で顔を上げた。
ちなみに桃花のお父さんからは、桃花を通して何度もお礼をしたいので一度会いたいというアプローチを受けていた。
そして俺はそれをずっと断り続けていた。
なぜなら今回の件は、俺にとっては大したことじゃないからだ。
「桃花からはあのライオネル・グループの御曹司だと」
実質、後継レースから外れているとはいえ、俺は御曹司――これは本来「いいところのお坊ちゃん」くらいの意味だから嘘でもなんでもない――には変わらない。
そしてこういう時、その「虎の威」が何よりも役に立つ。
「はい、俺の実家はあのライオネル・グループです。だから俺にとっては全然、大したことじゃないんです。だからそんなにかしこまらないでください。俺、年配の方にかしこまられるのは大の苦手なんですよ」
偉大な父の――獅童の直系だというだけで、凡人にすぎない俺に政官財のトップ達が頭を下げにくる姿を、俺は何度も見せられてきた。
だが彼らは総じて俺ではなく、俺の後ろにあるライオネル・グループやグループ総帥である父さんを見ていたのだ。
それくらいのことは小さな子供だった俺でもわかる。
だから俺は年配の大人に頭を下げられることがすごく苦手だった。
それを心苦しく思わなかったことなど一度もありはしない。
俺自身には価値がないことを、突き付けられたように感じてしまうから。




