第45話 トウショウプライム?
桃花の話を端的に要約するとこういうことだった。
前回、桃花の実家に乗っ取りを仕掛けてきた大手取引先が、また別の嫌がらせをしてきたらしいのだ。
「なるほどね。下請けの取引先に圧力をかけることで、桃花の実家の町工場との取引をさせなくしているのか」
大企業ともなれば系列企業はもとより、下請け、孫請けと関連会社は多岐にわたる。
そこに圧力をかければ、かなり広範囲の取引を妨害できるだろう。
「うん、そういうことみたい」
「しかも前回はピンポイントの狙い撃ちだったが、今度は一対一でなく周りまで巻き込んで露骨にやってきたと。ちなみにその情報源は信頼できるんだよな?」
「お父さんとすごく昔から付き合いのある取引先の人が、こっそり教えてくれたんだって。うちと取引すると、今後の取引を切られるって言われたって」
「なるほど、そこまで具体的に教えてもらっているのか」
「そこもうちと同じで家族経営でね。だから大手に睨まれたら終わりだからどうにもできないらしくて。教えるのが精一杯だったみたい」
「そうだろうな。小さな町工場なんて1つ潰すのも2つ潰すのも大企業にとっては一緒だろうし」
大企業にとって、取引を打ち切る町工場の1つが2つに増えたところで大勢に影響はない。
「まだ契約中の仕事があるからしばらくは何とかなるけど、このままだと完全に仕事がこなくなっちゃうし、他も睨まれたくないだろうから新規も絶望的みたいなの。二か月後から仕事がほとんど入ってないみたいで」
どうやらそういうことのようだった。
典型的な優越的地位の濫用、いわゆる下請けいじめだな。
公正取引委員会に通報するなり裁判でもすればこの件では勝てるだろうが、ものすごく時間がかかるだろう。
町工場にそんな体力はない。
それに仮に裁判で勝ったとて、大企業に睨まれたままではどのみち先はない。
話を聞く限り、現状はほぼ詰んでいるに等しかった。
「その大手取引先ってのはダーダネルス電機だったよな」
「うん、多分そうだったと思うんだけど……」
「東証プライム上場、言わずとしれた大企業だ。なるほど、そんなところに睨まれたら一介の町工場なんてどうしようもないな」
「トウショウプライム……? あ、ウマ娘の話? わたしあんまりゲームやらないから詳しくないんだよね」
「……」
「急に黙っちゃってどうしたの?」
「たしかに競走馬の名前に聞こえなくもないが、そうじゃなくてだな」
「じゃあなに?」
桃花が小さく首を傾げた。
別にボケたわけではなく本当に知らないらしい。
「東証プライムってのは、わかりやすく言うと昔の東証一部上場。つまり日本の株式市場の最上位グループのことだよ」
「へー、そうなんだ」
あー、この反応は全然興味がなさそうだ。
ま、女子高生が面白がる話題ではないか。
俺はこれ以上の細かい話はやめて、話を進めることにする。
「オッケー、状況は分かったよ。俺としてはダーダネルス電機がなぜ桃花の実家を狙うのかを理由を知りたいところだな。桃花のお父さんは何か言ってなかったか?」
なぜだ?
ダーダネルス電機ほどの大企業が、どうして小さな町工場にこうも固執する?
それを解明しなければ、同じことの繰り返しになる。
前みたいな借金を立て替えるといった対処療法では限界があった。
「お父さんは心当たりはないって言ってたよ? お父さんはすごくフレンドリーだし、誰とでもすぐに仲良くなれるタイプなの」
「なら個人的な恨みって話ではなさそうだな」
「身内びいきを抜きにしても、お父さんは誰かに恨まれるような人じゃないと思うな」
「了解。なあ、桃花」
「なに?」
「桃花のお父さんと話をさせてもらえないかな?」
「えっ、それってまさか――」
皆まで言わずとも、桃花は俺の意図を察したようだ。
「ああ、やっぱり直接話さないとわからないことも多いしな」
「う、うん……! だよね……! やっぱりこういうことは直接話さないといけないよね……っ!」
なんだ?
なんだか桃花が妙に興奮しているような?
桃花の頬は赤みが差しており、声も妙に弾んでいる。
ああそうか。
俺が力を貸すって言ったから嬉しかったんだな。
まったく桃花は本当に一人で抱え込み過ぎなんだから。
「じゃあ俺は学校がない時はほぼ何時でもオッケーだから、桃花の方で会う日を決めてくれるかな?」
「うん、任せてよ!」
「お、おう」
なぜだか両手をグッと力強く握って鼻息も荒く答えた桃花に――実家の一大事とはいえそこまで気合いを入れることか?――俺はなんとも困惑を隠せなかったのだった。
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