第37話 深まる関係
◇
そんな風に放課後、桃花は頻繁に俺のタワマンに家事をしに来るようになった。
来る日も来る日も――完全に毎日ではないのだが――桃花は俺んちへと家事をしに来てくれる。
放課後まっすぐに一緒に来ることもあれば、桃花が友だちと遊び終わってから、わざわざ俺んちに寄ってくれたりと、やって来方は様々だ。
ただし泊まりはあの日以来、一度もない。
それは高校生の守るべき分別だ。
そんな生活が始まって、既に1か月が経とうとしていた。
「桃花も付き合いがあるだろ? 部屋もすっかり奇麗になったし、冷凍ご飯もストックがある。頻度を減らしてもいいんだぞ?」
ここでいう冷凍ご飯とは、お手軽な市販の冷食ではない。
桃花が晩ご飯を多めに作り、余った分を冷凍してくれたものを指す。
カレーなどを小分けにパックして、冷凍保存してくれているのだ。
よって、たとえ桃花が来てくれなくとも、桃花の冷凍作り置きご飯と市販の冷凍ものを組み合わせることにより、俺の食生活は外食なしでも見違えるほどに非常にクオリティの高いものになっていた。
しかし俺がどれだけ桃花に言っても、
「最低5か月はするって約束したでしょー」
桃花はそう言って聞こうとはしなかった。
だから最近は俺からはあまり言うこともない。
時々、思い出したように言ってみて、同じ言葉で返されて、そうかと納得する。
そんな感じだ。
そして放課後に、俺と桃花が帰りに遊んでから帰ることも増えてきた。
俺にとっては大したことじゃない5000万円のはした金で、桃花に家政婦のごとく尽くさせるのはやっぱり悪いと思ってしまうわけで。
俺としてはスイーツを奢ったりすることで、せめてものお返しのつもりだったのだが。
それが原因で、桃花は友人たちからさらにあらぬ想像をされてしまうことになる。
放課後の教室で、桃花と帰る準備をしていると。
「わっ、また獅童くんと放課後デート? やーん、桃花も春を満喫してるね~♪」
「だから正道くんとは、そんなんじゃないってばぁ」
「じゃあどんな関係なの?」
「それはその……言えないんだけど」
桃花がつぶやきながら、チラッと俺を見た。
俺が5000万円を払えるくらいの超金持ちというのは黙っていて欲しい、というのは桃花も知っている。
ゆえに本当のことは言えずに、言われるがままになってしまうのだ。
正直、桃花には申し訳ないんだが、俺としても平穏な高校生活を守るためにも、これだけは譲れないわけで。
「ほら~! やっぱり~!」
「隠さなくたっていいってば」
桃花の意味深な行動を見て、桃花の友だちがきゃいきゃいと楽しそうに盛り上がる。
「隠してませんー!」
「そうだよね、隠してないよね♪」
「うんうん♪ 見せつけまくってるよね♪」
「やーん♪ メローい♪」
「ああもう、違うから~~! ほら、行こう正道くん。長居したら、変な噂を立てられちゃうから」
「変な噂って、どんな噂~?」
「桃花に好きぴができたとか、そんな話~?」
「ねぇねぇ、どんな噂かなー?」
「あはーっ♪」
「しーりーまーせーん!」
プイッっと桃花はわざとらしく友だちから顔をそむけると、俺の手を引いて歩き出した。
早くこの場所から去りたいって気持ちが表れた無意識の行動なんだろうけど、教室で手を繋いでいたら余計に邪推されるよなぁ。
などと思いながら、俺は桃花に手を引かれるままに教室を後にしたのだった。
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