第35話 肉じゃが cooked by 桃花
お米を炊飯器にセットしたり、肉じゃがの準備をしたりと、桃花はテキパキと料理を進めていく。
教師役を終えて手持無沙汰だった俺は、家事をさせている間に俺だけ遊んでるのも悪いと思ってリビングの片づけを始めた。
リビングはある程度、桃花が昨日のうちに片付けてくれていたのだが。
正直要らないものも多いので、それらを片っ端からごみ袋に入れて処分していく。
「捨てる勇気、捨てる勇気――っと。よし、これも要らないな」
桃花に教えてもらった片づけの極意を、俺は次々と実践していった。
「片づけはどうにも面倒で、つい後回しにしちゃってたんだが。一度やる気になるとこれはこれで楽しいもんだな」
俺の口からは独り言が漏れこぼれる。
部屋がどんどん片付いていくことが、存外に俺の心を高揚させていた。
俺の中に片づけのコツをつかみつつある感覚があった。
ここまで来たらあとは習慣づけるだけだ。
そんな風に片づけをしながら、必要なものの選別にしばらく没頭していると、
「正道くん、そろそろご飯だよ~」
キッチンから桃花が声をかけてきた。
「もうそんな時間か」
時計を見ると、いつの間にか片づけを始めてから1時間以上が経過している。
かなり集中して片づけ・分別をしていたようだ。
「かなり集中してたみたいだね」
「なんだか途中から楽しくなってきてな」
「わかる~! 片付いてくると、もっと奇麗にしたくなってくるんだよね」
桃花があははーと楽しそうに笑う。
俺はキリのいいところで作業を切り上げると、キッチンへと向かった。
「なにか手伝うことはないか?」
「そうだね、じゃあ盛り付けたお皿を出してもらえる?」
「了解」
俺は桃花の指示に従ってお皿や茶碗を出していく。
そうして昨日と同じく料理の並んだリビングのテーブルで、桃花と向かい合って座ると。
「今日も晩御飯を作ってくれてありがとう。いただきます」
桃花に感謝の気持ちを伝えてから、手を合わせると、まずはメインの肉じゃがにファーストバイトの狙いを定めた。
ジャガイモを箸で掴んで口に入れた瞬間、俺の身体に稲妻が駆けめぐった。
「どうかな? 肉じゃがはわたし的にはかなり得意な料理なんだけど。正道くんは舌が肥えてそうだから、もしかしたら口に合わないかも? でも冷凍食品がいけるから意外と大丈夫なのかな?」
不安げな上目遣いで尋ねてくる桃花。
俺の答えは――
「すごく美味しい。味が染みていて、身体にまで染み入ってくるようだ」
「わっ、やった♪」
桃花がグッと両手を握った。
「いや、マジで美味いよ。実家の日本料理シェフ並みだ」
「あはは、さすがにそれは言い過ぎかも? 嬉しいけどー」
「言い過ぎなもんかよ。これならどこで出しても通用するっての。俺が保証する」
朗らかなやり取りはしかし。
「ライオネル・グループの跡取り息子に保証してもらえたら、すごく自信になるよね、ふふっ」
「――あ、ああ。うん、自信を持ってくれよな」
跡取りという言葉に、俺は一瞬言葉を詰まらせてしまった。
なぜなら俺は後継レースから脱落しているから。
ライオネル・グループを継ぐのは平凡な俺ではなく、麒麟児と呼ばれる双子の弟の修二だろうから。
もちろん直接言われたことはないが、周囲がそう思っているのは間違いない。
俺だってそれが正しいと思う。
弟の修二と違って、俺には見えないものが多すぎる――
そんな俺の反応を見て、
「えっと、どうしたの?」
桃花が少し困惑したように尋ねてきた。
おっとと。
何をやってんだ俺は。
「ああ、いや。なんでもないよ」
「そう? なんか辛そうな目をしてたけど。わたしの気のせいかな?」
「完全に気のせいだな」
「……そう? 肉じゃが、やっぱり口に合わなかったとか?」
「肉じゃがは文句なしに美味しいっての。っていうか考えてもみろよ、タワマンの最上階に住んでお小遣いを月に1000万円もらって、辛いわけがないだろ?」
「あはは、それはそう」
「話が逸れたけど。この俺が保証するんだから、みなぎるような自信を持ってくれよな」
俺はことさらに笑顔を作ると、右手で力強くサムズアップしてみせた。
「えへへ〜」
桃花がにへら〜と嬉しそうに笑う。
それで変な空気は綺麗サッパリと無くなってくれた。
「さてと、話すのはこれくらいにして、もりもり食べさせてもらうとするか。出来立てのうちに食べないと、失礼ってなもんだからな」
「どうぞ召し上がれ♪」
その後も、俺は桃花の手作り料理を堪能したのだった。




