第34話 やる気を引き出す家庭教師・正道
買い物を終えて家に帰ると、まずは軽く桃花の宿題を見てあげる。
「宿題は後でやるよ?」
「いいや、大した量でもないしさっさと終わらせよう」
「……はい」
力なくうなずいた桃花とリビングのテーブルで横並びになると、数学の問題集とノートを開く。
「じゃあ数学から始めよう」
桃花は数学が苦手らしいので、数学を重点的に行う予定だ。
「数学きら~い! ほんときら~い!」
するとしょっぱな、始める前から桃花は机にぐて~!と倒れこみ、数学への苦手意識を隠そうともしない――というか見せつけてきた。
「ふむ……」
これは個別の問題の解き方だけを教えても意味がなさそうだな。
そう思った俺は小手先の解き方ではなく、数学が少しでも楽しくなるように――根本的な理解ができるようにと、単元の概念とかそういうところも交えながら、丁寧に教えていくことにした。
すると最初こそしんどそうな顔をしていたものの、途中から目に見えて桃花の態度が変わってきた。
同時に桃花の理解度が深まっていくのが、教えている俺にも伝わってくる。
「ふんふん、そういうことね! じゃあこれはこうなるから……こうでしょ?」
「正解」
「やった!」
苦手という割に、思ったよりも飲み込みが早いな。
変な苦手意識があるだけで、数学への理解度は決して低くないようだ。
まぁ、そこそこ進学校なうちの高校に入学しているんだから、当然と言えば当然ではあるんだが。
スポンジのような桃花の吸収力の良さに、俺は次第に教えるのが楽しくなってしまい。
桃花の理解がより深まるように、反応を見つつあれこれ思案しながら、数学の問題を一緒に解いていった。
「なーるほど! 今日で数学が一気にすっごくわかったかも! なんか頭がクリアな感じ!」
「そりゃよかった」
「うん、良かったの! あんなに苦手だったのに、すごいね正道くんは!」
最後の辺りでは10言えばバッチリ10を理解してくれるようになり、お礼を言う声も表情も目に見えて弾んでいる。
「桃花がすごいんだよ。俺は一緒に宿題をやりながら、数学がどういものかを教えただけさ。偉いのもすごいのも一番は桃花自身だ」
「そんなことないしー。数学はずっと苦手で、やだなぁ、やだなぁ、わかんないなぁって思ってたんだけど。今日は頭の中で『わかった!』感が大きいんだよね。これ絶対、正道くんの教え方がすごかったんだって!」
「あはは、サンキュ桃花」
「正道くんって絶対、教える才能あるよね。やる気が引き出されるっていうか? 正道くんに勉強を見てもらえてラッキーかも!」
褒め褒め村の、ホメホーメ村長になった桃花。
「じゃあ2人ともすごかったってことで、いいか?」
俺がWIN-WINな平和的解決策を提案すると、
「へへーん、だねっ♪ わたしたちすごいよねー♪ んっ!」
桃花がにへらーと笑いながら握った右手を突き出してきたので、俺も同じように右手でグーを作ると、小さくこつんと拳を合わせたのだった。
その後、英語の宿題もこなすと、すっかりいい時間になっており。
「そろそろ晩御飯を作るね。正道くんは好きなことしてくれていいよー」
桃花はエプロンをすると、晩御飯の準備を始めた。




