第33話 放課後のスーパーで、制服桃花とお買い物
桃花に連れられてやってきたのは、高校から俺のタワマンに帰る途中にあるスーパーマーケットだった。
「わっ、今日は創業祭で超特売日だって!」
特売というワードに桃花がはしゃぐ。
「みたいだな。というかなんでスーパーなんだ? 親に買い物でも頼まれたのか?」
「なんでって、食材を買わないとお料理できないでしょ?」
「ああ、今日は桃花が家の晩御飯の用意をするのか。借金がなくなって落ち着いたって言ってたけど、なんだかんだで家族経営は大変だよな」
俺は家にほとんど帰らない多忙な父親を、桃花の実家の町工場の経営に重ねながら、のほほんと答えたのだが。
「なに言ってるの? 正道くんの晩御飯に決まってるでしょ?」
桃花が呆れたように言った。
「え? 俺の?」
「正道くんの晩御飯を作りたいけど、正道くんのお家には食材が全然ないから買い足しに来たんだよ?」
「いやいや、なに言ってんだよ? 今日も晩御飯を作りに来るつもりなのか?」
「うん、そうだけど」
「なんで?」
「なんでって、5か月間はご奉仕するって約束だもん。さすがに2日目で破ったりはしないよぉ」
「いやいや、桃花に無理強いはしないって言ったよな? 俺は桃花に幸せになって欲しいんだから」
「じゃあ無理じゃないからOKってことだねっ」
「お、おう」
なぜだかそういうことになってしまった。
ま、もう知らない仲でもないし、自発的に作りに来てくれるってんなら断る理由はないだろう。
桃花の気が済むまで好きにしてもらおう。
「それより見てみて! 牛コマがすっごく安いよ」
「ギュウコマって?」
「牛のコマ肉のこと。今日は家庭料理の定番、肉じゃがを作ろうと思ってるんだよね~」
俺の了承を得た桃花は完全に「その気」で、俺はもうたじたじである。
「わかった。でも代金は俺が払うからな?」
「そこはまぁ? 正道くんのお財布に最初から頼るつもりだったんだけどね? えへへっ♪」
桃花がいたずらがバレた小さな子のように、もじもじと笑った。
「そりゃどう考えても俺が出すべきだからな。任せとけ」
うなるほどの金があり、しかも料理を作ってもらう立場なら、そりゃ俺が金を出さなくてどうするって話なわけで。
「ありがとー♪」
「でも本当に無理はしなくていいんだぞ?」
「お料理は好きだから。それに正道くんに作ってあげたいし――なんちゃって! やんっ♪」
桃花が早口で何事か言いかけながら、くねくねと身体をよじった。
何してるんだろうと一瞬、思ったものの。
しかしその時の俺は、小さな子供連れのお母さんがすぐ脇を通り、俺と目が合ったその子が一生懸命に手を振ってきたのに手を振り返していたのもあって、桃花の言葉を聞き逃してしまった。
「ごめん、なんだって? よそ見していて聞き逃した。子供が手を振ってきてさ。だからもう1回言ってくれないか?」
「なんでもないですぅ!」
なぜだか目を吊り上げて怒った様子の桃花(それでも可愛い)。
「なんで急にキレてるんだよ?」
「キレてないですぅ! ふーんだ、正道くんのばーか! ギュウコマはセールのじゃなくて一番高いの買っちゃうもんね!」
なぜか顔を赤くした桃花はそう言うと、踵を返してずんずんと歩きだした。
「ああおい、どこ行くんだよ」
「野菜コーナーですぅ! 肉じゃがに入れるスナップエンドウを買わないとだもんっ」
怒っているというよりは、恥ずかしがっているのか?
いや、どうだろうか?
よくわからない。
「急になんだってんだよ? 女の子って難しいなぁ」
俺は肩をすくめると、桃花を追って歩き出した。
しかし追いついてみると、
「ねぇねぇ、今日はスナップエンドウも特売みたい。多めに買ってもいいかな? 野菜サラダにも使えるし」
桃花はすっかりいつもの調子で普通に接してきて、俺は拍子抜けしたのだった。
「値段は気にしないでいいし、好きなだけ買ってくれて構わないよ」
「どうせ買うなら安い方が嬉しいでしょ?」
「ごめん。桃花相手だから正直に言うんだが、今まで生きてきて買い物で値段を気にしたことはないんだ」
「あはは……」
その後、買い物を終えた俺と桃花は――荷物はもちろん俺が持った――俺の住んでいるタワマン最上階へと向かった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
6月発売予定の新刊2冊の準備・宣伝と、別の商業原稿の締め切りがあって、現在かなりたてこんでおります。
そのため毎日更新 → 隔日更新と変更させていただきます。
ラブコメパートもここで終わり、ラストスパートで一気に盛り上がっていくところで大変申し訳ありませんが、なにとぞご理解いただけますと幸いです。
今年の三月に身体を壊して以来、これまでみたいに根性で毎日4時間睡眠でデスマーチ!みたいな無理がきかなくなっちゃったんですよ……
ボクは弱い……




