第3話 獅童正道と花宮桃花は対話する。
「なにか大変なのか?」
気になった俺が尋ねると、
「え? ううん! 何でもないの! 独り言だから、今のは忘れて」
あはは、と花宮さんがあっけらかんと笑う。
胸の前で両手を左右にブンブン振って否定するが、その仕草が妙に嘘っぽく見えた。
なにより俺としては聞いてしまった以上は、見過ごすわけにはいかないわけで。
クラスメイトがついこぼしてしまった本音を聞いて、知らぬ存ぜずを突き通すほど俺は薄情者ではない。
さらに言えば、さっき誤解で抱きついてしまった汚名を挽回したい気持ちもあって、俺はいつになく積極的に花宮さんの話に食いついた。
「いやいや、今のを聞かなかったことにはできないっての」
「本当に何でもないんだってばー」
「なんでもないなら、話せるってことだよな?」
「わっ、なにそれトンチ? 獅童くんって、もしかして名前は一休さん?」
「残念、正道だよ。正しい道って書いて、獅童正道だ」
「ふふっ、知ってるよー。クラス委員長に立候補した時に黒板に書いてたでしょ? 獅童くんらしい、まっすぐな名前だよね」
「褒めてくれてサンキューな。それよりほら。これも何かの縁だと思ってさ。話を聞かせてくれないかな?」
俺は美人と評判の母親ゆずりの笑顔で、花宮さんに微笑んだ。
真面目3割、心配3割、優しさ3割くらいの配分を意識する。
相手の悩みごとを聞く時は、真剣な顔をし過ぎるのもよくなかったりする。
イソップ寓話の北風と太陽じゃないが、まずは君の心に寄り添うよって態度が相手の心を開くのだ(ケースバイケースだが)。
もちろん顔がそこそこいいのも、親ガチャSSRの一つである。
「はぅ――」
すると花宮さんが可愛らしい声を上げながら、ビクリと肩を震わせた。
ずっと俺の目を見て喋っていた花宮さんが、もじもじした様子でフッと視線を逸らす。
そわそわしているところから察するに、悩みを言うか言わないかで悩んでいるんだろうか?
でも悩んでいるってことは、絶対に言えないってわけじゃないよな。
俺は最後の一押しをする。
「だめかな? 誤解とはいえ、さっき抱き着いちゃったお詫びに、花宮さんの力になりたいんだ。それにほら、誰かに話すだけでも気持ちが軽くなるかもだしさ」
俺は笑顔に加えて、優しい声色でゆっくりと語りかけた。
「じゃあ……話だけでも、聞いてもらってもいい?」
視線を戻した花宮さんが、少し上目遣いになりながら言った。
「決まりだな。そこのファミレスでご飯でも食いながら話そうぜ」
「あっ、わたし――」
「どうした?」
「その、今はちょっとお財布がピンチで……」
少し恥ずかしそうに、同時にとても辛そうに目を伏せた花宮さん。
俺はここぞとばかりに言った。
「無理に誘ったのは俺なんだから、晩ご飯くらい奢らせてよ。ちょうど小遣いが入ったばっかりだからさ」
ちょうど一昨日、今月分の小遣い1000万円の入金があったばかりだ。
金の話なら高校生最強の俺に任せとけ!
――とは、もちろん言わないんだけれど。
「……」
俺の提案に、少し悩む素振りを見せる花宮さん。
実を言うと、普段の俺はここまで他人の事情を深追いはしないタイプの人間だった。
というのも俺自身が、実家のこととか両親と比べて不出来な自分について深堀りされるのが、あまり好きじゃないからだ。
「どうかな?」
だけどさっき橋の欄干に手をかけて遠い夜空を眺めていた花宮さんの姿が、俺の心に訴えかけてくるんだ。
「誰か話を聞いて、私の悩みを聞いて」って語りかけてくるのだ。
俺はその直感を信じた。
俺が爽やかスマイルで、花宮さんの目を見ながら返事を待っていると、
グ~~!
花宮さんのお腹が「返事代わりだよー」と言わんばかりに、美少女らしからぬ大きな音をあげた。
「あ――っ!」
慌てた様子で、両手でお腹を押さえる花宮さん。
その顔は真っ赤に染まっている。
「今度こそ決まりだな。実は俺もお腹ペコペコなんだよな」
空腹を意識したからか、
グ~~!
今度は俺のお腹が盛大に鳴った。
花宮さんと俺は目を合わせるとどちらからともなく、クスクスと笑い出した。
「……じゃあ奢ってもらうからね?」
「任せとけって」
俺は投げ捨てたまま放置されていたマイ通学鞄を拾い上げると、花宮さんと連れ立って、すぐそこに見えていた有名チェーンのファミレスに入った。
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