第27話『正しい道』
「……っく、……だって」
「うん」
俺は小さく相槌を打って、そっと先を促す。
「5000万円も援助してもらって……あんなにすごいことしてもらったのに……わたしには何もできなくて……何もなくて……お礼できなくて……こんなことくらいしかできなくて……」
桃花の声が震えていた。
震える声を必死に振り絞って、桃花は俺に想いを伝えてくる。
桃花にここまで強い決意を強いてしまっていたことに、まったく気付かないなんて。
俺ってヤツは、本当に救いようがない。
だけど後悔と反省をしているだけじゃ、もっともっと救いようがないから。
だって桃花は今、俺の目の前で泣いているんだ。
今、桃花の涙を拭いてあげられるのは俺しかいないのだから。
桃花の決意を見誤り、桃花を泣かせてしまった俺には、せめて桃花の心を解きほぐしてあげる義務があるのだから――!
「だからって大切な身体を俺に捧げるなんてしちゃいけないよ。まったく、桃花は変に義理堅いんだから」
「だって……、でも……わたしにはこれしかなくて……」
「こうやって一生懸命な想いを見せてもらえただけで、俺は十分満足さ」
「そんなっ、想いだけじゃとても釣り合わないもん」
「それは逆だよ桃花」
「え――?」
「俺は想いこそが一番大切だと思ってる。俺はさ、自分に課しているんだ、誰よりも『正しい道』を歩めってな」
「『正しい道』……、それって正道くんの名前――」
「ああ、俺は獅童正道。偉大な両親から、正しい道を歩むようにと名付けられた男だから。この想いこそが、俺の全ての原動力なんだ」
俺は偉大な両親から生まれた、悲しいくらいの凡人だ。
才能という才能を全て、双子の弟に持っていかれた残りカス。
だけど想いだけなら。
己の心の在り方だけなら。
偉大な両親にだって、弟にだって負けないでいられるはず。
ゆえに名付けられたこの名の通りに、俺は「正しい道」を歩み続けてみせる。
想いだけは決して誰にも劣らないことを、俺は俺の生きざまで証明してみせるのだ――!
俺は正しい道を歩むべく、俺の想いを桃花に語り掛ける。
「まず大前提としてなんだけどさ。俺は桃花を幸せにするために助けたんだ。好きでもない男に身体を捧げるなんて、そんな不幸な目にあわせるためにじゃないよ」
「ぁ――、それは――」
ド正論を投げかけられた桃花が、言葉に詰まった。
「だろ?」
「でも――」
「でももヘチマもないっての。俺にとって大事なのは、桃花が幸せになることだった。それが叶った時点で、俺が桃花を助けたお礼はされたようなものさ。幸せになってくれてありがとう。だから家事だのなんだのは、俺にとっちゃついでの心づけみたいなもんだ」
「……うん」
「だっていうのに、好きでもない男に身体を捧げるなんて不幸な目にあったら、せっかく助けた意味がなくなっちゃうだろ?」
最後のところは、俺としては気持ち冗談っぽく言ったつもりだったのだが、
「ぁ……ごめんなさい」
桃花はとても弱々しい声で謝罪の言葉を伝えてきた。
「ごめん、今のは別に桃花を責めたわけじゃないんだ。ただ知って欲しかったんだ。俺は桃花に幸せになって欲しいってことをさ」
そう言うと俺は身体をぐるっと180度回転させて、ベッドの中で桃花と向き合った。
遮光カーテンの隙間からうっすらと月光が入ってくる薄暗闇の中、超至近で桃花と視線が絡み合う。
「はわ――っ」
桃花は目を大きく見開くと、逃げるように背中を向けようとしたが、俺はそれを許さない。
桃花の身体をそっと抱いて告げる。




